どうもこんにちは、しんざきです。

リモートワーク時はちゃぶ台にノートPCを置いて仕事をすることが専らでして、今までは簡易な座椅子に布団やらクッションやらを配置して誤魔化していたんですが、最近そこそこのお値段のちょっといい座椅子を買ってみたら滅茶苦茶姿勢が楽になってQOLが格段に向上しました。

やっぱり靴と椅子にはお金を使わないとなーと実感した次第です。

 

昔所属していた会社の話をします。

ところどころぼかした書き方になってしまうのはご勘弁ください。

 

その会社の名前を、仮にA社とします。

A社はとある業界向けのパッケージソフトを主力製品とする中小企業でして、BtoBの保守運用が売上のかなりの部分を占める、昔ながらのソフトウェアベンダーでした。

 

ある時A社で、「セクショナリズム」が問題になったことがありました。

皆さんセクショナリズムってご存じですよね?

 

日本語にすると部局割拠主義っていうらしいですけど、企業の各部署がお互いに協力し合わないで、自分たちの権利や利益だけにこだわり、排他的な動きをすることです。

縄張り主義とか派閥主義なんて言い方もしまして、お役所とか公的省庁を批判する時にもちょくちょく出てくる言葉だと思います。

 

その時のA社では、例えば「風通しが悪い」とか「縦割り過ぎる」といった言葉と共に、次のような傾向がやり玉にあがっていました。

・各部署が情報共有や情報開示に積極的でなく、お互いが何をしようとしているか把握しないまま動いている
・結果、色んなプロジェクトの動きがちぐはぐになってしまっている
・守備範囲が不明確な仕事を押し付けあって、互いに責任をとろうとしない
・単純に部署と部署の仲が悪い

まー根本的には部署間の相互不理解と連携不足の問題なんですけど。

 

例えばの話、営業系部署と技術系の部署が同一のお客様に個別にアプローチして、営業系の部署はパッケージ、技術系の部署は運用サービスという、自社内の全く違う商品を勧めてしまってお客側の担当者から不審げな問い合わせがくるとか、割と普通でした。それくらいすり合わせしろよって話です。

 

webページの統括的なコンテンツマネージャーがきちんと決まっておらず、各々の部署が自分の領域を持っていた為、相互のページで情報の齟齬や矛盾が発生する、なんてこともしばしばありました。

営業部署が技術系の部署のスケジュールを把握しないで勝手にお客さんとスケジュールをコミットしてしまって、開発のスケジュールがわやくちゃになる、なんてこともちょくちょくありました。

 

当時は、「まあ確かにこれ問題ですよねー」とは思ってたんですよ。

組織の強みっていうのは「集団で動ける」ことに他ならないのに、その組織の中で派閥が出来て連携が阻害されるのはちょっともったいなさ過ぎます。

もともとたいした規模の会社でもなし、部署間で協力し合わないでどう戦うのって話でもありますし。

 

経営層もこの「部署間の連携不足」というものを問題視しまして、「セクショナリズムの打破」というお題目をばーーんと幹部会議でぶち上げました。

「風通しの良い会社に!」というのが一種のスローガンになって、「部署間連携」だとか「横ぐしを通す」といった言葉がしょっちゅう飛び交うようになりました。

 

ところがですね。その結果何が起きたかというと、「何故かどう考えても守備範囲外、責任範囲外の仕事がバリバリ飛んでくるようになった」んです。

 

例えば。当時の私が所属していたのってパッケージ製品の開発を行う部署の一つだったんですけど、何故かwebページに掲載するお客様向けのサポートページの保守することになりました。

どう考えても顧客対応、カスタマー系の部署の仕事です。

 

ところが、「いやこれ我々の仕事ではないですよね?」って指摘すると

「いや、セクショナリズム打破だから」

「技術知識も絡む仕事なんだから無関係じゃないだろ?」

とかいう言葉が返ってくるわけです。

 

むしろ、「そういう言い方がセクショナリズムを助長するんだ」とか怒られたりする。こういうことが山ほど起きました。

 

これどういうことかというと、「セクショナリズムの打破」というお題目が「守備範囲を無視して、立場が弱いところに面倒な仕事を押し付けるための免罪符」として使われてしまった、ってことなんですよね。

 

結果として、押し付けられる部署は疲弊するし情報共有の余裕もなくなるし、結果的にはますます部署間連携が妨げられて、いいことなんて一つもないんですけど。

 

本来A社が抱えていた問題の本質は、「部署ごとに情報を抱え込んでしまってきちんと連携が出来ていなかった」という点にこそありました。

また、守備範囲や責任範囲が明確に決まっていないタスクがあって、それについて情報整理をする部署が存在しなかった為、情報共有のチャンネルがちゃんと動作していなかった、というのも問題でした。

 

「この業務についてはこの部署が責任部署なんだから、何をするにも必ずこの部署に情報連携をしなくてはいけない」というフローこそ必要だったわけです。

 

であれば、やるべきことは

・部署ごとの責任範囲の明確化
・それに基づく情報連携

ですよね?むしろ「まず守備範囲を明確にして、その上でお互いに相手が何をやっているか把握し合うこと」こそあるべき姿でした。

 

ただ、確かに一見すると、「うちの守備範囲はこっからここまでだからな」って決めることって、「部署ごとの壁を高くしている」ように見えてはしまうんですよ。

むしろセクショナリズムを推し進めているように、ぱっと見は見えてしまう。

だから、「セクショナリズム」という言葉を表面的に捉えた人たちによって、逆に責任範囲がわやくちゃにされてしまったと。そういう話だったんです。

 

今なら「セクショナリズムの打破ってそういうことじゃねーだろ」ってきちんと反論出来るんですけど、当時はまだそこまで明確に言語化出来ませんでした。

 

実を言うとこれ結構あるあるな事象らしくって、その後も何回か、こういう

「セクショナリズム打破という言葉を体よく仕事を押し付ける理由づけにしようとしている」

という場面に出会いまして、幸いなことに今はちゃんと反論出来るようになったんですが。

 

***

 

これは割と一般的に言ってしまっていいと思うんですが

「ある問題に分かりやすい名前をつける時には、根本原因の深堀りと共有をしっかりしておかないと危ない」

という話があります。

 

上記の問題の場合、部署間の連携不足という問題に「セクショナリズム」という名前をつけてしまうことがそもそも適切だったのか、という割と根本的な話がありまして。

セクショナリズムという名前がついてしまったが為に勝手な解釈をされる余地が出来てしまった、という側面もあると思うんですよね。

 

課題や問題に名前をつけると、なんかキャッチーになるしかっこいいし、それだけで問題の解決へ一歩前進したような気になる。

けれど、その名前が一人歩きし始めて軸がぶれると非常にまずい。

 

例えばの話、単に「コンプライアンス部門からの連絡がちゃんと行き渡っていませんでした」というだけの話に「ガバナンス不足」とかいう名前をつけてしまうことによって、単にグループウェアの機能不備を修正すれば済んだ問題なのに、会議が何個も増えたり紙ベースに連絡方式が退化したりとか、色んな人が妙な解釈を始めて大変面倒なことになったりするわけです。

 

ゲド戦記じゃないですけど、「名づけ」というのはおいそれと行っていいことではないと。

見た目のキャッチーさと分かりやすさに惑わされて安易な名づけを行ってしまうと後悔することもある、と、そんな話だったわけです。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
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(2025/6/2更新)

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

Photo by JB Kilpatrick