チャンスが平等ではないのはおかしい

「学歴とか役職によってできる仕事の範囲が違うのはおかしい」という、なんか気になるツイートが流れてきたので、読んでみた。

この文章を信じるとすれば、高校生が持った疑問だとのこと。

なるほど。

 

おそらく「チャンスが平等じゃない」というところが、引っかかるのだろう。

「ノウハウを不当に独占している」とも。

「どうしてで学歴とか役職によってできる仕事の範囲が違うんだしょうか、欧米の雇用形態みたいにとりあえずやらせてみなければわからないんじゃないですか?」と質問をしていた

他の高校生もこれは気になるのか、似たような質問が飛んだ

格差社会が広がるだけでチャンスが平等じゃないのはおかしいと思います」とか「起業が奨励されているのにそれはノウハウを不当に独占しているのではないでしょうか」

確かに指摘としては正しい。

 

事実、これを読んだ、ある経営者の方の感想は

「チャンスを平等に配分することは、確かにない。実績や信用、あるいは学歴によるのは当然。」

だった。

 

例えば、会社では、役職者は「人事権」を持つ。

それはつまり「チャンスを与える権限」といってもいい。

だから、会社の中では仕組み上、「チャンスは平等」なんてのは、ありえない。

 

文中では「欧米は違う」というようなことが書かれているが、多分間違っている。

これは欧米、いや、世界中で同じだ。

 

私が在籍していた会社でも、案件の割り当て(アサイン)という、強力な権限が役職者に集中していた。

だから、実力や才能に関係なく、上司に嫌われてしまうと「つまらない仕事」「出世につながらない仕事」「スキルがつきにくい仕事」ばかりが降ってきて、ロクなことにならなかった。

 

学校は「機会平等」を旨とする

ところが、こういうことを学校の先生がやると、大変な問題になる。

 

「素直な生徒には特別授業をしよう」

「あいつは気に入らないから、授業から締め出そう」

「態度が悪い奴の成績は下げよう」

ということを、普通の先生は表立ってはやらない。(内申点というものはあるようだが)

 

これは日本の学校教育ができうる限り、「機会平等」を目指してきたからだ。

 

教育学者の苅谷剛彦は著書の中で

「学校で子どもたちを公平に扱う平等、機会の拡大によって教育を国民すべてに開放しようとする機会の平等の追求が、戦後日本の平等主義の中心となった」

と述べている。

戦後の日本では、学校において子どもたちを等しく公平に扱うことが、平等な教育であると見なされてきた。

出身階級によって教育への価値の与え方が異なることを前提に、「結果の平等」を要求するのではない。どの子どもも教育への取り組み方においては同じであるという広範に広がった教育信仰を背景に、子どもを対等に扱う。

階級社会や多民族・多文化社会がもっているような、特定の階級、特定の民族集団と密接にむすびついた不平等のとらえ方とは異なり、学校で子どもたちを公平に扱う平等、機会の拡大によって教育を国民すべてに開放しようとする機会の平等の追求が、戦後日本の平等主義の中心となったと見ることができるのである。

それゆえ、教育の成果、といってよいのだろう。

 

学生が企業に対して「チャンスを平等に与えないのはおかしい」と思うのは、ある意味自然なのだ。

 

信用のおける人に任せたい、という建前

これに対して、冒頭のコラムの著者は「信用の置ける人に任せないと、危険だから」と説明している

才能があるかもしれないから誰にでもチャンスを与えるということをすれば、社会が成立しないのです。

信用や実績や信頼のある、この人なら悪いことはしないだろうという担保が欲しいからこそ、誰にでもできない仕事というのは存在しているのです。

ただ、この回答は私にはピンとこなかった。

というより、信用のおける人にチャンスを与えたい、というのは「建前」に近いのではないか。

 

実際に、企業の出世の要件として、「信用」は数ある要件の一つでしかない。

運がよいだけで出世する人もいるし、悪いことをしてのし上がる人物も少なくない。

 

また「信用のおける人」というのは、相対的な概念だ。

ある人にとって信用できる人が、別のある人にとっては信用できない人だというケースは、当たり前にある。

 

だから、上の文章に納得する人は、おそらく少ないだろう。

 

