最近、ニュースサイトや各種メディアの広告欄に、「身体的なコンプレックスを煽る」ものが目立ちます。
肥満、薄毛、顔のしみ、など、体の一部を露骨に強調する「コンプレックス広告」の表現がエスカレートしており、これらの広告にヤフーはガイドラインを改訂し、9月から運用しています。
企業にとって「わかりやすい広告」「訴求力のある広告」は欠かせないものですが、広告のあり方は多くの意味であり方が問われる時期を迎えています。
JAROへの苦情、ネットがテレビ超え
JARO=日本広告審査機構、というとテレビCMの印象が強いかもしれませんが、JAROの2019年度についての報告によると、インターネット広告についての苦情が初めてテレビを超えました(図1)。
図1 JAROに寄せられた「苦情」の媒体別件数(出所「2019年度の審査状況」JARO)
https://www.jaro.or.jp/news/20200529b.html
増加率を見ても、インターネット広告に関する苦情が急増しているのがわかります。
そして、苦情の内容はこのようなものです(図2)。
図2 JAROに寄せられた「苦情」の内容の内訳(出所「2019年度の審査状況」JARO)
https://www.jaro.or.jp/news/20200529b.html
「広告表現」が最も多くなっています。
そして実際にJAROが警告を出した例として、「身体的なコンプレックスを強調するもの」がいくつも含まれています。
インターネットに関するものについて、一部を紹介するととこのようなものです。
・「1週間で10kg以上体重が減少したら使用を控えてください」など劇的な痩身効果があるかのように標ぼうしたサプリメント(インターネット〈メールマガジン、自社通販サイト〉)
・塗るだけでシミが消える、厚生労働省認可などとうたった医薬部外品のクリーム(インターネット〈ニュースサイトインフィード、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〉)
・比較サイトで1位とされた商品のリンク先販売サイトで、デブ菌やヤセ菌などと表示されたサプリメント(インターネット〈ニュースサイトバナー、アフィリエイトサイト〉)
・男性ホルモンに働き掛けてヒゲが生えにくくなるかのように表示した化粧品(インターネット〈ニュースサイトインフィード、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〉)
・シミに効果があるかのようにうたった化粧品(インターネット〈通販モール〉)
近年、ニュースサイトやSNSなどでよく見かけるようになったこれらの広告ですが、「怪しい」だけでない大きな倫理的問題を孕んでいます。
個人の身体の一部のコンプレックスを煽り、卑下するような種類の広告が多く見られるようになり、「コンプレックス広告」として社会問題になっているのです。
ヤフーの新しい広告掲載基準
ヤフーは2020年6月に、「コンプレックスに関する表現の広告審査について」という通知を出し、9月から新しい広告審基準を適用しています。
掲載不可としたのはこのような広告です。
<リンク先ページ例>
下記のようなストーリーが漫画の体裁などによって表現されているもの
・交際している相手から、太っていることが原因で別れを切り出されたが、痩せたことによって、別れることなく、以前のような関係に戻った。
・友人から体毛が濃いことは不潔なので、体毛をなくしたほうがよいと勧められた。
・自分がモテないことを友人に相談してみると、髭が濃いことが原因だと言われた。
そして、新しい審査基準を適用する理由として、このように説明しています。
人はそれぞれ多様な特徴を持っており、身体的な特徴もその一つです。その特徴は多様性であり、正しく理解することが大切です。一部の身体的特徴をコンプレックスであるとして表現することは、差別意識を温存、助長するものであり、決して許さるべきものではないと考えています。そのため、この様な広告表現については、広告掲載基準に抵触すると判断し、今後該当する広告については広告掲載をお断りいたします。<引用「コンプレックスに関する表現の広告審査について」ヤフー・ジャパン>
なお、SNSコンサルティングの「ネオレア」が全国の中学・高校・大学生を対象に実施した調査によると、9割の回答者が「SNS広告を見て、不愉快である・不愉快に感じたことがある」と回答しています(図3)。
図3 SNS広告を不快に感じた若者の割合
(出所「どんどん過激になっていくSNS広告。若者は外見コンプレックスを取り上げた広告をどう感じているのか?〈実態調査〉」株式会社ネオレア
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000048437.html
不愉快に感じた広告内容として挙げられているのは、やはり体毛や体型、肌荒れなどのコンプレックスを取り上げてネガティブに表現しているものです。
ネオレアのこの調査によると、脱毛をしていない女性を「毛ダラケ娘」と表現したり、「脱毛をするのにお金がないからパパ活をする」という内容の広告もあるということです。
それは一部の心ない事業者がやることだろう、と感じてしまうかもしれませんが、どの企業でも作成してしまう可能性はないとは言い切れません。
