ちょっと昔話をします。

 

まだ長男が幼稚園に通っている頃でしたから、10年近く前でしょうか。

しんざき家では毎晩、寝る前にお話をしながら、パパママ長男の三人で一緒にお風呂に入ることが定番になっていました。

 

長男は、お風呂でお湯をばしゃばしゃとさせて、跳ねたお湯がお風呂の縁に乗っかって色々な形になるのを観察するのが好きでした。

 

その時も、長男は手をばしゃばしゃと動かして、縁に乗っかったお湯の形を観察していたのだと思います。

「これはー、ぞう!」とか「これはーー、んー、くるま!」とかいちいち宣言している長男に、「今日は幼稚園何があったー?」と何の気もなしに聴いてみたら、長男が手を止めました。

「うーん」としばらく困ったように考えこんでから、「もう、そんなに色々聞かないでよー」と言われました。

 

…色々?

 

この時、「色々」という言葉がちょっと引っかかりまして。

私、自分としては「幼稚園でどんなことが起きたか」という一つのテーマで聞いたつもりだったんですよ。

ところがそれが、長男には「色々」と解釈されたらしいのです。

 

ただその時、一緒にお風呂に入っていた奥様の、

「開かれた質問だから答えにくいんじゃない?」

という一言でするっと謎が解けて、同時にちょっと衝撃を受けました。

 

開かれた質問って心理学用語で、要は「はい、いいえでは答えることが出来ない質問」「選択肢が明示されていない、自由な表現で答える質問」のことなんですけど。

 

例えばこれが大人であれば、「最近どう?」という程度の曖昧な質問に対しても、「ぼちぼちです」というような、適当に四捨五入した答えを返すことが出来るかも知れません。

それは、質問者の意図が「単なるイメージ的な総括」を求めているものでしかないということが分かっているし、それに対して「最近あった全て」を答える必要などない、という認識が既にあるからです。

 

それに対して、小さな子はまだその前提を共有していません。

つまり長男の中では、「幼稚園で起きたこと」というのは、色んな記憶の集合体として、非常に雑然とした複数のイメージの形で脳内に集積されていたと。

それについて「幼稚園で何があった?」なんて曖昧な形で聞かれてしまったので、「色んなことについていっぺんに聞かれた」と解釈して困ってしまった、と。

 

そこでちょっと方向性を変えて、例えば

「〇〇ちゃんとは今日は遊んだ?」

「何して遊んだ?」

「どれが一番楽しかった?」

というような聞き方にしてみると、喜んで

「最近どろけいという遊びを教えてもらった」

「せんせいがどろぼうの基地を庭に書いてくれた」

「何人捕まえた」

といった話をとても楽しそうにしてくれたので、この時は「ああ、具体的な方向性さえあれば、話したいことがたくさんあったんだな」と分かったんですが。

 

この時私、結構色々なことを学びまして。

 

まず、私は無意識の内にコミュニケーションのコストを息子に押し付けてしまっていたなあ、と。

「質問をする時は具体的に」というのは、インタビューやコミュニケーションの基礎のキの一つなのに、それを忘れていたなあ、と。

「自分はこの質問で何を知りたいのか」ということを、相手に伝えるのを怠っていたなあ、と。

 

いや、開かれた質問自体が悪い、って話ではないんですよ?

時には選択肢のない自由な会話が適している場合だってあるし、相手の曖昧な質問に対して、自分の中からイメージを取り出して整理する練習だって必要でしょう。

 

けれど、まだ生まれて数年しか経っておらず、コミュニケーションというものそれ自体にまだ不慣れな長男に対して、大した意図もなく「何があったか」なんて質問を投げて混乱させてしまうのは、ちょっと考えが足りなかったかも知れない。

「この人は今、どんな意図で、何が聞きたいのか」「それに対して自分は、色んなイメージの中から何を整理して答えればいいのか」という判断を、前提知識を持っていない長男にいきなり押し付けてしまうのと同じことだったかも知れない、と。

その時はそんな風に思ったのです。

 

まだコミュニケーションに不慣れな時期にこそ、丁寧な会話と、会話が成立することの楽しさを教えてあげたい。

そう思って、そこからはなるべく「内容が具体的で、質問意図が分かりやすい質問」から始めて、段々選択肢を広げていくような会話を、意識して多めにしてみました。

その結果だったのかどうかはともかく、現在はまあ非常にお話好きな少年に育ってくれたのは良かったなあと思っている次第なのです。

 

***

 

ちょっと話は変わるんですけど。

先日安達さんが、企業の採用面接についてこんなことを書かれていました。

(→ スキルのない素人が、印象と好き嫌いで合否を決めている。それが採用面接。

 