実は「チャンス」は平等。

なので「チャンス」は社会で、いったいどのように、振り分けられているのかを改めて考えてみる必要がある。

 

まず、最初に認識しておかなければならない重要なこと。

日本は自由主義、資本主義なので、実は「チャンス」はだれにでも平等に与えられている。

 

事実、商売は誰にでもできる。

公的な支援で、無担保、低金利で金を借りることもできる。

 

会社の設立に、出自のちがいを理由に断られたりすることはないし、法律の許す限り、どこで商売をやっても自由。

自営の場合は税務署で届け出をして、法人の場合は法務局で登記すればいいだけだ。

「門前払い」は事実上、ない。

また、インターネットの出現で、商売のチャンスはさらに広がっている。

 

実際、世の中には一人会社、自営業、フリーランスの人を含めれば、自分で商売をやっている人がかなりたくさんいる。

労働政策研究・研修機構の推計では、2018年12月時点で、全労働者の約10%から15%程度は、自分で商売をしている。

7、8人に一人だ。

 

つまり「起業は選ばれし者がやること」ではない。

フツーのおっさんが、よくわからない商売を野心を持ってやっているケースはよくある。

 

学歴、役職は商売の世界では「真に」関係がない。

そんなものは、クソくらえである。

お金を稼ぐことさえできれば、企業は存続できるし、人を雇うこともできる。

 

「チャンスがない」と思っている人は、大きく勘違いをしている。

チャンスはどこにでもある。

それを利用していないだけだ。

 

しかし、このような説明をすると「そんなことはわかっている」という方もいる。

だが「それでもなお、不平等である」と。

 

では一体、冒頭の高校生も含め、彼らは何に「不平等」を感じているのだろう。

もっと言えば、「学歴の価値」とは何なのだろう。

 

「既得権へのアクセス」は不平等に配分される

結論から言うと、学歴の価値は「チャンス」が与えられることではない。

チャンスは上で述べたように、平等に存在する。

 

そうではなく、学歴の本質的な価値は「既得権」へのアクセス権を得られることである。

既得権は、いったん得てしまえば楽であり、その後は対して頑張らなくても、継続的に高い収入を得ることができる。

 

その「権益」の配分は、学歴などによって、かなり格差がある。

まさに、不平等だといってもよい。

 

例えば、医師という巨大な既得権がある。

医師になるためには医学部を出て、国家試験に合格し、医師免許を取得せねばならない。

権益へのアクセスには、学歴が必要だ。

 

あるいは、「大企業社員」という巨大な既得権がある。

大企業の社員、特に就職ランキング上位の企業に入社するには、大卒資格、さらに言えば、序列で上位の大学の卒業資格が必要だ。

権益へのアクセスには、学歴が要求される。

 

公務員も同じだ。

何であれ、すでに強い「既得権」が築かれた世界に、「オイシイ地位」を求めて入りたいなら、そこに殺到する人々を押しのけて、自らの能力や実績を証明する必要がある。

 

したがって、冒頭の高校生は「チャンスがないこと」に不満を感じているのではない。

「既得権へのアクセスが、不平等に設定されていること」に、不満を感じているのだ。

言い換えると、

「学歴がないと、楽でオイシイ権益・地位にアクセスできないじゃないか」

と言っているのだ。

 

「既得権へのアクセス」を狙うか、「裸一貫」から成功をつかむか。

つまり、現在の世の中は、身分制社会で高い身分を持つ者が既得権へアクセスできたように、高い学歴を持つ者が、既得権へアクセスしやすい。

それは事実である。

 

だから、冒頭の高校生に対してかけてやれる言葉は、つぎのようなものになる。

「医者や弁護士」、「大企業の社員」あるいは「公務員」のように、すでにある権益にアクセスしたいなら、頑張ってその地位を競争によって獲得しなきゃならない。

みんながオイシイ地位を狙っているのだから。

それは、世界のどこへ行っても同じ。

 

でも、世の中には裸一貫で勝負をしている人々もたくさんいる。

不確実性の中で必死でもがく人々。

もちろん中には大きな成功をものにする人もいるが、その機会は、平等に与えられている。

 

どっちを選ぶ?

選択は完全に、自由だ。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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