「ペーパーレスは効率化に必要なのか?」
こう聞かれたら、あなたはどう答えるだろう。
コロナの影響でリモートワークが普及しはじめたいま、「ペーパーレスがいいに決まってる」と断言する人は多いんじゃないだろうか。
でも「ペーパーレスが効率化に必要か」を考えるなら、そもそも「なんのためにどの作業を効率化したいのか」をはっきりさせないといけない。
目的がなければ、最適な方法なんて見つけられるわけがないのだから。
それなのに最近、どうにも「目的なき効率化」が目に付く。
なんのために効率化するかの前提を共有しないまま、「ペーパーレスのほうがいいに決まってるじゃん」と、こうくるわけだ。
効率化の本質は、「目的を明確にしてムダをあぶり出し、それを省いて最適化すること」にあるはずなのになぁ。
「今すぐペーパーレスを徹底」が効率化に必須なのか?
効率化する手段として、ペーパーレスは代表的なもののひとつだ。
現代における一般的な仕事は、やろうと思えば、ほとんどペーパーレスで進めることが可能です。そのため、もしどこかで紙を使っているのであれば、今すぐペーパーレス化を徹底してください。
昨今のデジタル社会において、紙は非効率です。
そのひとつの理由に、紙だと情報を検索することができません。(……)資料は紙ではなくデータで取っておくべきです。そうすれば検索をかけて、必要なときに瞬時に取り出すことも可能です。
もうひとつの理由は、同期ができないこと。
同期ができない=共有化がしづらいということです。(……)ペーパーレス化してパソコンに保存してあれば、共有したいときにメールなどで送信するだけですみます。必要があれば、そこからプリントすることも簡単です。
出典:『すごい効率化』
これを読んだら、99%の人は「たしかに紙より電子化したほうが効率的だ」と思うだろう。
でもわたしは、実は結構なアナログ派だ(さすがに原稿はパソコンで書くけど)。
記事のアイデアはノートにメモ。
思いついたことを箇条書きにして、矢印を引っ張って書き加え、ボツ案には斜線を引いて……
そうやって記事の内容や構成を手書きで全部整理してはじめて、パソコンを起動する。
原稿をパソコンで書いたあとはプリントアウトし、赤ペンで推敲。
いろいろと書き加えて、それをもとにパソコンで原稿を修正。
それを何度か繰り返して原稿を完成させる。
パソコンと向き合っている時間より、ペンを握っている時間のほうが長いくらいだ。
「なんで手書きなの」と聞かれても、「それが一番やりやすいから」としか言いようがない。
ペーパーレスにすることは可能だけど、わたしにとっての最適解は「手書き」なのだ。
手書きと電子化は一長一短で「絶対こっち」とは言い切れない
とはいえ、個人的な好みを理由に、「ペーパーレスが絶対正義じゃない!」と騒ぎ立てるつもりはない。
ただ、「紙は非効率だからペーパーレスにしましょう。それが効率化です」と断言されてしまうと、「うーん?」という気持ちになってしまう。
いやまぁね、たしかに紙は検索できないし、同期できないよ。
でも、手書きならデジタル音痴でも自分の頭の中を可視化しやすいし、紙なら全体像を把握しやすいという強みもある。
パソコンで作った資料をわざわざプリントアウトする人や、パソコンで打った原稿を印刷して手で推敲する人がいるのは、それなりにメリットがあるからだ。
もっと正直にいうと、ずっと画面を見てると眠くなるからペンを握って手を動かしていたいし、思いついたことをメモするためにいちいちパソコン開いてアプリケーション起動してタグ付けして管理して……が面倒くさい! だから手書きがいい!
電子化にはシステム設備が必要になるし、サーバーダウンのようなトラブルがあれば一斉に業務が止まってしまう。
「紛失のおそれがある紙より電子化したほうがいい」という主張もわかるけど、サイバー攻撃のことを考えると、「電子化=安全」とも言い切れない。
どんなやり方にもメリットとデメリットがあるわけで、それぞれの仕事内容や環境によって最適解が異なるのは当然のことだ。
それなのに、効率化の話になると、アナログの悪いところばかりを並べ立てて電子化を持ち上げることが多い。
ペーパーレスが効率化の最善手であることもあれば、手書きによってスムーズに進む仕事もあるんだけどなぁ。
目的がない効率化は自己満足でありズレている
そもそも、「なにに対して適した手段を探すか」をはっきりさせなければ、方法論の答えなんて出せないはずだ。
でもなんだか、そういう話をせず、「最新で最速手段がベスト!」ってなりがちなんだよなぁ。
資料を大人数でシェアしたいなら、電子化してクラウドサービスを使ったほうがいい。
やるべきことをToDoリストで管理したいなら、付箋でデスクのはしに貼り付ければいい。
意思決定が目的の会議なら、決まらない会議はムダだ。
社員同士の交流や報告が目的の会議なら、上司がプレッシャーをかけるトップダウン式会議はムダだ。
目的がはっきりしていれば、「なにがムダか」はおのずと明確になる。
そこではじめて、「最適な仕事環境のためにこうしよう」と効率化の話ができるのだ。
移動の効率を考えるなら車だけど、ダイエットが目的なら徒歩や自転車を使うほうがいい。
でも目的があいまいなままだと、「車のほうが速いから車がいい、徒歩は非効率」なんてズレた極論になってしまう。
そのうえ、多くの人は「そうだそうだ、徒歩は非効率だ!」と同意するのだから目も当てられない。
「いやいや、効率化は目的ありきでしょ?」と思わず苦笑いしてしまう。
目的なき効率化は、ただの自己満足だ。
効率化の本質は最適化にあるから、目的をお忘れなく
誤解されがちだけど、効率化のゴールはたぶん、ムダをなくすことじゃない。
ムダをなくすのはあくまで、「最適なもの以外排除する」ため。
で、なぜ最適なもの以外を排除するかというと、もっとも適した状態、つまり最適化したいから。
その時々で適したやり方はちがう。
だからそれを探そう、そうでないムダな部分をなくしていこう、とまぁこれが「効率化」の本質のはずだ。
そう考えると、「紙は非効率だから効率化のためにペーパーレスにしよう」というのは、ちょっと正しくないような気がする。
「電子化したほうがいいのに紙を使い続けているのはムダだから、そこをペーパーレスにしよう」というほうが正しいんじゃないだろうか。
それこそ、印鑑をもらうために社内を走り回るとか、そういうやつ。
でも電子化が適していない場面でペーパーレスを推進しても、それは効率化にはならない。
わたしがいままで手書きで行なっていた作業をすべて電子化したところで、仕事がしづらくなるだけだ。
つまり、効率化というのは、
どの作業をどういう目的で効率化したいかの目的設定する
→目的達成に不要なムダな部分をなくす
→最適な状態にする
という順番で行うべきなのだ。
目的がないまま効率化なんて、できるわけがない。
方法論ばかりが一人歩きしているいま、「なんのためにどの作業を効率化したいのか」という原点に立ち返ってみることが大事なんじゃないか、と思う。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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