先日当サイトで、『僕が争いごとに巻き込まれるのは、僕の弱そうな見た目のせいだった。』という記事が公開された。
内容はタイトルどおりで、
・争いごとに巻き込まれても、頭をつかって論破すればいいと思っていた
・トラブルの際は全力で反撃、撃退成功するも追撃される
・「戦っている時点で負けなのでは」と思い、争いを避ける方向にシフト
・絡まれるのは自分の弱そうな見た目が原因だと気づく
・ビジネスマンの筋トレは、無駄な争いごとを産まないための必要経費
という感じである。
これには多くの共感の声が集まり、わたしも「わかる~」とうなずいた。
肩がぶつかって「あん?」と睨みつけるようなニイチャンだって、相手が190cmオーバー、一目見ただけでわかる厚い胸板、子どもがぶら下がれそうな太い二の腕をしていたら、すぐに引き下がるだろう。
「弱そうだから絡まれる」は、残念ながらそのとおりなのだ。
そうは思いつつも、この記事にはちょっと思うところもあって。
「筋トレして舐められなくなるのは男性だけだよね」と。
男性は筋肉の鎧で身を守れるかもしれないけど
記事内には、こんなくだりがある。
見た目がたるんでると舐められて、結果として無駄な争いに巻き込まれて人生が摩耗する。
孫子の兵法にも戦わずして勝つのが極上だとあるが、ビジネスマンにおける筋肉はまさしくこの戦わずして勝つ為の鎧として機能する。
ゴツい相手にわざわざ面倒事をけしかけようと思うやつはいない。
その逆…ヒョロいやつに面倒事をけしかけようという人間は…残念ながら沢山いた。
これはたしかにそうで、男性であれば、筋肉の鎧でトラブルを一部回避することができるだろう。
でも、女はどうだろう?
日本に一時帰国すると、都内の駅の混雑具合に毎回びっくりする。
で、だいたい1日1回くらいはだれかに「ぶつかられる」。
ぶつかってしまうのではない、ぶつかられるのだ。
そしてそれは決まって、スーツを着たオジサンである。
スーツを着た中年男性の割合が多いから必然的にそうなるんだろうけど、後ろから追い抜くときにぶつかられたり、すれ違うときに身体をひねらずぶつかられたり……。
ニュースにもなったとおり、「わざとぶつかってくる」人は実際にいて、それはわたしの経験上、99%男性だ(だからといって男性全員に加害性があるわけではもちろんない)。
わたしがクレームを入れても話が進まないのに父親が電話すると相手がすぐ上司に変わる、男性には敬語を使うのに女には最初からタメ口、なんて経験は一度や二度ではない。
じゃあ女が筋トレすればそれがなくなるのかといえば、そういうわけでもないのが悩ましいところだ。
「なめられない女」になるのは難易度が高すぎる
「舐められない女」(別名「絡むと面倒くさそうな女」)として思いつくのは、せいぜいこの2パターン。
・金髪にグラサン、タトゥー。鼻にピアス。真っ赤な口紅とか、ツヤツヤした素材の鞄が好き。ガムをクチャクチャ噛んで「あーん?」とか言いそうなヤンキー
・高級スーツをパリッと着こなし、会議の場でも一回り年上の役員を圧倒。歩くときの音は「カツカツ」。なんかオシャレなマンションに住んでる有能ビジネスパーソン
……いやいや、どっちも難易度高すぎるだろ!
一般的な女性(流行を気にしつつもユニクロで買い物して、カフェで1000円パスタを食べながら友だちと噂話して、自分が生活するのに困らない程度稼ぎながら定時より30分遅く帰宅するような人)が「舐められない女」になるためには、いったいどうすればいいんだろう?
いろいろ考えてみたけど、残念ながら「これ」という答えは思い浮かばなかった。
男性のように筋トレして多少筋肉質になったとしても、「健康的な女性」になるだけで、「手を出せない強い女性」だと認識されることは少ないだろう。
それこそ、「霊長類最強」「野獣」と言われるような、男性が「こいつにはかなわねぇ……」と後ずさりするくらいにならないかぎり。
……いやいや、だから難易度高すぎるんだって!
さて、そんな女性にとっての「戦わずして勝つ鎧」とは、いったいなんだろう?
なぜ「あざとい」は、女だけに使われるのか?
そこで思い浮かんだのが、「あざとい」という言葉だ。
「あざとい」といえば、
・計算で天然を装い、男性に「かわいい」「守ってあげたい」と思わせる
・上目遣いや胸チラなどでさりげなく誘惑する
・おおげさに喜んだりやたらと褒めたりして、相手の気をよくする
ような女性を思い浮かべる。
ではそもそも、なんで「あざとい」女が生まれるんだろう?
本人は相手のことなんて好きじゃないのに、なんで気を持たせるようなことをするんだろう?
もしかしたらそれは、「戦わずして勝つ鎧」だからじゃないか?。
強いやつにわざわざ絡まないのと同じで、たいていの人間は、好きな人に対してひどいことをしない。
好きな相手には嫌われたくないし、自分のことを好きでいてくれる人は大切にしたい。
そう思うのが人の性である。
だからこそ、「あざとい」は武器になる。
相手が自分に好感をもっていれば、自発的にこっちに利があるように動いてくれる。
相手に気を持たせれば、まわりの厄介ごとから守ってもらえる。
旗色が悪い話し合いでさりげなくフォローしてくれるかもしれないし、面倒な上司に絡まれたときに止めに入ってくれるかもしれない。
なめられても「偉そうに!」と舌打ちするのではなく、「わたしの手のひらの上で転がされていることも知らず……」と舌を出す。
「あざとさ」で盾を得ることが、女性の生存戦略になっているんじゃないか。そう思ったのだ。
もちろん、チヤホヤされて気持ちいい、そんな自分が好き、という女性もいるだろうけど。
男子は強くあれ。女子は味方をつくれ。それが教え込まれた生存戦略
ん? そういえば……
幼稚園や小学生のときに意地悪されて泣いたとき、男の子は「男の子なんだから強くなりなさい」と言わる。
「殴り返してやれ」とすら言われるかもしれない。
一方で女の子はといえば、友だち数人で加害者を取り囲み、「謝りなよ」「この子はこんなに傷ついたんだよ」と代弁してもらうことが多いイメージだ。
男子が徒党を組んで泣いてる男の子ひとりをかばう図なんて想像できないし、女子が力での反撃をヨシとされるのも想像しづらい。
男子は強くあれ。そうすれば自分を守ることができる。
女子は味方をつくれ。そうすれば自分を守ることができる。
小さい頃からわたしたちは、そういった「世のことわり」のなかで生きてきた。
だからこそ、大人になっても、ずっとそれを繰り返しているのかもしれない。
とはいえわたしは、「男は鍛えろ」「女は媚びろ」と言いたいわけではない。
そもそもの前提として、相手を選んで突っかかってくるほうが悪いのだから。
でもそういう人間が存在する以上、自分の身を守るために対策を講じなくてはいけないわけで。
女性は見た目で「強い」アピールをしづらいからこそ、男性にとっての筋肉にかわる「盾」、たとえば「数」や「自分を守ってくれる人」を求めるのかもね、という話である。
まぁ、筋肉は女にとって争いごとから守る鎧にはならないかもしれないけど、健康にいいから筋トレをやるに越したことはないとは思う。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
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