ながく採用をやっても、依然として採用は難しい
私の仕事はメディアで記事を書くことや、webマーケティングの支援だが、時に並行して、採用を手伝うことがある。
具体的には、以下に挙げる作業などだ。
・採用計画(何人・どんな人を採用する?)
・採用メディア・エージェントの調査交渉(どこから応募者を集める?)
・応募要項の作成・スカウトメール(手を動かす)
・面談設定(調整!)
・面接の標準化(質問の標準化と面接官の訓練)
・辞退への対処と再発防止(歩留まりのチェックと改善)
これらは一つには、現場の感覚を失わないため、および記事の取材のためでもあるのだが、こうして自分で手を動かすとよくわかる。
マーケティングと採用は「商品」を売るか「自社」を売るかの違いはあれど、やるべきことの多くは共通している。
このように言うと、
「商品を売るほうが難しいのでは?」
という疑問を投げかけられることがある。
これは、採用するかしないかの決定権は自社にあるが、購買の決定権は顧客にあり、自社だけでは決められないから、という理屈だ。
残念ながら、それは事実とは異なる。
来てくれれば誰でもいい、という会社であれば別だが、優秀な人を採用しようとすればするほど、自社よりも応募者のほうがはるかに立場が強い。
だから実はほとんどの会社にとって、来てほしい人ほど「決定権は応募者にある」のが普通である。
これは商品を売るのとさほど変わりない。
よほどブランドのある会社なら別かもしれないが、むしろ、多くの中小企業にとって「採用」とは、簡単にモデルチェンジできる商品を売るよりも、よほど難しいのである。
自分のやっていることが「正しい」のかどうかよくわからない
特に、採用を難しくしている一つの要因が「自分のやっていることが正しいのかよくわからない」ことだ。
例えば、私は自分でPR文を書いたり、スカウトメールを作成して送ったりする。
実際、リクナビやエン、Wantedly、Green、linkedin、オファーボックス、キミスカなど、様々な媒体で、それこそ数百、数千という単位でメールを書いた。
だが、多くの方が感じる通り、基本的にメールは返ってこない。
時には100通近くメールを出して、返ってくるのは1、2通だけ、なんて時もある。
もちろんそうした返信率を見越して、打たなければならないメールの通数を計算する。
しかし、例えば上の2%という数字。
実務の中では、悪い数字なのか、あるいは良いのかを知るのは結構難しい。
もちろん、自分が過去にやったことに照らし合わせて
「前回は3%だったから悪い」
「今回は5%だ、よくやった」
ということはできる。
しかし、本当は10%くらいは当たり前に出せるのかもしれない。
いや、うまくやれば、20%くらいは出るのかもしれない。
だが、それをどうやって知ればいいのだろう?
媒体の営業担当に「この数字は良いですか?」と聞いても、彼らは「そんなもんです」という。(本当?)
しかし、その媒体の営業資料には営業が言うのと違う「返信率10%」の事例が書いてある。(どこまで信用できる?)
webに公開されている「採用の成功」に関する記事は参考にならない。(盛ってるよね?)
もともと知名度とブランドのある会社の事例は論外である。(ブランドがあれば採用は楽だよね)
つまり、採用は正しい数字を知るすべがすくなく、それ故に改善を回しづらい世界なのだ。
例えば、年間10名程度のエンジニアを採用する会社の「普通」の数字は?
こうした状況を打開するには、横断的に世の中のデータを見ている方に話を聞く必要がある。
そこで、採用を専門とするオンライン人事サービスCASTER BIZ recruiting(キャスタービズ・リクルーティング)の森数美保さんに、上の疑問を投げた。
森数さんもスタートアップに在籍し、採用を行っていた前職、全く同様の不安を持っていた。
採用の目標設定やゴールにたどり着くまでの設計どうやってますか?
