おれは仕事ができない

おれは仕事ができない。その根拠は、おれが稼げていないという一点にある。

おれが赤字人間であるという一点にある。これが結論である。

 

「で、具体的にどのように仕事ができないのか?」と問われた。

これは簡単な話だ。おれの仕事っぷりを、というか、仕事のできなさっぷりをありのままに書けばいい。

ぜんぜん楽勝じゃないか。

 

……と、思ったのだが、これが書けない。

なぜ書けないのか。おれが「仕事」をわかっていないからだった。

あるいは「会社員」であるということをわかっていなかった。

だから、自分が、会社員としての理想や基準、平均と比べてどうなのか、どこが具体的にだめなのか。そういう比較がまったくできなかったのである。

 

そんな人間がいるの? いるのだからしかたない。

おれはおれが暮らしていくだけの賃金を会社員として得ていることも、また一方の確かな事実ではある。

とはいえ、おれは人生において履歴書を書いたこともないし、就職面接を受けたこともない。ただ、流されるままに、気づいたらニートから会社員になっていた。

 

その中間にはバイトだか業務委託だかなんだかわからない期間もあったが、気づいたら正社員というものになっていた。

おれはいつから自分が「会社員」なのかわかっていない。

むろん、正規の会社員といっても社員数十名以下の零細企業の底辺ではある。稼ぎもひどくひどいといっていい。

 

図書館で本をゲットする

まあ、とにかくおれは困った。困ってしまってどうしたか。「ビジネス書」というものを読んでみようかと思った。

自慢ではないが、おれは「ビジネス書」というものを生涯で一冊も読んだことがない。

それ以外の本はさぞたくさん読んでいるのだろうな? と言われるとそれも怪しいが、ともかく「ビジネス書」は未知の領域である。

 

そして、手にしたのがこの本である。

吉越浩一郎『仕事ができる社員、できない社員』

 

これである。おれは著者の経歴も名声も知らない。出版された時期も知らない。

なにも確かめなかった。ただ、おれは「仕事ができるとはなんだろう? 仕事ができないとはなんだろう?」と悩んでいたので、これほどうってつけのタイトルの本はなかった、ということだ。

……多くの人はこのタイトルから「できる社員」を目指すのだろうが、おれは「自分ができない社員」である理由を探すのだから変な話だ。

 

この世は競争である

まず、この著者が言うには、次のような意識を持たなければいけないということだ。

世の中は競争です。
そして、その競争には勝たなくてはいけません。
そのためには、自分であらゆる機会をとらえ、勉強することが一番確実な近道です。すべてが競争であり、それがこの世の中の原理原則なのです。
このことを何度も繰り返していうのは、誰もが例外なく厳しい競争の場に置かれた立場であることを、意識してほしいと思うからです。
ここからは逃れられないのです。仕事ができる社員は、そういう精神を持って、「自分は何をしなければならないのか」を常に考えています。

いきなり、駄目である。「もっといいポジションにつきたい」、「もっと素敵な恋がしたい」、「もっとお金を稼ぎたい」、「もっと良い生活がしたい」……こういう「もっともっと」が「仕事ができる社員になるための前提条件」だという。

 

だとしたら、おれ、「仕事ができる社員向いてねえわ」と断言できる。

もっと楽がしたい、空から女の子が降ってきたらいい、万馬券が当たればいい、見知らぬ遠い親族の遺産が転がり込んでくればいい……、それがおれのスタンス。

自分が努力やなにかをして「もっともっと」を望む気持ちが、相当に薄い。

 

おれという人間のゴミクズの本性がいきなりあぶり出されてしまった。

一方で、おれがこのようなろくでもない人生を送っている理由もいきなり説明されてしまったようでもある。

おれはこの世の「もっと」に価値を置いていないし、「競争」と呼ばれるものに参加する意義を感じていない。

このような人間が、この社会で底辺を這いつくばり、食えなくなるのも当たり前といっていいだろう。なにせ、すごく優秀な経営者(Wikipediaで調べました)がそう言っているのである。

 

少しましな生活をするために、なにか勉強が努力が必要なのであれば、その時間は酒を飲みながら競馬をしたり、カープの試合を見たりしていたい。仏教や古いアナーキストの本を読んでいたい。

