昔話をします。
私が小学生の頃、「ゲーム機やゲームをたくさん持っている同級生」というのは、一種のヒーローでした。
当時はファミコンブームを皮切りに、様々なゲームハードが群雄割拠を始めた時代です。
当然、「面白そうなゲーム」も色んなハードで発売されるものでして、小学生の経済力ではとても遊びたいゲーム全てを遊ぶことは出来ませんでした。
持っているゲームハードは大体の場合一つ、ソフトはいいとこクリスマスや誕生日に一本ずつ買ってもらうのがせいぜい。
となると、「面白くないゲームを掴みたくない」と事前情報収集に血眼になるのは当然のことでして、「友人同士でのゲームの貸し借り・あるいは友人の家に行ってゲームを遊ばせてもらう」という機会も最大限利用しなくてはいけませんでした。
その為、クラスのゲーム好きの間では「今どんなゲームをマークしているか」「どんなゲームが面白そうか」「どんなゲームを買ってもらうつもりか」というのはかなり綿密に情報交換することになりまして、なるべく被りなくゲームを入手して、自分がもっていないゲームは友達から貸してもらって遊ぶ、というのが一般的な行為として定着していました。
当然、遊べるのは発売日からだいぶ遅れての話になってしまうのですが、贅沢は言っていられません。
そんな中ですから、「このゲーム、あんまり面白くないな…」と思っても、折角買ってもらったゲームなんだから搾りカスが出るまで遊び尽くす、ということはごく自然なことでした。
その結果、私は「ゴーストバスターズ言われてる程つまんなくないやん!アレはアレで面白い部分もあるんやで!!」という論者になったんですが、まあその話は一旦置いておきます。
そんな中でも、「色んなゲームハードをもっていて、ゲームタイトルも豊富に所有している」という、恵まれた子も中にはいまして、そういう子は「遊ぶゲームがたくさんあるから気前よくゲームを貸してくれるし、家に遊びに行くと色んなゲームを遊ばせてくれる」ということで、一種のヒーロー、ないし権力者となっていきました。
持てるものと持たざるもの。ゲームを資本とした資本主義経済です。
小学校の頃の私のクラスに、F井くんという子がいました。
F井くんは、なによりも「父親がゲーマー」という稀有な強みをもった少年でして、自分からねだらなくてもお父さんが勝手に色んなゲームを買ってくれるという、私から見るとすさまじくうらやましい環境にいました。
当時、ゲーム好きであって、しかもそのことをおおっぴらにしている大人はかなり少なかったので、F井くんはそういう点でも「特別な少年」として一種のヒーロー的な立場にありました。
F井くんの家には、ゲーム富裕層の標準装備であるツインファミコン(ディスクシステムのゲームとカートリッジのゲーム、どちらも遊べるファミコン)は当然のことながら、PCエンジンやメガドライブ、果てはX68000といったブルジョワアーケードゲーマー御用達のゲーム機まで揃っていました。
とはいえ、X68000はF井くんのお父さんの部屋にあったので、実際には1,2回ゲーム画面を見せてもらったくらいで
「なんやこれものすげえ…これもうゲーセンじゃん……!!ゲーセンのゲームじゃん……!!!」
と思いはした(ただ、当時はX68000というゲーム機自体をそもそも知らず、「あれがX68000だったんだ!」と気付いたのはだいぶ後の話でした)んですが、主戦場はやはりファミコン、PCエンジン、メガドライブでした。
我々はF井くんの家で、わいわい色んなゲームを遊びました。
***
さて。ここに、「ダウンタウン熱血行進曲 それゆけ大運動会(以下熱血行進曲)」という、凄まじく面白いゲームがあります。
メーカーはテクノスジャパン。
「熱血硬派くにおくん」や「ダウンタウン熱血物語」のキャラクターが、「運動会」という舞台で飛んだり走ったり殴り合ったり人間魚雷で特攻したりの大活躍をするゲームでして、恐らくご存じの方も多かろうと思います。
「対戦が盛り上がるゲーム」という評価軸でいうと、ファミコンタイトル全てを見渡しても5本の指に入る一作ではないでしょうか。
熱血行進曲はなによりも対戦が熱いゲームだったんですが、その理由の一つに「下克上の楽しさ」というものがあったと思います。
熱血行進曲では、4つのチームの中からプレイヤーが1つを選ぶことになります。
主人公のくにお率いる「熱血高校」、くにおのライバル「りき」が率いる「花園高校」、様々な学校の連合チームである「各校連合」、そして熱血物語では敵役だった「冷峰学園」。
