この記事で書きたいことは、大体以下のような内容です。

 

・先日東洋経済さんで、「受験生の親に実践してほしい10大ルール」というような記事を読みました

・ただ、幾つかの点から、私はその記事をどちらかというと批判的な視点で見ています

・一つは「統計的に妥当だと言える内容ではないこと」

・一つは「家庭それぞれ、子どもそれぞれの適性というものがあるのに、それを無視して受験家庭を一般化していること」

・上記を考慮すると、タダでさえ大変な受験家庭の親御さんに、余計なルールを増やしてプレッシャーを与える側面の方が強いように思います

・私としては、受験家庭に「ルール」があるとすれば、「ルールは無理をしない範囲で柔軟にとらえて、守れなくても重たく考えない」というものが唯一ではないかと思います

・その家庭それぞれに合った「ルール」をいいとこどりで模索していけるといいですよね

 

よろしくお願いします。

 

さて、書きたいことは最初に全部書いてしまいましたので、あとはざっくばらんにいきましょう。

こちらの記事を拝読しました。

東大生が力説「親子で朝食とると成績上昇」のなぜ  受験生の親に実践してほしい10大ルール

「一緒に朝ご飯を食べること」
「何か1つでも家事をさせること」
「適度に運動させること」
「毎日同じ時間に風呂に入らせること」
「体調が悪いときは無理させず、休ませること」
「リビングはいつでも片付けておくこと」
「勉強に口出しをしないこと」
「夫婦仲を良くすること」
「月に一度家族で外食すること」
「この10カ条を父親と共有すること」

この手の記事って毎年観測することが出来まして、受験という一大イベントに試行錯誤しつつ苦しんでいる親御さんに、「何か指針を」というニーズが強くあるんだろうなーと推測出来ます。

 

「ドラゴン桜」作中でも紹介されていたものですが、「ルール」の内容自体は比較的よく見る「やった方がいいこと」に「東大生」という冠をつけてまとめ直したもののように見え、一見すると「まあ少なくとも害にはならないよね」という感じなので目くじらを立てるようなものではないようにも思えます。

 

リビングが片付いていて悪いことはないですし、夫婦仲が良くてマイナスになることもまあないでしょう。

それについて文句はないんです。

ただ、「「ルール」とか「〇箇条」という言葉は、「受験」というイベントを抱えた家庭に投げかける言葉としては聊か強すぎる」「その割りに統計的な論拠は薄い」ということが、ちょっと指摘しておきたい問題です。

 

まず論拠の話。

例えばの話、まずタイトルでいきなり「親子で朝食とると成績上昇」とか言ってしまっている「一緒に朝ご飯を食べること」のルール。

 

朝食を食べる頻度と学力に相関があることは良く知られていますが、これについては疑似相関である可能性が従前からたびたび指摘されています。

参考論文として、山岸直基先生の下記論文をリンクします。

脳と行動の相関関係について心理学からいえること (流通情報学部開学15周年記念論文集)

所得の低い世帯では,習慣的朝食欠食者の割合が多くなるのである。さらに,世帯年収と子どもの学力との間に相関があるとの報告もある(石田, 1989)。したがって,朝食摂取と学力は,ともに世帯年収とも相関関係にある。この3つの変数(学力,朝食摂取,世帯年収)の間のどこに因果関係があるのかは現時点では不明であるが,朝食摂取が世帯年収に影響を与えると考えるよりは,世帯年収が朝食摂取に影響を与えると考えるほうが,説得的であろう。

要は、「朝食を食べること」が学力に直接影響を与えているわけではなく、裕福な家庭には朝食を食べる習慣が強く、また裕福な家庭であるが故に塾教育などで学力が高くなる、という話ですよね。

 

この指摘は色んな人が行っているのでちょっと皆さんも検索してみてください。

「因果関係と相関関係の違い」を説明する時によく使われる定番ケースです。

その割りに今でも「朝食習慣による学力増進」とか言っちゃう人がしばしば観測出来ますけど。

 

これ以外の「ルール」についても似たような話でして、「何か一つ家事をさせること」と学力を直接紐づける研究もないですし、毎日同じ時間に風呂に入ることと成績を直接相関させる統計も、探してみた限りでは見つかりませんでした。

体調が悪い時に無理をさせても何もいいことがないのは恐らく事実でしょうが、これはちょっと東大生のルール以前の話です。

 

いや、いいんですよ?重ねていいますが、どれも「悪いこと」ではないですし、家庭によっては実際、家事に参加したり、リビングを片付けるようにすることで成績が改善する受験生もいるかも知れません。

朝食時のコミュニケーションでメンタルを良化させる受験生だっているでしょう。それを否定するわけではないんです。

 

ただ、繰り返しになりますが、「どんな「ルール」が適合するかは家庭次第受験生次第で本来一般化出来るものではない」上に、「「ルール」とか「〇箇条」という言葉は、「受験」というイベントを抱えた家庭に投げかける言葉としてはいささか強すぎる」んです。

