いつかオッサンになったら、私も「全く最近の若いもんは・・・」と言うのだと思っていた。

何しろこの言葉、かの有名な兼好法師の徒然草にも、こんなことが書かれているくらいである。

 

「近頃の親は、子どもに変な名前をつけて喜んでいるようだが、全く無益である」*1

 

今でいう、キラキラネームへの苦言と言ったところだろうか。

徒然草が編まれたのは14世紀はじめのことなので、実に700年も前の知識人ですら「全く最近の若いもんは・・・」と愚痴をこぼしていたのである。

 

エジプトのピラミッドにもそのようなことが書かれていたという俗説を聞いたこともあるが、それが本当であれば、実に4000~5000年前まで遡れてしまうではないか。

その真偽はともかく、要するにはるか昔からオッサンたちは、「全く最近の若いもんは・・・」と言い続けてきたことだけは間違いなさそうだ。

 

しかし私はというと、情けないことに何歳になっても「最近の若い人ってスゴイな・・・」と、焦りを感じることのほうが多い人生を歩んできた。

そしてこれはきっと、私がいくつになっても半端モノで大した仕事ができないからなのだろうと思っていた。

もちろんそれはそれで、だいたいあってる。

 

しかし最近になって、実はそれだけではないことに気がついたことがある。

結論から言うと、「全く最近の若いもんは・・・」と思ってしまう思考回路をこじらせるオッサンは、実はヤバイのではないか、ということだ。

それはどういうことか。

 

人が動けば、絶対に気配は消せない

話は変わるが私には、いろいろな意味で忘れられない元会社経営者の元友人がいる。もう10年以上も前の話だが。

時流に乗り儲かっていた彼は、都心の一等地に大きなオフィスを借りていた。

 

そこで彼の机の前にそのへんのイスを持ち寄り、雑談にふけっていた時のことだ。

ふとサイドボードに目をやると、いかめしく不機嫌そうな、陶製の小さな人形が置いてある。

インテリアというには不気味で、いい趣味とは思えない。

 

「おい、この不気味な人形なんや?」

「あぁこれか。これは我慢人形っていうんやわ。最近は我慢の連続でな。怒りが爆発しそうな時、この人形に向き合って引き取ってもらうねん」

「へー、大変やな。で、どんな時に怒りが爆発するんや?」

 

すると彼は、社員という存在がどれだけ言われたことしかやらないか、できると期待して採用した人材でも、全く給料にペイしないことばかりなどと、話し始めた。

しかしそのたびに社員を怒鳴りつけてたら、誰もいなくなってしまう。だから怒りを抑えるために、この人形が必要なんだということを説明した。

 

「なるほど。言ってることはなんとなくわかったけど、社員に聞かれても同じこというんか?」

「詳しくは言ってへんけど、社員には伝わってる。俺は冷静に努めるぶん、人形に睨みを効かせてもらう役割分担やな」

 

きっと彼なりに考えたやり方なんだろう。私が口を出すようなことではない。

しかし彼と私はきっと、根本的に価値観が合わないのだろう。そんな違和感を覚えた最初の出来事になった。

 

それからしばらくして、彼と決定的に袂を分かつ出来事が起きる。

彼の会社は売上を伸ばしていたものの、業績拡大に見合わない社員の採用を続けていた。

そして、1ヶ月の売上よりも労務費の支払いのほうが多いという危機的な状況が続き、キャッシュの枯渇が見え始めてきたという。

なにかいい方法はないかということで、相談に乗ってほしいという話だった。

 

「わざわざ来てもらって悪いな。ところで、雇用調整助成金って知ってるか?」

「使ったことはないけど、どういうものかは理解している。経営が悪化しても雇用を維持すれば、助成金を受け取れる制度やな。仕事がなくて社員も休んでいることが条件のはずやけど」

「お前も素直やなあ。今これ、世の中の経営者は、従業員に仕事をさせながら休ませたことにして、助成金を受け取ってるんやぞ?」

「・・・」

 

コイツは一体何を言ってるんだ。

しかし彼はさらに、自分がインチキをしてでも公金を掠め取ることの正当性を次々に並べ立てた。

 

「俺は必ず会社を大きくする。会社が大きくなれば、法人税をたっぷり納めて返済することができるやろ。win-winや」

「今俺が会社を潰したら、国にとっても損失や。長い目で見たら国も得するねん」

「周りもやってるのに、ウチだけがやらんのは不公平で競争を曲げている。違うか?」

 