もう、いい。おれに努力は無理だ。生まれつきそれは、持っていない。まず、前提から駄目だ。

 

おれが理想とするのは、何もしないでそのまま死んでしまった辻潤のようなアナーキストであって、理想的な労働者とは程遠い。

おれはおれの最低限を保つために嫌々働いている。「もっと」なんて思わない。

辻潤『絶望の書・ですぺら』

人間がイヤイヤ自分の仕事をしているということより悪いことはまずこの世の中にはありそうもないことだ。況や、単に食わんがためにイヤイヤ仕事をしなければならないなぞということは考えてみても馬鹿馬鹿しい話だ。

馬鹿馬鹿しい!

 

具体的に駄目なあたり

と、これでは、具体性に欠ける。とはいえ、先に書いたように、おれには基準がないので『仕事ができる社員、できない社員』に記されていることと照らし合わせながら検証していこうか。

 

とはいえ、この本が前提としているのは大学を卒業して大企業に入ったようなビジネスパーソンのことであって、高卒、ニート出身、就職活動なし、労働意欲なしの零細企業勤めでは環境が違いすぎるし、そもそも比較の対象にもならないゴミだということはご承知願いたい。

 

まず、「結果がすべて」ということが述べられている。「努力に満足する」のは二流という。

なるほど、ゴミなりにおれはこれに同意する。

金持ちになるには、べつに努力なんてものが反映されるわけでもない。

世の中には、生まれながらにして親やその親の財産を引き継いできたような勝ち組もいる。人を騙そうと、泣かそうと、死に追いやろうと、金を儲けた人間が勝ちである。

アフォードする能力(支払い能力)がある人間に価値がある。

 

これが、会社員となると、会社の利益のためになにをするのかというのが全てになるのだろう。が、おれは会社の利益などもあまり考えたくない。

零細企業だから、大企業などに比べてもっとひりつく問題であるのは確かだが、おれが食えなくなって餓死するようなことになるとしても、なんにもしたくないのだ。

 

バカになれる人

あるいは、スティーブ・ジョブズの例の演説を引いて、「ステイフーリッシュ」ということも述べられている。

要するに「無知無能であれ」という意味ではなく、考え方としてバカになれということでしょう。
バカになって思い切ったことをやる。
やると決めたらとにかくやり切る。
最初から格好いいことなどできっこないのだからバカになった気でやればいい、また、周りからもそういわれていいといっているのです。

これも、前提からしておれには当てはまらない。

おれは「考え方」として「無知無能」なのではなく、もとから「無知無能」なのである。

 

バカになれ、という選択肢はない。ただ「バカだ」。いや、「バカだ」ならばまだ可能性がある。だがおれは、やる気のない「バカ」なのである。なにもしたくないのである。

それは生まれ持った性格であるかもしれないし、精神障害者として、繰り返される躁鬱の波にすべてをさらわれて無気力になっているのかもしれない。その複合体かもしれない。

 

だからおれは、自分ひとり独立してなにかできる能力などはなからないし、その礎となるべきなにかを学ぶこともなかった。

 

労働するための体力

あるいは、よい労働のためにはよい健康維持、体力維持が必要という。

とにかく「いい仕事」をしたいのなら、体力を維持することが非常に重要です。身体を鍛えるために運動をしたり、健康維持のために早めに就寝し、十分な睡眠を取ることを、常に意識してください。

早寝早起きの善し悪しをいっているような人は、仕事ができない人です。

朝こそ勝負の時、らしい。

知った話か。おれは夜遅くまで連続飲酒をして、さすがにそろそろとなったら抗精神病薬と抗不安剤と睡眠導入剤を流し込んで眠りにつく。

朝は最悪だ。日中、体調がいいなんて思ったことはない。「今日は眠くならなかったな」が最低ラインだ。

幸いにして、薬を新しくしたら日中の眠気はほとんどなくなった。

 

もちろん、おれはもうすでに自分の健康を諦めている。精神疾患を発病して、障害者となり、なんにもしなかったら完全に寝込んで使い物にならない。

せいぜい薬を飲んでどうにか動ける。これ以上は求められない。求めたくもない。

 

