また、友だちがひとり減った。
オンラインゲームをやっていればいろんな人に出会うから、そのぶんだれかと疎遠になるのはしょうがない。
ゲームに対する考え方がちがうからなんとなく距離ができて、遊ばなくなったってだけの話。
……いや、正直にいうよ。
その人はやる気はあるけど向上心がなかったから、「もういいや」と距離を置いたのだ。
「教えてくれ」「ただし言われたとおりやるわけじゃない」人たち
先日、安達さんが執筆した『「本気ではない人に、いくら教えても、無駄」と言われた時の話。』という記事を読んだ。
そこで、先輩にそれを質問した。
「忙しい時に、どうやったら本を読む時間を作れますか」と。
ところが、その主宰者は言った。
「時間は作りなさい。」あまりにも抽象的だと思ったので、私は言った。
「そのやり方を、具体的におしえてほしいのです。」ところが先輩は言った。
「本当に私が言ったとおりにやりますか?」先輩に詰められ、私はドギマギしてしまった。
「え……、参考にします。」先輩は冷たく言った。
「本気ではない人に、いくら教えても、無駄なんで。」
こういうやり取りは、オンラインゲームでは日常茶飯事だ。
うまい人や昔からやっている人に対して、「教えてくれ」と言う人は多い。
しかし、教わったことをちゃんとやる人がどれだけいるかというと……。
冒頭のゲーム友だちが、まさにそうだった。
教えてくれ、連れて行ってくれ、手伝ってくれ、というわりに、こっちが言ったことをやらない。
それがわたしは、どうも受け入れられなかった。
適当な装備でエンドコンテンツに向かうフレンド
いままではライトなコンテンツで遊んでいた彼が、高難易度のエンドコンテンツにチャレンジしたいというので、手伝いを頼まれたのがコトのはじまりだ。
その人とのやり取りは、だいたいこんな感じだった。
「!? その装備で行くの!?」
「え、うん。いま一番強いのこれだから」
「クリア目指すならその装備じゃ絶対ムリだよ」
「いまの最強装備ならいいかなって思ってたんだけど……。とりあえず、行ってから考えるよ」
「まぁ、それでもいいかもね」
いま言葉で説明するよりも、まずは行ってみて、自分に足りない物を自覚するというのも大事だ。
何度も即死したら、装備の重要性に気づくだろう。
というわけで、とりあえずボスのもとに向かった。
「うわ、まじで強いじゃん! こんなんどうすればいいの」
「装備強化すればいまの攻撃も耐えられるよ。あと、アイテムをうまく使えばもっと楽になる」
「アイテムとかいままで意識したことなかったなぁ」
「今後もエンド行くなら、単純にもう少しの練習したほうがいいかも。いまのままだとダメージが足りなくてジリ貧になるし」
「やっぱり高難易度ってむずかしいんだねー。たしかにちゃんと準備しなきゃダメだわ」
さて、これで高難易度の雰囲気はわかってくれただろう。
「装備強化するなら手伝うよ。レアドロップ素材集めて、ここを周回して、デイリーのアイテムを交換して……」
「いままで全然やってこなかったやつだわ」
「アイテムも余分に持っておいたほうがいいよ。高いけど買えるから。あと、解説動画とか見たほうがいいと思う。おすすめ動画も送っとく」
「なるほどなぁ。ありがとう、ちょっと自分でも調べてみる!」
こんな感じで、高難易度に挑むのに必要な準備と知識を伝え、その日は解散した。
ちょこっと準備しただけで「やった気」になっていた
翌週、その人が「リベンジしたい」というので、ふたたび高難易度に挑戦することに。
「……あれ?」
装備はちょっとマシにはなっているけど、最強装備からはほど遠い。
最初からすべてそろえるのはムリだとしても、もう少しやりようがあるだろう、というラインナップだ。
「なんか弱い装備混じってない?」
「最強装備にしたかったけど、時間的に厳しかったし、お金もなくてさぁ」
「なにか売ればお金はできると思うけど……。動画は見た? 即死技の回避方法わかる?」
「動画チラッと見たけど、眠くなっちゃうんだよね。でも軽くは見たから前回よりはマシだと思う!」
いやいやいや。