ダメだ、コイツは頭がおかしい。

やむを得ず、そんなことをしても絶対に足がつくことを知らしめることで、彼を翻意させようとする。

 

「お前は、経理や財務の実務をわかってない。人が動けば、絶対に気配は消せないもんだ。働かせながら休ませたことにするなんて絶対にバレるからやめろ」

「大丈夫や。俺は社員の行動を全て細かく把握している。タイムカードもエクセルで管理してるだけやし、辻褄を合わせられる」

 

そして社員を管理するため、外出中でも数時間おきに電話をさせ行動管理をしていることや、業務システムでも社員のアクセスログを管理・監視していることを説明する。

さらに、それらの記録を書き換えることで“休業の証拠”になるんだということも。

ダメだ、やはりコイツはわかっていない。

 

結局これを最後に彼とは縁を切ったが、当然のように彼はその後、不正受給がバレて全額返金の命令を受けた挙げ句、労働局のWebサイトで名前を公表され、最後は会社を潰していた。当然である。

 

この話はもう10年以上も前のことだが、最近また、同じような話がニュースを賑わしている。

コロナ禍で業績が悪化した企業が同様に、従業員を働かせながら休ませたことにして、雇用調整助成金を詐取し、経営者が逮捕されるというものだ。

そして従業員の交通費や、経費精算の領収書の日付が、休んでいるはずの日に切られていたことで判明したというようなことも併せて報じられている。

 

これも典型的な「人が動けば気配は消しきれない」の事例だが、そんなもんではない。

私はかつてCFOとしてある会社の経営立て直しをしていた頃、300名が勤務する工場で2名のパート従業員が、お互いにタイムカードを押し合う不正をしているのを、帳簿から気づいたことがある。

 

人数が多いから目立たないのではなく、人数が多いからおかしなことが目立つことを、不正する側は全くわかっていない。

これほどまでに、人が動けば必ず気配が残るし、動いているはずの人が動いてなければ、そこにはなにか変な数字が発生する。

そんな10年以上前のすっかり忘れていた記憶を、ここ1年ほどのコロナを巡るニュースの中で、ふと思い出した。

 

「最近の若いもんは」の正体

自業自得で会社を潰した私の元友人にとって、従業員は「我慢して使うべき存在」であった。

そして従業員の行動を管理するため、電話だけでは飽き足らず、業務システムでアクセスログまで監視していたのは、先のとおりだ。

きっと、自分の思い通りに人が動かないことにストレスを溜め、行動を可視化し人を思ったように動かそうと考え、さらにストレスを募らせていったのだろう。

 

そして話は冒頭の、「全く最近の若いもんは・・・」という言葉についてだ。

この言葉もきっと、自分が統制できない誰かの行動や価値観に対するストレスの現れなのであろうと、最近は考えを改めている。

もしくは、自分には使いこなせない新しい価値観に対する、無意味な遠吠えである。

 

この言葉をつい口に出してしまう人は、若い人だけでなく、自分と違う属性の人に対して根拠のない批判的な感情を持ってしまっていないか、気をつけるべきだ。

その怒りと消耗は、ほとんどの場合、何も生み出さない。

 

それにしても、従業員の行動をストーカー的に監視・管理するツールを導入することなど、経営者にとって無能を白状しているようなものだと、つくづく思う。

 

大手の通信ベンダーも最近そのようなサービスをリリースしているが、本当にそれで生産性は上がり、経営者としての目的は達成されるのか。

私の元友人のように、経営者を無駄に勘違いさせ、誤った経営判断を幇助するツールになるのではないだろうか。

導入の前に、その必要性と目的について、よくよく考えてみて欲しい。

 

 

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【プロフィール】

桃野泰徳

大学卒業後、大和證券に勤務。中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。

先日、話題になっているスーパードライのフルオープン缶が、近くのイオンで山積みになっているのを見つけました。

個数制限もなかったので20本買ったのですが、5本くらいでもう飽きてます。

過ぎたるは猶及ばざるが如し・・・。twitter@momono_tinect

fecebook桃野泰徳

Photo by Rendy Novantino

 

引用

*1
山梨県立大学「徒然草(上) 第116段」