newspicksが出した「今日の仕事は楽しみですか」というメッセージ広告が、猛烈な反感を買って、すぐに取り下げられた。
下のツイートが言うように、「普通に働く人をバカにして高みを目指す」と捉えられたのかもしれない。
普通に働く人をバカにして高みを目指す新自由主義的な姿勢って2000年代に確かに流行ったけど、もう終わりと思う。これからはともに助け合う道を探す時代。/品川駅通路「今日の仕事は楽しみですか?」NewsPicks広告に反発相次ぐ 「なにこれ不快」「まるでディストピア」 https://t.co/DiyRUVrbqk pic.twitter.com/27BIfbr6uM
— 佐々木俊尚 (@sasakitoshinao) October 5, 2021
ただまあ、それを差し置いても、今回の件は「当然の反応」だと思う。
なぜか。
会社員はあまり楽しくない
直球で言えば、「会社員はあまり楽しくない」からだ。
それどころか、日本人は世界一、自分の会社を嫌っている。
だから、「仕事は楽しいですか」なんて言われたら、煽られていると感じる人がいてもおかしくない。
実際、私も会社勤めをしていたころ、「成果が出てうれしい」という時もあったが、ほとんどの時間は憂鬱、ないし気が重い、だった。
評価は厳しく、結果を出せなければ降格、あるいは干されるかもしれない。
人間関係はシビアで、ちょっとした失言が、上司の不評を買うかもしれない。
勘違いした顧客から、理不尽な扱いを受けることもある。
自分の立場は砂上の楼閣で、いつなくなるか分からない。
「楽しい」なんて、とても言えなかった。
そしてなにより会社は、そこで働く従業員が、仕事を「楽しい」と感じるかどうかには一切興味がなかった。
実際、私が在籍していた会社では、「真剣にやれ」「勉強せよ」「成長を志向せよ」というメッセージは発信されていたが、「楽しめ」というメッセージはなかった。
同様に、顧客からも「社員を正しく評価したい」というコンサルティングの依頼はあったが、「社員が楽しく働けるようにしたい」という注文はなかった。
著名な経営者二人が、「憂鬱じゃなきゃ、仕事じゃない」と言っているくらいだ。
「楽しさ」なんて、仕事には不要、と考える経営者は多いのだろう。
会社員たち自身も、それほど仕事に「楽しさ」を求めてない
だが、一方で、会社員たち自身も仕事に「楽しさ」を求めているどうかといえば、微妙だ。
もちろん、一部の、夢を持った若手が、「楽しく仕事したいです」と言っていることもあった。
が、徐々に「楽しさ」の優先度は低くなる。
実際には、30代半ば以上のサラリーマンが関心を持っていたのは、昇給と人間関係、そして地位だった。
それら興味を持たない人は「休暇」が関心事だった。
「仕事の楽しさ」は、あったらいいよね、程度だ。
ただ、それは仕方のないことだろう。
10年も働けば、「仕事は惰性」という人も多い。
自分と家族のためには、金を稼がねばならないし、ハブられないように職場の人間関係にも気を使わねばならない。
40近くにもなれば、地位が低いのも嫌だから、ある程度は出世もせねばならない。
がんじがらめだ。
だから、仕事を楽しくしたい、楽しい仕事しかしたくない、好きなことがしたい、という人々は、会社員としての生活が「合わない」と言い、サラリーマンを辞めて、独立していってしまった。
自分のわがままを通すために。
もちろん中には、「会社も仕事も楽しいよ」というサラリーマンもいるだろう。
それは否定しない。
だが、それは多数派ではない。
今回の広告の炎上では、それが露見した形だ。
「仕事が楽しくない」という人に、基本的に会社は何もできない
では、企業として、「仕事が楽しくない」という人に、何かできるのだろうか。
残念ながら、私が多くの会社を見てきた限りでは、
「仕事が楽しくない」という人に対して、基本的に会社は無関心で、かつ無力だ。
だからこそ、企業は採用の時に、「主体性のある人」を求める。
「フロー体験」で知られる、心理学者のミハイ・チクセントミハイは著書の中で、
「経営者は、仕事が楽しいかどうかについての関心が低い」が、だからと言って「好ましい条件であっても、労働者が仕事が楽しめるとは限らない」
と述べている。
フローモデルの処方に従えば、理論的にはどのような仕事もより楽しくなるように変えることができよう。しかし現在のところ、その仕事の性質を左右する権能を持つ人々の、仕事が楽しいかどうかについての関心は極めて低い。
経営ではまず生産性を最優先に考えなければならず、組合の指導者は安全や保証の維持を最優先に心がけねばならない。(中略)
あらゆる職業がゲームのように構成されれば、すべての人が楽しめるものになるという期待も誤りである。(中略)
最適体験は挑戦の機会や自分自身の能力についての主体的な評価にかかっているので、潜在的には素晴らしい職業出会っても満足できないことがしばしば起こる。
この洞察は大変、的を射ていると、私は思う。
「仕事が楽しい」と、臆面もなく言えるのは、独立して成功したり、金持ち企業で働ける、一部の恵まれた人々だけ。
今回の炎上は、メッセージからそのにおいを感じ取った人々の、猛烈な反発なのだ。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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