(note)– この数字はいいのか悪いのか…ベンチマークにすべき数字がわからない
– うちの会社にとってベストなやり方は、他にもあるのではないか
重要な指標の設定が根本から間違っていれば、最終的に採用人数だけをひたすら追いかけることになる。だから森数さんは、
「やってきたことに再現性はあるのか?」
「他の会社はどんな数字になってるんだろう」
との疑問を持ち、経験則ではなく、事実に基づいて採用を科学したいという思いで、現在の職場へ転職したという。
その森数さんに「選考フローの妥当性」と「具体的な数字の話」をお聞きするにあたっては、次の設定をした。
・100名規模のソフトウェアの受託開発業
・特に知名度が高いわけではない、給与水準も普通の会社
・年間8名から10名程度のエンジニアを採用
なお、選考フローは、過去に支援していた、以下のような流れを持つ会社を想定する。
1次選考は役員、2次選考は社長が担当していた。
(注:以下は株式会社キャスターの標準とする数値です。個別の事情により変化します。)
質問1.選考は面談(もしくは書類選考)・役員面接・社長面接の3回だが問題はないか。
問題ない。標準的。
今まで目標とする人数が採用できていれば、おおむね問題はない。
基本的には面接の回数が多く、選考期間が長いのは悪印象。
現在は、オンライン面談で日程調整が円滑に進むこともあり、2週間ほどで内定まで進むことも珍しくない。
質問2. 募集の入口としてスカウト・自己応募・紹介会社の3つを使うのは問題ないか。
問題ないが、要件や予算による。
低コストでの採用や珍しい職種・要件が条件であれば、スカウト中心。
営業ポジションの大量採用などであれば、自己応募や紹介会社の利用を勧めることが多い。
質問3.スカウトメールの返信率、および面談設定率はどの程度か。
スカウトメールの返信率は、概ね3%から10%の間に収まるが、媒体によって大きく返信率が異なる。
例えば株式会社アトラエの運営するGreenであれば約3-5%を目標とする。
Wantedlyであれば約10-15%はほしい。ビズリーチはそれより少なく、10%いけば良い方。(ただし、職種要件と市場の相関で返信率は変動するのであくまで参考値)
様々な媒体さんが持ってくる資料には大げさな数値が書いてあることも多いので、あまりアテにしないこと。
また、返信率をあげるために「スカウトメールのカスタマイズ」を一生懸命やる方がいるが、実は、カスタマイズの度合いによって返信率はそれほど変わらない。
返信率に有意な影響があるのは「登録してからの日数(短いほうが良い)」と「なぜウチが声をかけたか(必然性)が記述されている」こと。
なお、返信があったスカウトメールからの面談設定率は8割を目標とする。
それを下回る場合、スカウト返信の中ですでに辞退が多かったのか、日程調整中の不通かを確認し、後者であれば日程調整の方法を見直す必要がある。
質問4. スカウトから面談した候補者の、1次選考へ進む割合はどの程度か。
職種によって異なる。
エンジニアのようなスキルマッチ職種は60%を目指す。
セールスのような、タイプマッチの職種は面談をしてからわかることも多いので、30%程度で良い。
逆にこれらの数値を切っている場合は、候補者に対するおもてなし、アトラクトが足りない可能性がある。
質問5. 自己応募の書類選考通過率はどの程度か。
媒体からの自己応募は、書類通過率は最高でも15%程度、低いと3%くらいにとどまる。
自己応募数は上位の広告枠を購入するなどして増やすことは出来るが、質を改善するのが難しい。
労力があるなら、媒体の求人作成/更新に力を入れたり、スカウトに注力したりするのも手だ。
質問6. 紹介会社経由の書類選考の通過率はどの程度が適切か。
紹介会社経由の応募は、紹介会社の中ですでにスクリーニングが行われている前提です。
書類選考通過率は40-45%が目安。これを割り込むようだと、紹介会社へ正確な要望が伝わっていない可能性が高い。
質問7. 1次選考の通過率はどの程度が適切だとみなせるか。
スカウトおよび自己応募からの、1次選考の通過率は30%を目指す。
1次選考通過率が低い(10-20%台)場合は、ターゲットが間違っている可能性が高い。選考の結果を分析し見直しを行うこと。
なお、紹介会社からの推薦候補者の1次選考通過率は更に高く、40-50%以上を目指したい。
紹介会社に要件や背景などを直接伝えて紹介を受けているにもかかわらず、通過率が40%を切っている場合は「単に求人票をばらまいて、紹介を受けるだけ」になっている可能性が高い。
質問8. 2次選考を通過(=内定を出す)率はどの程度が適切か。
2次選考の通過率(=内定を出す率)は50%を目指す。
この数値が低いと、 社内で採用要件のすり合わせがうまくできていないか、現場とトップの採用に対する温度差が大きい蓋然性が高い。
社長の声が大きすぎる会社の場合、「どうせ社長が決めるから」と、1次選考の通過率が高く、2次選考の通過率が異常に低い、ということがよくある。
また、全体を通してみると、初回の面談からの内定率は10%程度が望ましい。
つまり、100人に面談を行ったなら10人採用できるのが理想。(内定の承諾は別。)
質問9.内定の承諾率はどの程度が適切か
内定承諾率は 中途採用なら70%が目標。50%を切っているようだとかなり厳しい。
新卒採用なら最低限、60%を目指す。
また、どのフェーズでも「選考の辞退率」は2割以下を目指す。辞退が多すぎる場合にも選考のフローのどこで辞退が多く発生しているかをチェックし、改善につなげること。
面接に一貫性がなかったり、面接で候補者に無礼な態度をとっている面接官が存在している可能性もある。
採用はまず、正確なデータを記録し、改善につなげよう
以上が、森数さんの語る、採用にかかるKPIの「標準値」である。
とはいえ、正確な採用フローにかかるデータがなければ、なにが正しいかを知る以前の問題だ。
採用は何より「正確なデータの取得」から。
改善への最初の一歩は、まず記録から始めよう。
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【著者プロフィール】
◯Twitterアカウント▶安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書)
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Photo by Dylan Gillis