弊社の役員が「会社に依存しない働き方」というテーマで、社会人向けビジネススクールの講義をしていた。

会社依存脱却プログラム

– 会社外収入を稼ぐ“インデペンデントプロデューサー”への道-

重要なことは会社の外で、「誰の」「どんなシーンで」自分のスキル・経験が喜んでもらえるか?
これを探索する行為こそ、『サラリーマンの自立』に他ならない。

(アタッカーズ・ビジネススクール)

この講座は彼の「副業」だから、内容に偽りはないだろう。

そこで私も、「会社に依存しない働き方」について少し真面目に、書いてみたいと思った。

 

2種類の「自立」するサラリーマン

「サラリーマンの自立」は、昔からあるテーマだ。

が、一昔前のサラリーマンは、自立とは程遠かった。

 

終身雇用の名のもとに「会社に忠誠を誓う」ことを求められており、人生の大半を会社に依存していた。

交友関係、社内結婚、転勤、そして収入、……。

 

会社から追い出されれば、社会的地位の喪失や貧困に直結する。

だから、会社から副業禁止と言われればそれに従い、遠方への転勤に耐え、さらには長時間の残業もこなさねばならない。

そうした事情からサラリーマンのことを「賃金奴隷」と呼ぶことすらあった。

 

しかし最近では、そうした状況に反発し、

「会社をアテにしない」

「会社に依存しない働き方」

「どこでも通用するスキル」

と主張するサラリーマンが増えた。

 

Life Shiftなど、「会社に人生設計を頼ることができなくなった」と主張する書籍などの影響もあるかもしれない。

 

その終着点が、「サラリーマンの自立」なのだろう。

話としては分かりやすい。

そしてここ10年くらいで、実際に「自立したサラリーマン」が目につくようになった。

 

いつでも転職できるんで

一つは、「いつでも転職できるんで。」と、会社に強く出る人々。

転職を躊躇なく実行する、一部の技術者やデザイナーなど、ノンマニュアル・高技能の人々を中心とする層だ。

 

とくに最近、私の身の回りでよく聞くのは、「コロナ収束とともに、出社を強制したら、辞めてしまった」という話だ。

 

「マネジメント」の著者、ピーター・ドラッカーは、知識労働者は高度の流動性を持ち、企業は「知識労働者」の獲得を巡って、激しく競争するようになると予言した。

 

この予言は、確かに当たった。

「知識労働者」と言われる、非定型業務で成果を上げることのできる人々は、経営陣に対して非常に強く出ることができる。

そうした人々の要求にこたえ、他社に負けまいと、高待遇、残業はナシ、転勤もなし、勤務場所は自由、という会社が増えた。

 

中には「AIを専門とし、評価の高い研究実績のある新卒に年収1000万円出す」という大手企業まである。

横並びが主流だった、ホンの十数年前までは、考えられなかった状況だ。

 

副業で「自立」

そしてもう一つは、「自分のスキルを、所属組織以外にも売れる人」たちだ。

 

これが、どんな層なのかは、副業率を見ればよくわかる。

パーソル総合研究所の調査では、年収1500万円以上のサラリーマンは、副業率が他の年収帯よりも圧倒的に高く、各方面から引っ張りだこであることがわかる。

彼らの能力をめぐって、企業は人材獲得競争を繰り広げている。

パーソル総合研究所 「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査」

反面、年収1500万円未満のサラリーマンは、副業率が低く、「組織への依存度」が、明確に高い。

こうした人材は、現在の日本では、目安として年収1500万円以上の人間といえる。

 

ただし、自立へのハードルはそれなりに高い。

 

例えば、実際に転職した人々はそれほど多くない。

コロナ禍で転職を考えた人は8割 実際に転職をした人の割合は?

約8割の人が転職を考えたものの、実際に転職をしたのは1割であることが明らかとなった。

(ITメディアビジネス)

さらに、複業(副業)を行っている正社員の割合は9.3%と、10人に一人もおらず、起業に至ってはさらに少数だ。

 

前述したドラッカーは、「知識社会では、組織と知識労働者は互いを必要とする」と述べた。

だが現在のところ、組織が欲しがる、真の意味での「知識労働者」は、現状では多くて全体の3割程度ではないかと、私は見ている。

 

自立すると妬まれる

そして、「自立」したサラリーマンは妬まれやすい。

なぜなら、周囲に「身近な格差」を見せつけてしまうからだ。

人間は隣のデスクの人物が、実は自分よりはるかに稼いでいることを知ると、心穏やかではいられない。

 

だから、「副業で大きく稼いでいる人」は、能力は高いはずなのに、上司から、むしろ煙たがられるケースすらある。

 

私が前に勤めていたコンサルティング会社では、部下に一人、不動産投資で上司よりもはるかに稼いでいる人物がいた。

が、上司はそれを知って、苦々しそうに言った。

「あいつは仕事を真面目にやってないんじゃないか」と。

 

しかし、彼は与えられた仕事はきちんとこなしていたし、特にケチをつけられるような素行でもなかった。

ただ、上司よりも圧倒的に稼いでいただけだ。

 

だから、それは一種の妬みであることは明らかだった。

が、上司と同様に会社にしばりつけられていた私は、彼の気持ちが痛いほどわかったので、何も言えなかった。

 

ブルーカラーの労働者たちの尊厳が、知識社会において社会問題となっていることをドラッカーは指摘していた。

だがいま、それ以上に問題なのは、妬みと無力感に苛まれる、大多数の「自立したくてもできない」ホワイトカラーの人々だ。

 

採用のチャンス

逆に、これは採用のチャンスだ、と考える経営者も多い。

 

知識労働者を欲している企業は、副業OKで、出戻りも勤務場所も自由といった待遇を掲げ、「自立サラリーマン」をひきつけようとしている。

彼らは、能力的には高いが、自由を求めているのと、上の理由で職場で浮いてしまっていることも多いからだ。

 

それが「8割出社に戻そうとしたら、反発があったので5割にした」のに、それでも辞めてしまった人がいる、という現象の背後にある。

 

たぶん、「自由裁量で、高能力者が採用できるなら、いくらでも裁量を認めよう」と、考える会社は、今後ますます増えるだろう。

そして、「身近な格差」はますます目に付くようになる。

それがドラッカーが予言した、知識社会の真の姿だろうから。

 

 

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(2024/4/21更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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