20040830122820「あきらめたら、そこで試合終了ですよ…?」は、漫画「スラムダンク」で、主人公たちのチームが試合を諦めかけた時、監督が発する言葉である。

諦めなければ、可能性は残されている。それを信じさせてくれる物語は多い。むしろ、そうでなければお話として面白く無い。

 

成功の秘訣は何ですか?と聞かれ、松下幸之助は言った。

「成功するまでやり続けることです」

彼は巨大企業を作り上げ、成功した。

 

私達のほとんどは、諦めてはいけない、と教えられ、諦めることに一種の「罪悪感」のようなものを抱く。

それは、とても強い制約であり、期末などに、「目標達成をあきらめるな!」という発破をかける企業はとても多い。

 

しかし、「諦めない」という選択肢は常に正しいのだろうか。

例えば恋愛においても、「こちらを振り向いてくれない相手」を諦めないほうが良いのだろうか。

株式投資にしても、「大損をした株」を塩漬けにして、「いつか株価は上がる」と、諦めないほうが良いのだろうか。

多分、そんなことは無いだろう。諦めた方が良いこともたくさんあるに違いない。

 

では、境界はどこにあるのか。

まず「理性的に」考えてみよう。この場合、「投資対効果」を考えればよい。

例えば、それまでに使った労力やお金を計算し、成功した際に得る予定の収益を計算する。

その時にまだ回収が可能あれば続ける。回収不可能であれば撤退する。

 

「諦めたら試合終了」と言われた時、その時点で逆転勝利の可能性があり、なおかつ頑張っただけの見返りのある試合なら、諦めないほうが良い。

理性的に考えればそういうことになる。

 

しかし、「諦めるな」という言葉はそのように理性的に使われているばかりではない。

例えば、売上目標が通期で10億円だったとする。第一四半期で売上が1億しかあがっていないとき、会社はこの目標を「諦めるな」と言うだろうか?

また別の例えとして、全期間で8ヶ月のシステム開発ブロジェクトの進捗をチェックしたところ、最初の2ヶ月で、進捗は全体の8分の1だった。あなたが責任者だったら、プロジェクトマネジャーに、「諦めるな」と言うだろうか?

 

現実には、上の2つの例とも、「諦めるな」と会社は言うだろう。

だが、上の例で目標達成、あるいは納期以内にプロジェクトの完遂ができる可能性はほぼゼロだ。

ハロルド・ジェニーンが言うように、最初の四半期の売上目標が達成できなければ、年間売上目標も達成できない。プロジェクトマネジメントの世界では、あれこれ対策を講じたとしても、20%以上の遅れが生じたら、納期遵守は絶望的、と言われる。

 

なぜこのような「非理性的」な事が行われているのか。それは、「一度決めた目標」を変えることは、「目標を軽んじる」ことにつながると考えている人が多いからだ。

社員が「どうせ目標は変わるから」と、最初から頑張らないのではないか、一生懸命働かないのではないか、と考える経営者が多いからだ。

でも、本当にそうなのだろうか?そのようなデータは見たことがない。

また、「人事評価上、目標を期の途中で変えることが出来ない」という企業もある。これもおかしい。事業が主であり、人事評価は従のはずである。人事評価に事業が左右されることも不思議だ。

 

 

したがって、ピーター・ドラッカーが言うように、目標はそもそも可変であるべきだ。

 

”もちろん、目標なるものは鉄道の時刻表ではない。それは航海のための羅針盤である。それは目的地に至る航路を指し示す。現実の航海では、嵐を避けるために予定の航路を何マイルも外すことがある。(中略)

同じように、事業の目標を達するには、障害物を避けるために迂回しなければならないことがある。実際のところ、障害物との正面衝突を避けて迂回する事こそ、目標によるマネジメントにおいて最も重要な事である。

不況の時には目標の達成を遅らせる必要もある。暫時停止する必要もある。あるいは、競争相手による新製品の導入など情勢が変化すれば、目標そのものを変更しなければならない。したがって、目標は常に点検する必要がある”(現代の経営)

 

目標は羅針盤であるから、必ず必要なものである。しかし、それに固執することはマネジメントの無能を示すものであり、単に障害物との正面衝突を楽しんでいるだけにすぎない。

また、「1年間は目標を変えない」という決定も全く意味が無い。一年という単位は事業期間の単位ではなく、会計期間の単位であるからだ。

 

 

「従業員を精神的に鍛えてやる」という「目標必達」も、やりたい経営者は勝手にやればよい。

個人が「目標にこだわる」も、個人的にやるならば別に反対する理由はない。

 

しかし、組織としてマネジメントを考えるのであれば、それは本質的には虚しい言葉である。

 

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