起業したと聞いていた、昔の同級生と会った時のことだ。
システム関連の彼の会社は、創業から3年余りで従業員50人を数えるほどに成長し、さらに会社を大きくする予定だという。
当時、事業再生の仕事を担っていた私は、正直、短期間で会社を成長させた彼のやり方に興味があった。
そこで率直に、会社を大きくする彼なりの経営方針について尋ねてみた。
「色々あるけど、一つは裁量労働制と固定残業の合わせ技やな。使い勝手がいいし、人件費が抑えられるんや。」
「え?どういうことだ?」
「ウチの場合、月額20時間分の固定残業代をエンジニア全員に支払ってる。でも、月間の残業時間が50時間以下になるエンジニアはいないんだわ。つまり、追加の人件費がかからないので、人件費を抑えられてるってことやな。言葉は悪いけど、定額働かせ放題ってことや。」
「いやお前、それ制度の本来の使い方じゃないし、違法だろう。」
「そうか?社労士にも相談しながら進めてるけど、法的な問題を指摘されたことなんかないけどな。新卒の新入社員でも4ヶ月目から裁量労働制にしてるけど、特に怒られたことはないぞ?」
堂々としたクズっぷりは清々しいほどだが、言うまでもなくこれは、本来従業員に支払う報酬を掠め取って利益を上げているだけだ。
強い立場を悪用した恐喝ともいえる行為であり、それによって上がった利益は経営者の能力の高さなどでは決してない。
いろいろと胸クソが悪くなり、思い出話もそこそこに20分ほどで彼の会社を後にした。
しかしながら、中小ベンチャーの経営者には、このような考え方をする人が本当に多い。
すなわち、
「どうやったら、もっと従業員を働かせることができるか」
という発想の経営者だ。
しかし断言するが、リーダーの役割とは
「どうやったら、従業員をもっと働かせることができるか」
ではなく、
「どうやったら、従業員にもっと楽をさせることができるか」
を考えることだ。
残念ながら、その本質がわかっている経営者にお会いできることは、本当に少ない。
「楽をして」儲けていた経営者の話
数は少ないものの、そんな発想で会社を大きく成長させている経営者にお会いしたことがある。
業績を伸ばし、近いうちにIPO(株式の新規上場)まで行くことが確実視されていた会社の社長だった。
お酒が入っていたこともあり、
「桃野さんは事業再生をおやりになっているということですが、従業員から『できません』と言われることが多いのではないでしょうか。その時は、その言葉に真剣に向き合って下さい。」
と、熱っぽく語りかけてきてくれた。
「『できません』は『できます』の裏返しなんです。できない理由を真剣に聞いてあげれば、従業員は必ず答えてくれます。」
「なるほど。」
「できない理由を聞かせてくれたら、経営者は、できない理由を取り除いて上げればいいだけなんです。簡単なことです。」
「わかるような気がします。」
「もう一つ、あります。例えば1ヶ月で50万円売り上げる並の営業マンと、1ヶ月で100万円売り上げるトップ営業マンの一番の違いは、わかりますか?」
「なんでしょうか・・・。ぜひ教えて下さい。」
「いろいろな理由はありますが、一番大きな違いは時間の使い方です。1ヶ月で50万円売れるなら、2ヶ月あれば100万円売れます。2ヶ月分の仕事を1ヶ月でできれば、並の営業マンもトップ営業マンになれるんです。」
「なるほど。その場合、残業はどうさせてるんですか?」
「残業はさせません。無能なリーダーは、成果が上がらない部下を倍の時間、働かせようとします。できるリーダーは、同じ仕事を半分の時間でできるようサポートします。万が一、『できるまで帰るな』というような無能なマネージャーがいれば、そのような幹部はクビにしなければなりません。」
その後も熱っぽく話は続いたが、行き着くところはシンプルだ。
「経営者は、できるだけ楽に成果が上がる仕組みを会社に用意することが仕事」
「そうすれば、あらゆる仕事の時間が短縮され、自ずと利益が上がる」
である。
難しい事のようだが、
「何に困っているのか」
「できない理由はなにか」
という従業員・部下の悩みに真摯に向き合うだけ。
言ってることはただそれだけのことだ。
最後に一つ、気になっている疑問をぶつけてみた。
「社長、仰ることはわかりますが、『できない理由』を次々に考え出す社員はいないのですか?」
「いますよ。意欲のある社員は、『できない理由』を一つ一つ解決してあげると、どんどん顔が明るくなるんです。しかし中には、どんどん暗くなっていく者もいます。できない理由がなくなることがプレッシャーなんです。そうなればその仕事は向いていないので、配置換えを考えてあげます。」