おれにはおれができることしかする気はない。「もっと」はない。仕事をはかどらせようなんて願いはない。

意識があって、身体が動く。これがもう「勘弁してください」というラインなのだ。身体が動かないというのは、文字通り動かないということだ。

おれが抑うつ状態になったときのことを書き留めておきたい。

 

 

具体的におれはなにをやっているのか

では、そんなおれは具体的になにをやっているのか。

その説明がいるか。でも、これを詳細に説明するのは、かなり職種が限られてしまうので述べるのは難しい。

とりあえず言えるのは、ほとんど毎日オフィスの中にいるということである。オフィスの中にいて、ひたすらiMacと対峙しているということである。

使うアプリケーションはAdobe Illustrator、Photoshopがメーン。ときどき、WordPressをいじったりもする。

 

「ならば、クリエイティブな仕事なのでは?」と思う人もいるかもしれないが、それもちょっと違う。

かなりルーチンに近いことをやる。二十年くらい同じものを作っている。

ちょっと気の利いた小学六年生ならできるんじゃないか? と、自分でも思っている。

 

けれど、ある分野についての知識、あるいはその正確な知識にアクセスするための知識が求められもするし、ちょっと気の利いた小学六年生では無理かな、という気もする。

作業は簡単かもしれないが、ちょっぴり知識と当て勘がいる。

 

そして、その作業をできうる限り効率化している。

人に説明すればできるかもしれないが、それはかなり属人的なものになってしまっている。

ぼくが一番うまくガンダムを使えるんだ。

 

その他、文章を書く。文章を書くのはおれの分野ということになっている。短い文章はとくに得意だ。

校正、校閲もする。人の文章に赤を入れるのはこの上ない喜びだ。

あとは、パソコンの先生みたいなこともする。自分で言うのもなんだが、触ったこともないWindowsやネットのトラブルを初見で解決して、自分がニュータイプじゃないかと勘違いすることもある。

だれにも教わったことがないのにPHPをいじってる! やはりガンダムもうまく使えるかもしれない。

 

数字に関わることが駄目

できないことについても書いておく。

おれは数字に弱い。数学に弱いというより、算数に弱い。そのことについては以前も書いた。

 

ともかく、数字に弱い。どのくらい数字に弱いというか、数字が嫌いかというと、仕事で使用したタクシー費用の精算すら嫌になって、もう自腹でもいいんじゃないかと思うくらいなのである。

おれが損をするのをわかっていても、もう精算するのが面倒くさい。嫌になる。

 

これが対外的なことになると、見積もりを頼むとか、利益を考えるとか、そういったことについて圧倒的に駄目である。

駄目すぎるので、おれはあまり見積もりを取ったり、ひと仕事でどれだけの粗利が得られるか、という単純なことすらわけがわからない。

わけがわからないので人に任せているが、数字(金)のことは考えたくない、考えられないというところがある。

 

仕事というのは金を稼ぐことであって、利益を出すことであって、それがすべての基となることであって、それができないおれは、その時点で「仕事ができない」といっていい。

稼げる数字こそが労働のすべてであって、金を稼ぐ具体的な数字を見られないおれが、労働に従事しているかどうか、仕事をしているのかどうか怪しいといっていい。

 

コミュニケーションができない

おれがさらに「仕事ができない」と考える、あるいは感じるのは、コミュニケーションのできなさである。

コミュニケーションこそが、現代の労働における大部分だとなると、これはもう決定的、壊滅的な欠点といえる。

メールでの、文章におけるやりとりなら、それなりにできるつもりである。

文章なら、どうにかなる。おれはいくらかは、文章を書くことにおいて自信がある。

 

とはいえ、高卒のおれに対して、大卒であり、就活を乗り越えて何年も経つような人間の書く、意味不明な文章については辟易する。意味がわからない。

おれより高学歴なのに、なぜまともな日本語が書けないのか。そういう気持ちになることは少なくない。

 

なぜ、大卒なのに、まともな日本語が書けないのか。おれよりもっと「書くこと」についての修行をしてきたのではないのか。

まるでわけがわからない。大卒以上なのにおれより日本語が書けない人間は、反省してほしい。

 

なぜ、反省する必要があるのか。

文章でその真意をたずねなければならないからだ。あるいは、電話による対話によって、たずねなければならないからだ。

 