「あのさ、この技を使いこなせないとしんどいよって言ったじゃん。練習してきた?」
「ごめん、そこまでの時間がなかった」
「デイリー終わらせてればこのアイテムもらえるけど、それ持ってる?」
「あっ忘れてたわ。それって買えるやつ?」
「買えないからデイリーやったほうがいいよって言ったんだけど……」
こんな調子で、結局リベンジならず。
「いや~やっぱりむずかしいね。どうしたらいいかな?」
「……もう少し準備してから来たほうがいいと思う」
「できるだけ準備したつもりなんだけどなぁー。これでもまだダメかぁ」
「できる範囲で準備するんじゃなくて、やるべき準備を全部するんだよ……」
ここでわたしは、「この人と遊ぶのはもうやめよう」と思った。
もちろん、最初から全部できるわけじゃないのはわかってる。
何度でもいっしょに練習するし、装備集めも手伝うし、そのつもりで手伝いに来た。
でも、そういう努力をする気がない人に付き合うのは、正直面倒くさい。
それなら、ライトコンテンツでのんびり楽しく遊んだほうがいい。
わたしがそう思っていたのが伝わったのだろう、「やっぱりいいや」と、その日はいつもより早めに解散になった。
彼と遊んだのは、それが最後だ。
やる気がある=向上心がある、ではない
わたしにとって、「やる気」はイコール「向上心」だった。
はじめて高難易度に挑戦するときは、ネットでできるかぎり情報収集し、時間をかけて装備を強化、アイテムをストック、個人練習を重ねて挑んだ。
最初はうまくいかなかったけど、自分のプレイを動画に撮って見直し、悪いところを改善するためにさらに練習。
うまいプレイヤーにアドバイスも求めた。
それが当然……とまでいわないにせよ、「うまくなりたい」という向上心があれば、なにかしら自分でアクションを起こすもの。そういう認識でいたのだ。
でも、「クリアしたい」という気持ちは同じでも、「そのために努力する」という気持ちは同じじゃない人もいる。
フレンドは、たしかにやる気はあった。
だから高難易度に挑戦しようと思ったし、リベンジを果たそうとも思った。
でも、向上心がなかった。
クリアはしたいけど、「いま自分ができる範囲でなんとかしよう」とするだけで、「できることを増やすために努力しよう」とはならない。
世の中には、そういう人もいるのだ。
というか、案外そういう人は多いのだと思う。
教えてほしいのは、すぐに実行できる手っ取り早い解決方法だけ
よく、「どうしたらいいですか」とざっくりとした質問をする人がいる。
こちらがいくら丁寧にアドバイスしても、次までにやってこない人がいる。
求められたことを教えたのに、なぜかやたら反論してくる人がいる。
その人たちは、やる気がないからそんな態度なんだろうか?
いいや、やる気はある。
やる気がなければ、そもそも質問したり、アドバイスを聞いたり、教えてもらったりはしない。
でも、向上心が足りていないのだ。
目標達成したいという気持ちが10あっても、そのために10の努力をする覚悟があるわけではない。
その人たちが求めているのは、「できることを増やして自分をレベルアップする方法」よりも、「現状の自分でどうにかできる手っ取り早い解決方法」。
でも教える側は、「聞いてきたってことは向上心があるんだな」と考えてアドバイスしてしまう。
だから、「なんで言ったことをやらないんだ」と困惑し、「やる気がないなら聞いてくんな」と腹を立てる。
そんな様子を見て、向上心がない人は、自分では十分やったつもりなのに「もっとちゃんとやれ」と言われるから、おもしろくない。
「あれやれこれやれってうるせーな。もっと手軽な方法はないかって聞いてるんだよ」と、うんざりする。
もちろん、どちらが正しいというわけではない。
ゲームなんて迷惑行為でなければ、どうプレイしようが本人の自由だし。
ただ、やる気があるからって向上心をもっているとはかぎらない、という話だ。
やる気はあるけど向上心がない人と付き合うときにすべきこと
さて、ではやる気はあるけど向上心はない人と、どう付き合うのがいいのだろう。
「教えてもムダ」と、関わるのをやめればいい?