 

***

 

自分の属性を明示しておくと、私は東大の卒業生で、塾講師のアルバイト時代色んな家庭の受験を眼前で見てきて、かつつい先日自分の子どもの中学受験を経験した身でもあります。

 

で、その個人的な経験の上で言いますと、「受験」って家庭全体にめっちゃ負荷がかかるイベントです。

本人も大変ですが親もすげー大変です。

もちろん塾や模試の費用の問題もありますし、生活スタイルの変化、本人や家族へのプレッシャー、学力面でのサポートにメンタル面でのサポートにと、まあ「受験は親と子どもの二人三脚」というのはよくいったものです。

 

こういう時、例えば受験生本人の成績が伸び悩む。あるいは勉強に身が入らない、学習習慣が根付かない。

そうすると親は当然、「どうすればいいんだろう」「何がいけなかったんだろう」と考えてしまうんですね。

で、色んなところからかき集めてきた、「受験の為の〇〇のルール」を導入して、頑張ってそれを守ろうとしたりしてしまうんです。

 

ただ、上記でも書いた通り、「受験の為の〇〇のルール」的なものは往々にして十分な統計的根拠を備えていません。

そんなのは当たり前で、受験生も家庭も「人それぞれ」分が非常に強い以上、皆に当てはまって「それを守れば成績が上がる」なんてルールが存在するわけはないんですよね。

 

例えば胃腸が弱くて、朝ご飯を食べるとお腹を壊しがちになる子に無理やり朝食を食べさせてもいいことはないですし、家事の手際が悪くって親と衝突して集中力が削がれることだってあり得る話です。

「ちょこちょこ勉強に口出ししてもらわないと継続出来ない、集中出来ない」という子だって実際にいますし、「ちょっとくらい部屋が散らかっていた方が集中出来る」という子だって中にはいるでしょう。

 

ただ、受験家庭の親子というものは非常にナイーブなものなので、「ルール」という言葉があると「ルール」を守れなかったことによってお互いを責め合ってしまったりするんですよ。

更には、成績が上がらない原因を「ルール」を守れなかったことに求めてしまって、肝心の学習の方の見直しをおろそかにしてしまったりすることもあるんです。

 

結果的に、「ルールを守れない」ことで家庭内が険悪になって、受験生のメンタルに却って悪影響を及ぼす。

そういう本末転倒なケース、全然珍しくありません。私自身、山ほど見てきました。

 

冒頭記事でも書いてある通り、受験というのは短距離走ではなくマラソンです。

ただしこれは、「子どもにとって」だけではなく、「親にとって」も同じことです

そして、マラソンを走り切る為に一番必要なことは何かと言うと、「荷物を減らすこと」です。

精神的負荷は少なければ少ない程いいですし、ストレス要因も少なければ少ない程いいです。

 

となると、「ルール」とか「〇か条」とかいう言葉で家庭の負荷を増やすのは、受験家庭に対するアドバイスとしてはちょっとどうなんだろうなあ、と私なんかは考えてしまうんですよ。

 

***

 

私の考えとしては、また過去色んな受験生の親御さんにアドバイスしてきた身としては、受験生の親のスタンスというものは「成功例のいいとこどり」かつ「出来るところだけやる、出来なくても気にしない」でいいと思っています。

 

こういうやり方がある、こういうやり方もある。

その中で「いいな」と思ったやり方があれば、無理なく取り入れられそうな部分だけを無理のない範囲で取り入れる。

出来なさそうだったら固執せずに他の方法を模索する。

まあその程度でいいんじゃないのかなあ、と。

 

そういう意味で、「サンプル提示」とか「こういうやり方で上手くいったよ」というのはガンガン参考にしていっていいと思うんですが、「〇箇条」的なものはあんまり真に受けなくていいんじゃないかなあ、というのが、今回一番書きたかったことです。

別にn=1であーだこーだいうわけではないんですが、上記10箇条、殆ど当てはまってない私みたいなのも東大生にはそこそこいますし。

 

ちなみに飽くまで一つのサンプルとして、しんざき家には色んな生活習慣のルールがありはするんですが、無理のないようにちょくちょく見直しています。

就寝時間も21時と決めていたんですが、塾やら何やらいろいろあって最近は21時半になりましたし、「夕飯後の宿題残業禁止」というルールも夏休みにはケースバイケースです。

 

ただ、その際必ず子どもと「今出来ているか」「今後出来そうか」「無理ならどうするか」という合意をとるのが一つの個人的なポイントで、納得した上で「ルール」として受け入れてもらうのが大事なんじゃないかなあ、と。

まあこの方針も一般化するつもりはないんですが、今のところしんざき家ではそこそこうまくいっているような気がします。

 

来年受験の皆さまは、このコロナ禍の中様々に大変なことだろうと拝察するのですが、まずとにかく「走り切る」ことだけを念頭に、健やかに過ごして頂ければなあと思うばかりです。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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(2021/11/29更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

Photo by Bernard Hermant