この中では「冷峰学園」が明確にキャラ性能的に有利でして、特に「りゅういち」「りゅうじ」「こばやし」の3キャラは頭一つ抜けた性能、競争系の種目では走力最高の「もちづき」がとてつもない強敵でした。
「キャラ性能に差がある」からこその楽しさ。
「公平でない」からこその楽しさ、明確にキャラ性能差があるからこその楽しさ、遊びの幅というものがありました。
例えば弱いキャラで必死に上位キャラに抗う工夫をしたり、一方強いキャラで弱いキャラを蹂躙したり。
自分は「〇〇使い」だということにプライドを持ったり、一人のキャラをひたすらつきつめてみたり。
「ストII」以降の対戦格闘ゲームでは一般的になった遊びですが、ファミコン時代はまだまだ「1Pも2Pも公平に遊べる」という思想のゲームの方が多く、熱血行進曲や「キン肉マンマッスルタッグマッチ」のような、極端なキャラ差がある対戦ゲームは希少だったと思います。
さて。F井君はこの「熱血行進曲」も当然購入してもらっており、基本的に「仲間内が買ったゲームを自分でも買う」ということにタブー意識をもっていた我々は、必然熱血行進曲をF井くんの家で遊ぶことになりました。
F井くんの家にもマルチタップまではなかったので、我々は1vs1をひたすら繰り返す形で熱血行進曲を遊んでいました。
ただ、これも我々の中で、「対戦ゲームで何かを選択する時は、ゲームの持ち主にその優先権がある」というルールがありまして、チーム選択は常にF井くんが優先でした。
そして、小学生に遠慮や空気読みなど存在せず、F井くんは常に最強の「れいほう」チームを選択していました。
前述しましたが、れいほうはチームとして一つ頭が抜けた性能であり、F井くんのりゅういちやこばやし、もちづき達は猛威を振るいました。
当時は「かちぬきかくとう」の回数を9回にして遊ぶのがデフォルトだったのですが、こばやしのマッハチョップ、りゅういちやりゅうじの龍尾嵐風脚に、他のメンバーはただただ蹂躙されるばかりでした。
持ち主が一番練習時間を取れるのも当然のことで、ゲームの習熟度もF井くんがトップ。
常にF井くんがプレイをしていた訳ではないものの、「F井くんには誰一人勝てない」という状況が続きました(基本的には「なんでもあり」ルールなものの、唯一「無限拾い」という稼ぎ技だけは禁止されていました)
もちろん他メンバーは理不尽に思う場面もあったものの、ゲーム自体は超面白いですし、F井くんの家の他のゲームを遊べなくなっても困るので、F井くんがれいほうを使うこと自体には誰も文句を言えませんでした。
そんな中、私とT田くんという二人のメンバーが、ある時「打倒れいほう」ということで研究を始めました。
ファミマガや〇勝ファミコンなどのゲーム雑誌を始め、様々な「熱血行進曲」の情報を集めて、れいほうの猛威を食い止める為に。
F井くんに一矢を報いる為に。我々は、普段はやらない「よそのクラスの熱血行進曲持ちに頼み込んでゲームを練習させてもらう」という行為や、パソコン通信をしていた兄に頼み込んで「東京BBS」で熱血行進曲の情報を調べさせてもらう、なんて行為にまで手を伸ばしていました。
多分あれが、私にとって、「対戦ゲームでの攻略と試行錯誤」の原体験だったのだ、と思います。
勝利だけが目的で、情報だけが正義でした。
相手は明らかに強力なキャラを使っていて、しかも腕前も相手の方が上となれば、遠慮をしている場合ではありませんでした。
当時、チームごとの性能差は、「れいほう >> れんごう >> ねっけつ >> はなぞの」 と認識されていました。
りゅういち – りゅうじ – こばやし のラインには及ばないものの、れんごうには「ごうだ」と「ごだい」という二人の強力なキャラがいました。
ごうだはオールマイティーかつ「ずつきスペシャル」という強力な必殺技でリングアウトが狙えますし、ごだいは木刀さえ持ち込めれば「ぼうじゅつスペシャル」という強力な技で相手をハメることが出来、れいほうのこばやしに対する貴重な対抗戦力になり得ます。
また、「くまだ」で相手を人間魚雷で投げ飛ばしリングアウトを狙う戦術もありました。
私も当初は、れんごうチームをひたすら使いこんで打倒れいほうを目指していました。
ただ、攻略を進める内に、「ごだいの木刀持ち込みが安定しない」という問題に直面しました。クロスカントリーという最初の競技で木刀を確保するのが定石だったのですが、相手もぼうじゅつスペシャルの強力さは分かっているのでごだいの木刀取得が妨害され、仮に木刀が確保出来てもクロスカントリーで得点を離されてしまい結局総合得点で勝てない、というゲーム展開になってしまうことが多かったのです。