いや、やる気はあるのだから、最初から突き放すのはちょっとちがう気がする。
手軽なチャレンジからはじめてだんだん本気になることもあるし、向上心はあるけど自分磨きの方法がわからなくて困っている人もいるかもしれないし。
というわけで、そういう相手と関わるとき、この3ステップを踏めばいいのではないか、というのを考えてみた。
1.まずは必要なことをひととおり教える
「エンドコンテンツに行くならこういう準備が必要だよ」とひととおり伝える。
向上心がある人は、ここで「わかった!」と自分で動き始めるからそれでOK。
2.優先順位が高いものをピックアップする
「そこまではムリかも」「できるだけやっておく」というように、「かんたんな部分はやるけど大変なところはやりません」という返事なら、「まずはこれだけやれ」と1つ2つ、具体的に宿題を出す。
たとえば、「まずこの部位の装備は絶対に更新すべき。あと、このアイテムは10個は用意しておいて」と。
宿題をちゃんとやる人であれば、「じゃあ次はこれ」「そしたらこれ」と段階を踏めば、ちゃんとレベルアップするはずだ。
向上心があっても、「なにをどういう順番でやるべきかわからない」「一気に全部言われると混乱する」という人もいるしね。
3.やらない理由を聞く
しかし残念ながら、その宿題すらやらない人もいる。
そしたら、失望するよりまず、やらない理由を聞いてみる。
仕事が忙しいから、毎日ログインしなきゃいけないデイリークエストは負担が大きいのかもしれない。
同じボスを周回するのは飽きて続かない、という性格なのかもしれない。
それがわかれば、週末まとめてできる方法や、ボス周回中に同時進行でアイテムを集める方法など、ちがうアプローチを提案すればいい。
で、ここまでやっても響かないのであれば、そのときはじめて「教えてもムダ」だと判断すればいいんじゃないだろうか。
教えるときは、相手が目標に対してどれだけ努力できるかを考えてから
わたしは彼が、なぜわたしが言ったことをやらなかったのか、ちゃんと聞かなかった。
まず最初に、「教えたのになんでやらないんだ」と思ってしまったのだ。
やらない理由を聞けば、なにかちがったアドバイスができたかもしれないのに。
単純に、エンドコンテンツの敷居の高さを知らなかっただけかもしれないのに。
まぁ、「最初から向上心をもっていないやつは見捨てる」というのも選択肢のひとつだけど。
でもみんながみんな自分と同じ熱意をもっているともかぎらないし、そうやって切り捨て続けたら孤立するだけだしね。
だから、だれかになにかを教えるとき、相手に向上心があるかどうか、もしくは向上心が芽生えるかどうかを見定めることが大切だ。
それは、「こちらの提案に対しどれだけ真剣に受け止め、実行に移すか」で判断できる。
向上心があれば、少しアドバイスするだけで、あとは自分で考えて実行する。
たとえ実行に移さなくても、真剣に受け止めていたら、「なぜやらないか」の理由があるはずだから、それを聞けばいい。
相手の向上心の度合いに合わせて教え方を変えれば、トラブルがちょっとは減るんじゃないかと思う。
相手にやる気があっていろいろ聞いてくるからって、向上心を期待しすぎてはいけないのだ。
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ティネクトでは創業以来、数多くの地方中小企業様のお手伝いをさせてきました。地方では人材不足が問題と思われがちですが、実際は「人材」の問題よりも先に「知」で解決することが多いと感じています。 特に昨今は生成AIの台頭で、既存の人材とAIの協働の可能性が高まっており、実際それは「可能である」というのが我々ティネクトの結論です。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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Photo by Mason Kimbarovsky