かつて私が訪問していた会社に、面白い方がいた。その方は部門長、20名程度の部門を統括しており、私はその方の手助けをするために、その会社に月に2回程度、訪問していた。
なかなか業績もよく、その会社は非常に伸びていたように記憶している。
3回目くらいの訪問の時、その部下の方々と食事をする機会があったので、色々と会社の事を聞いてみた。
すると、何名かの人が、「部長には少し困っているんですよ」と言う。
意外だった。「どういうことでしょう?」と尋ねると、皆「部長は、すぐに「うん、それもいいね。じゃやってみて」と言うんですよ。こっちは、やったほうが良いかどうかを聞いているのに…。」
と言っている。
私は不思議に思ったので、「やりたいようにやらせてくれるんなら、いいじゃないですか。」と、言った。
しかし、皆は「でも、失敗したら全部ムダになってしまいます。部長にきちんとやり方を教えて欲しいんです。」と不満そうだ。
そこでわたしは、「ということは、部長は成果の出る方法を知っている、ということですかね。」と聞いた。
部下の方々はそれに対して、「成果の出る方法を考えて、皆に教えるのが部長の役割じゃないですか」と言った。
■
なかなか難しい問題だ。
部長は自由にやらせてあげようとしているが、部下はそれを歓迎している様子はではない。
どうしてこのようなことになったのか、私は部長に話を聞いた。
「部長、部下の方々のいうことに対して、いつも、「いいね、やってみて」と仰るそうですが…」
「はい、そのとおりです。」
「それに対して少なくない方が、「部長がきちんと教えてくれない。」と言っていることはご存じですか?」
「もちろんです。いつも言われますよ。」
「それを聞いて、どう思われていますか?」
部長は少し笑った。
「そのとおりですね。私も「こうすればいい」という方法を知りません。」と言った。
「そうなんですか?」私は驚いた。
「そうです。でも、仮に私が知っていたとしても、教えないでしょうね。」
■
「やり方は知らない。知っていても教えない。」と、部長は言ってます。
私は、社員の方々に言った。「やっぱり、自分で考えるしかないですね。」
すると、部下の方々は口々に言った。
「やっぱりそうだよなー」
「あの部長、やっぱり頼りにならないよね―」
「予想通りの反応です」
私が、「思ったより皆さん、がっかりしていないですね」と言うと、
皆は口々に、「もう慣れっこですよ」と言った。
若手の1人は、「まあ、やれるだけやります。後は神のみぞ知る、ですよ」と言っている。
■
私は、しばらくしてまた部長にお会いした。
「最近、いかがですか?」と聞くと、
「1人、上手いことやっている者がいて、なかなか調子いいですよ。」という。「みんなに、彼から学べ、と言っています。私が教えるよりもずっといい。」
私は、「そうですか、良かったですね。」と言うと、部長はこう言った。
「安達さん、私は頼りにはならない部長です。しかし、「適材適所」はわかっているつもりです。今回の仕事のやり方も、私よりも彼が考えたほうが良いと思いました。私がやったことは、人の配置だけです。誰に、何をやらせるか、上司ってのは、それを考えるだけでいいんですよ。現場にあれこれ仕事のやり方で口を出しても、結局反発されるだけですから。」
私は一つの疑問が浮かび、こう聞いた。
「でも、成果が出るまでに時間がかかるのでは?みんなが怠けたらどうするんですか?」
部長は即答した。
「みんなが怠けることはありません。ただし、成果が出ない仕事をダラダラやらせることは絶対にしません。成果が出なければモチベーションが上がりませんので、すぐに仕事を変えます。これは鉄則です。それをしないと、たしかに社員は怠けます。」
「なるほど」
「成果があがっているうちは、みんな働き者ですよ。」
なるほど、教えなくても、信頼されなくても、部下のモチベーションは上がるのだ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)