私とT田くんが勝機を見出したのは、それまで「最弱」とみなされてほぼ誰も使っていなかったはなぞのチームでした。
パソコン通信で話題になっていたのですが、熱血行進曲には「ジャンプキックはめ」というもう一つの強力な技があり、ジャンプキックを左右に繰り返して当てることで、相手の体力をかなり安全に削り取ることが出来ました。
そして、チームリーダーで唯一ジャンプキックはめが出来るのがはなぞのの「りき」、もう一人の有力メンバーが同じくはなぞのの「まえだ」でした。
りきのマッハパンチはめと撃たれ強さも意外な強力さを持っており、さおとめのオーラパンチは、龍尾嵐風脚連打モードになったりゅういちりゅうじを安全に撃墜することが出来る手段でした。
また、わしおには「武器投げの威力が最強に近い」という強みがありました。
何より、ノーマークのはなぞのがトップのれいほうを下克上するなんて、最高じゃないか?私とT田くんはそう言葉を交わして、二人ではなぞののゲームメイクを徹底的に詰めていきました。
「かくとうのゆびわ」を確保して人間魚雷で立ち回る動きも安定して、CPU相手にはまず負けがなくなりました。
多分、あれも一つのPDCAだったのだと思います。
様々なアイディアを話し合いながら、私とT田くんは「熱血行進曲」での試行錯誤を続けていきました。
そして迎えた決戦の時。
残念ながらクロスカントリーで大幅な差をつけられ、勝ち抜き格闘でこばやしを止められなかったT田くんに対して、私はクロスカントリーでのマークの薄さを活かして水中ステージでもちづきを沈めることに成功。
こばやしには暴れられたものの、りゅういちとりゅうじにはそれぞれりきとまえだで対抗、主力メンバーの体力低下で出てきたはやさかはさおとめのオーラパンチでダウンを奪い、場外に投げ落とします。
そして最優秀選手賞を「さおとめ」で奪い、遂にF井くんのれいほうを下すことに成功、勝利の咆哮をあげたのです。
まあ結局勝てたのほぼ一回切りで、あとは殆どれいほうに勝てないまま、その内みんなの興味が「ワギャンランド2」に移っちゃったんですが。
まあなにはともあれ、「対戦ゲームについて研究し、格下キャラで格上キャラを倒した」という成功体験については、かなり私の中に強く焼き付けられている、という話なのです。
***
あれから30年程の時が経ち、今では私が「ゲーム好きの父親」になりました。
私が買ったゲームを子どもたちは喜んで遊びますし、彼ら彼女らなりの攻略を進めてもいて、それぞれのスタンスでゲームと付き合っているように思います。
「A列車でいこう」で株式投資について知ったり、「ゼルダの伝説 BotW」で始まりの台地の直後にウオトリー村に行ったり、私自身子どもたちの「遊び方」に驚かされることもしばしばです。
あの日あの時の熱血行進曲の攻略のような体験が、彼らの前に待っているかどうかまでは分かりませんが、子どもたちなりに、ゲームとの素敵な関係を築いていってもらえればいいなあ、と。
そう思うばかりなのです。
長々と書いて参りました。最後に、この記事で言いたかったことを簡単にまとめてみます。
・ダウンタウン熱血行進曲はファミコンでもトップクラスの激熱対戦ゲー
・ゲームを試行錯誤しながら攻略する、って遊び滅茶苦茶楽しいですよね
・キャラ性能に差があるからこそ攻略し甲斐がある、ってところも結構あると思うのです
・けどこばやしはちょっと強すぎだったと思う
・関係ないんですが各校の応援ガールたちもとても可愛くていい味出してましたよね
・くにおくんシリーズのヒロインは長谷部派です
・「かちぬきかくとう」をクローズアップした「ダウンタウン乱闘行進曲マッハ」も面白いのでおすすめです。Switchで遊べます
・上記の話と全然関係ないんですが、ニンテンドー3DS用ソフト「ダウンタウン熱血物語SP」が、マジで激烈面白いんで皆遊んでみてください。リメイクというよりはほぼ完全新作、熱血物語で語られていなかった部分が完全補完されています。熱血物語遊んだことある人は是非
以上です。特に最後の一つが重要です。よろしくお願いします。
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【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
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