電話、対話。おれはこれが駄目である。

文章によるコミュニケーション、これ以外が駄目である。

対面して、対話などとなると、もういけない。それ以上はいけない。そうなる。

 

会話によるやりとり、これができない。

即座に回答することにためらいがある。「できるかできないかは、いったん引き取って考えさせてほしい」となる。

だが、人間の会話はそれでは進まない。

本当に重要な要点については、「社内で検討させていただきたい」でいいのだろうが、そうでもない些事については、そうもいかない。適当に、「はい」、「いいえ」でいかなければいかない。

 

おれは、それができない。苦手だ。

適当な返事をして、それがうまくいかなかったらどうなってしまうのかと、不安になる。

不安になるような返事はしたくない。というか、できない。フリーズしてしまう。対話も電話もなくなってしまえ。

 

頭はいつもごちゃついている

さて、おれにとっての初めてのビジネス書に戻ると、こんなことも書いてある。

とにかく、机の上を見るだけで、仕事ができる社員かそうでないかわかります。

机の上が整理されている人は、一つのことに集中できる人です。心に余裕があり、精神的に追い込まれていることがほとんどありません。何事があっても、順番に一つずつ片づけていけばいいと知っているからです。

うう。

 

片付けられない人間の言い分を聞いてくれ

おれの机の上を見てくれ。書類が地層をなしている。

とはいえ、おれは二十年近く働いて、ようやく一つの方策を考え出した。

同様事例はたくさんあるにしても、おれがおれの要求によって生み出した、おれのためのものだ。

 

それは、大きめの付箋にやるべきことを書いて、パソコンに貼る、ということだ。どんな些細なことでも手で書いて、紙を貼る。

要件を書いている時間の方がやるべきことより数秒長くても、書いて、貼る。

 

こうしないと、やるべきことが整理されない。順番もわからない。締切が少し先の、やるべきことも忘れてしまう。

終わったらすぐに付箋を剥がしてゴミ箱に捨てる。おれの個人のゴミ箱は付箋だらけだ。

 

これが、頭の中でできない。それも仕事のできなさだろう。

この本によれば「緊急度」と「重要度」を視覚化するということだろう。

これが頭の中で整理できない。あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ、え、そんなこと頼まれていた? そうやってパニックになってしまう。それを長年繰り返してきた。

 

付箋によってようやく、いくぶんマシになった。

そのやり方に気づくのに、普通の人なら一年か二年で十分だろう。

おれは二十年近くかかった。やはり無能である。

 

若い人へ

少し長くなってしまったが、最後に書くべきところはこれだろう。「べつの会社に就職して何ができますか?」という話だ。

おれは赤字企業で赤字人間をやっているだけであって、なにができるという技能がない。

IllustratorやPhotoshopをもっとうまく扱える人間は世の中に山ほどいるだろうし、おれより精確なビジネス文書を書ける人間も山ほどいる。

 

おれには資格がない。これといって誇示できる能力がない。

ある分野について、ちょっとだけ「門前の小僧」の知識があるだけだ。

それを証すものはないし、門内のことを知らない。門内で認証を受けていない。受けられるだけの知識もない。

 

というわけで、若い人よ、おれのようになってはいけないよ。

まず、ビジネス書を読みなさい。たぶん、役に立つことが書いてある。

仕事ができないと思う人には、そういう人のためのノウハウが書いてある本もあるだろう。すごい。

 

そして、競争に勝ちなさい。勝とうとしなさい。それだけが世の中の全てです。

おまえが地主の子どもだと言うなら勝手にしろ。そうでなければ、人を打ち倒して、会社の利益だけを考えて、「もっと」を考えて伸びていかなければいかない。

それ以外に人生の価値はない。それ以外に人生に勝ちはない。

 

ビジネス書を読んで、仕事のできる人間になって、人生に勝て。

若い人よ、それ以外に生きる意味も資格もない。敗者に救いはない。それはおれが自信をもって言えることだ。

あらためてそう思った。だから、そうしなさい。それだけだ。

 

 

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(2022/9/22更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:黄金頭

横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。

趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。

双極性障害II型。

ブログ:関内関外日記

Twitter:黄金頭

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