というのは、まず現代の広告手段としてSNSなどのインターネット広告は費用を抑えられるメリットがありますが、一方で膨大な量の広告が出されているのもまた現実です。
その中で、複数のキャッチコピーを準備し、どれが最もクリック(タップ)率が高いかという検討を進めていくと、表現はどんどん過激になっていってしまうからです。
「知らず知らずのうちに」こうした不適切広告を作ってしまっていたとなると、企業としては根本的な問題になってしまいます。
「知らず知らずのうちに」差別の助長に加担している、ということになってからでは取り返しがつきません。
法令違反のおそれも
これらの広告は倫理的な問題にとどまらず、法令違反になるおそれもあります。
まず、健康食品などの場合は薬機法(薬事法)違反にあたる可能性があります。
薬機法では、医薬品でないものを、医薬品のように効能効果を表示して販売することを禁じています。治療を思わせるような表現もNGです。
これを回避するために直接的な言葉を使わず、かつ「個人の感想」としたものも多く見られます。
しかし厚生労働省は、医療法を改正し広告についてのガイドラインを定めています。
現在は医療機関のみが対象ですが、ガイドラインでは、個人の体験談の広告への掲載、また、事実であったとしても著名人が利用した旨の記載などを禁じています。
コンプレックス広告について現在多くの苦情が寄せられていることを考えると、規制の動きは今後サプリメントなど一般の商品に広がっていく可能性は十分にあるでしょう。
そして、健康に関する商品に限らず、景品表示法について注意が必要です。
元々、「優良誤認表示」「有利誤認表示」そのほか誤解を招く表示や誇大広告は禁止されています。
広告クリック数の競争が激しくなる中で、一度基本に戻って考える良い機会でしょう。
消費者庁が問題視する「浅慮」という心理状態
消費者庁の調査では、コンプレックスの有無と購入・契約の有無について、このような傾向が明らかになっています(図4)。
図4 コンプレックスと購入・契約の関係
(出所「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会 報告書」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/future/project/project_001/pdf/project_001_180831_0003.pdf p5
そしてSNSに関して、
「勧誘者は身元を隠して対象者にアプローチできる」
「同じ話題に興味を持つ人」
など、勧誘パターンに適合する被勧誘者を効率的に集めているために、消費者被害に遭うきっかけになり得ると分析しています。
またこの際、着目されているのが「浅慮」という心理状態です。
「浅慮」とは、本来の意思決定から注意がそれたり、思考の範囲が狭まったりすること、あるいは、思考力が低下するような心理状態を指し、浅慮に陥りやすい消費者の属性や状況=コンプレックスを抱いていることについても解約条件になり得るのではないかと考えられています。
浅慮の一例として消費者庁が紹介しているのは薄毛に関するものです(図5)。
図5 浅慮による契約事例(出所「いわゆる『つけ込み型』勧誘について」消費者庁)
この事例では「今日だけだ」と、考える時間を与えていないことも問題視されています。
悩みのない人からすれば「冷静に考えれば契約しなかったのではないか」と思ってしまうかもしれませんが、とコンプレックスを抱えている人はこのような心理状態に陥るのです。
このような点に対する配慮も、求められるようなっていくでしょう。
「多少煽っても大丈夫だろう」という感覚は通用しなくなります。
「価値観」を消費者と共につくる
広告は、消費者の選択肢を自社に向かわせるための手段として欠かせないものです。
しかし、コンプレックス広告やつけ込みという手法だけでなく、広告は消費者の選択肢を「狭める」ものであってはならない、という考え方が広がりつつあります。
その観点から、最近話題になった刃物メーカー貝印の広告があります。
「ムダかどうかは、自分で決める。」というコピーで展開したキャンペーンに使われているのは、顔に大きなあざがあり、かつ脇の毛もはやしたままのように見えるCG人物です。
「#剃るに自由を」というハッシュタグのキャンペーンで、顧客を巻き込んだ「提案型」コミュニケーションをとっています。
剃刀を販売する手前、体毛を気にして欲しいのではないか、と思ってしまうかもしれませんがそうではないのです。
こうしたプロモーションは、顧客が本当に求めているものを知る手段にもなり得るからです。
ダイバーシティの時代、価値観も商品も「押し売り」ではなく「顧客と共につくる」ものへと変容する必要があると言えるでしょう。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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【著者プロフィール】
株式会社識学
人間の意識構造に着目した独自の組織マネジメント理論「識学」を活用した組織コンサルティング会社。同社が運営するメディアでは、マネジメント、リーダーシップをはじめ、組織運営に関する様々なコラムをお届けしています。
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Photo by Jaimie Harmsen