できない理由を問い続け、そして解決し続けることは時に従業員を追い詰め、やり方によっては今で言うパワハラにもなりかねないので注意して欲しい、という意味だ。
もう20年近く前の話だが、その会社は今も順調に成長を続けている。
なぜ日本の生産性は低いのか
近年、日本の労働生産性はOECD諸国の中でも、残念ながら平均以下に低迷している。
以下の図が示すように、一人あたりの労働生産性も、時間あたりの労働生産性も、米国を100とした際にそれぞれ60前後という非常に残念な数字だ。
つまり長時間働き、それでも付加価値、すなわち給料が低いことを表している。
理由は色々あるだろうが、そのうちの一つに
「楽をすることは許されない」
と考える文化が、日本には特に根強いということはないだろうか。
裏を返せば、従業員一人ひとりの立場でも、
「今日の仕事はもう終わってるけど、あからさまに暇な様子は見せられない」
「もう帰りたいのに、課長がいるから申し訳なくて帰れない」
というような文化だ。
そのため仕事を早く終わらせることではなく、終業時間から逆算してちょうどいい時間に終わるように仕事を調整する。
とはいえ従業員の立場から見れば、何をどうしたところで就業規則や雇用契約で労働時間の定めがあるので、このような価値観になってしまうのは無理もない話だ。
与えられた仕事を全て完璧に終わらせたとしても、就業時間中にカフェに息抜きに行くことを認めている会社など、ほとんど聞いたことがない。
机に座っていることが仕事ではなく、与えられた業務を消化することが仕事であるはずなのに、就業時間中は目一杯、従業員を拘束することが目的化している会社はとても多い。
こんなことをしていては、いつまで経っても生産性は上がらない。
いつまで経っても会社は儲からないし、従業員の給与も上げることはできない。
もちろん業種や職種によって一概には言えないが、経営者はもっと、
「楽をしてさっさと仕事を終わらせること」
を、定量的に評価する発想を持つべきではないだろうか。
その日やるべき仕事が全部終わったのであれば、なんなら午前中で帰ることを認めても、それほど多くの問題は発生しないだろう。
そうなれば従業員も、驚くほどの集中力で必死になって仕事を片付け、午後からは楽しくリフレッシュして、翌日への英気を養ってくれるはずだ。
リーダーの仕事は「部下に楽をさせる方法」を考えること
しかし残念ながら、先述のように日本の経営者、とりわけ中小企業の経営者は、
「どうやったら、従業員にもっと楽をさせることができるか」
ではなく、
「どうやったら、従業員をもっと働かせることができるか」
ばかり考えている。
無能な経営者ほど、支払った給料分、労働基準法が認める範囲内で目一杯働かせないと損だとすら考えている。
従業員が楽に仕事ができる仕組みやルールを導入する、すなわち生産性を上げることが会社の利益の源泉であるにも関わらずだ。
この事実は、事業再生の現場でも多くのことを体感として経験した。
営業成績が伸びない時に、
「寝ずに仕事をしろ!」
と、長時間労働でリカバリーすることを部下に強要していた営業部長。
ある経営トップは、年間休日数96日を114日に、つまり19%増やして労働時間を減らす代わりに10%の給与カットとなる制度を選択できる人事制度を導入しようと役員会に提案した時、
「労働基準法の上限まで働かせているのに、却って損になるだろう」
という理由で反対してきたこともあった。
いずれも、自分の能力の無さを少しでも長い時間、従業員を働かせることでリカバリーしようという発想だ。
本来は、「より短い時間で、より多くの成果を上げるにはどうすればいいか」を考えるのが経営者の使命ではないのか。
すなわち、
「どうやったら、従業員にもっと楽をさせることができるか」
という発想だ。
それが生産性であり、皆がより多くの給与を受け取ることができる、有効な近道であるはずだ。
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大学卒業後、大和證券に勤務。中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。
先日、運営しているブログで読者との賭けに負けてしまい、近いうちにスキンヘッドにしてアップすることになってしまいました。
まあ元々薄毛なんでどっちでもいいんですけどね。
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fecebook 桃野泰徳
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