私、ここで安達さんが書かれている「「それ聞いてどうすんの?」という質問をする面接官」について、そこそこ心当たりがあります。

自分が面接を受けている時にも、また自分自身が面接をする立場になって、他の面接官の人と同席をするようになった時も、

「この人は、この質問をすることによって、どんな能力や資質が判断出来ると思っているんだろう?」

「この質問に対してどんな答えを期待しているんだろう?答えが返ってきたら、そこから何を評価するつもりなんだろう?」

ということが良く分からない質問をする人に、散々突き当たってきたんですよ。

 

いや、例えば「志望動機はなんですか?」とか「当社のビジョンについて、共感したポイントをおしえてください」とか、通り一遍の紋切型質問ならまだマシなんです。

これは一応、「適切な建前を構築・開示する能力があるかどうか」という判断に使えないことはないですし、耳辺りが良くてちょっとだけ独自視点のある建前を返せばいいんだな、というのも理解しやすいです。

 

それに対して、「あなたにとって仕事とは何ですか?」とか。

「仕事をする上で何を大切にしたいと思いますか?」とか。

もっとひどいのだと、「あなたを色に例えると何色ですか?」とか。

 

この辺正直ホント意味わからん、と思いまして。それ聞いてどうすんだ。

面接はクイズ大会や心理テストじゃねーんだぞ。

 

いや、一応、学生時代にはまだ、もしかするとこういう質問にも深い意図があるのかも知れない、とも思ってはいたんですよ。

上記した通り、仕事を始めて随分経って、私自身も面接をする立場になりました。

新卒の学生さんとお話をする機会も増えました。

その際、「大体の会社における採用面接というものは別に人事の専門家が行う訳ではなく、しかも面接の為の研修すら存在せず、全く畑違いの素人が行うものなんだ」ということを知って結構衝撃を受けたりもしたんですが。

 

グループ面接が終わって、「この子は元気が良くて受け答えがしっかりしていたから役員面接に通そう」とか「この子はちょっと暗かったからやめとこう」というような話をしている、私と同じように面接に駆り出されていた人たちに、「さっきの〇〇という質問はどんな意図だったんですか?」と聞いてみました。

 

結果、少なくとも私が聞いた限りにおいては、殆どの人たちに「大した意図など何もない」ということが分かりました。

なんかそれっぽいことを聞いているだけで、質問それ自体の回答についてのはっきりした判断基準などなく、せいぜい「受け答えがしっかりしているかどうか」くらいしか見ていない。

「質問意図を読みとるのもコミュニケーション能力の内」「それを試すのも面接の内」というような話を聞いたこともありまして、それも私、全然納得出来んなーと思ったんですけど。

 

だって、「よくわからないあやふやな質問の意図を読み解く能力が必要とされます」って、

「え?この会社って、質問意図についてわざわざ深読みして判断しないといけないようなコミュニケーションが横行してるの?」

と学生に思われかねないじゃないですか?

これから自社で働くかどうかを検討している人たちに、わざわざそんなメッセージを出すんですか、って話です。

 

この時私、上で書いた、子どもに対する「今日、幼稚園どうだった?」という質問を思い出しまして。

あの時私が子どもに伝えたことって、まずなによりも「丁寧なコミュニケーションって楽しいよ」「パパには、丁寧なコミュニケーションをする意志があるよ」ってことだったんじゃないかなあ、と思うんですよね。

最初はちょっと意図の曖昧な質問をして戸惑わせちゃったけど、その後はちゃんと、「これこれこういうことが聞きたいんだよ」という意図が、多分伝わったんじゃないかと。

 

質問って、決して「情報を引き出す」という一方通行のコミュニケーションじゃなくて、「私はこういう情報を求めています」「こういうことに興味を持っています」ということを相手に伝える、双方向のコミュニケーションなんですね。

質問って一種のプレゼンなんです。

こちらの質問というのは、「こういうスタンスの会社なんだよ」というメッセージとして相手に伝わるんです。

 

そんな経験があったので、自分が面接で質問をする時は必ず、「この質問は、これこれこういう意図でしています」という一言を付け加えるようになりました。

別に「意図を読み取ってもらう」必要なんてない。

こちらのカードは全部開示するから、それを見てゆっくり自分の考えをまとめてくれればいい。

 

少なくとも私は、会社に入って仕事をしている時も、あなたに対して全ての判断材料を開示して、それに基づいてコミュニケーションをする準備があります。

だからあなたも、安心してこちらに判断材料を開示してください。

 

そういうメッセージが学生さんに伝わればいいなー、と。

そう思っているわけなんです。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、 メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。

岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。


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(2026/01/19更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

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