最近、かんたんにグラフやアイコンが作れる無料アプリが増えたからだろうか。
「図解」という表現手法そのものの注目度が、高まっているように思える。
図解ノウハウ系の本もたくさんあるし、ビジネス書や自己啓発本でも、よく図が挟み込まれている。
でもさぁ……
意味のない「にぎやかし図解」がやたらと多い気がするのは、わたしだけだろうか?
文章のほうがわかりやすいのになぜか図解される不思議
まずはひとつ、例を挙げたい。
『やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力』という本だ。
「口で説明するだけではなかなか伝わらないことも、こうして『実演』すると納得してもらいやすい(図4)」とあり、この図がついている。
出典:やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力
やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力
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……これさぁ、文章だけでよくない? 図解する必要ある?
絶対にないよね、だって文章でじゅうぶん伝わるもの。
もうひとつ、『DX経営図鑑』という本にある、この図解を見ていただきたい。
出典:『DX経営図鑑』
DX経営図鑑
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これを見て、内容を理解できる人はどれくらいいるのだろう。
本を読んでいない人からすれば、さっぱり意味がわからないと思う。
っていうか、本を読んでいてもこの図は正直よくわからない。
「NIKE直販アプリは、抽選予約販売や定番商品の公式販売を行い、地理的な入手不利をなくした。また、正規価格の流通を確保することで、転売や詐欺被害を減らすことにもつなげた」
というのが、この図で表したい内容である。
……いや、文章のほうがわかりやすいでしょ、絶対!!
もちろん、この2つの図解を根拠に、その本の内容を否定するつもりはない(むしろ内容自体はとてもおもしろいので、2冊ともおすすめだ)。
ただ、最近このように「そもそも図解する必要がない」「混乱して理解に時間がかかる」図解を目にすることが本当に多くて、ちょっと辟易している。
図解の役割は「情報伝達をより楽にする」こと
とはいえわたしは、図解アンチというわけではない。
むしろ、良い図解は素晴らしいものだと思っている。
では「良い図解」とはどういうものか。
『図解の教科書』を銘打っている本から引用させていただこう。
「図解を役立てる」とは、話し・伝える手間を省きつつも、受け手の理解度を格段に上げることなのだ。
伝わりやすい視覚イメージは、それ自体が説明をしてくれる。そうなれば、あなたが言葉や文章を使って説明する必要がない。同時に、いつも一定のレベルで受け手の理解を得られるようになる。出典:『説明がなくても伝わる 図解の教科書』
説明がなくても伝わる図解の教科書
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そう、図解とは本来、「それを使うことで情報伝達がより楽になる」ものなのだ。
そして、それによってみんなに理解してもらえるもの。
たとえば、これ。
みんな一度は見たことがある周期表。
これが掲載されているのは『世界史を変えた新素材』という本で、金・銀・銅に関するこの記述の直後に置かれている。
実はこの三金属は、元素周期表において縦一列に並んでおり、いわば姉妹に当たる元素だ。縦に並んでいるということは性質が互いに似ているということであり、これらは化学変化を受けにくいことで共通する。
世界史を変えた新素材 (新潮選書)
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この文章を読んだあと元素周期表を見れば、化学なんてさっぱりなわたしでも、「たしかに縦に並んでるなぁ~」とわかる。一目瞭然だ。
ちなみに「金は原子番号が79で、安定に存在できる原子番号の限界である82に近い」とも書かれているから、縦一列の一番下にあるレントゲニウムとやらは、不安定な元素だから日常的に使われていないんだなぁ~というのも理解できる。
さらにもうひとつ。
これは、『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八』という本の冒頭、目次の直後に載せられている図だ。
地学の授業で毎回ぐっすり寝ていたわたしだけど、これを見たらなんとなーく宇宙の状態が想像できる。
文章で伝わりきらないことを、図にして伝えること。
いまいち想像できないことを、視覚的にわかりやすく伝えること。
よく考えないと理解できないことを、パッと見てわかるように伝えること。
こうやって「情報伝達をより楽にする」のが、図解が果たすべき役割じゃないのだろうか。
伝える役割を持たない挿絵としての「図」
しかし最近は、図を使うこと自体が目的になっていることが多い気がする。
「情報をわかりやすく伝えるために図解が最適」だから図解しているのではなく、「図解したいから適当な情報を図に起こしている」ように感じるのだ。
「とりあえず図解して、わかりやすい雰囲気を出し、文章を読まない人にもアピールしよう」という、取ってつけたようなにぎやかし図解とでも言おうか……。
文章のほうがよっぽどわかりやすいのに、にぎやかしのためにとりあえず図解を置いているのを見ると、バカにされた気分……とまでは言わないにせよ、なんだか気持ちが萎えてしまう。
いやだって、文章を読んでいればちゃんと理解できるもの。
「ページのかさ増しに図を使っているのか?」と邪推したり、「この程度の文章に図解をつけなきゃ理解できない層に向けた本なのか?」と怪訝に思ったりしてしまう。
それでもにぎやかし図解がこれほど多い現状を鑑みると、わたしの意見は少数派であって、「(質を問わず)図はあったほうがいい」という意見の人が多いのだろう。
需要があるから供給があるのだし。
……と、ここまで書いてみて思ったのだが、もしかしたらこのご時世、「図解」は「説明するもの」ではなく、「挿絵」と同義なのかもしれない。
それなら、「伝える」役目を担っていない図解があるのもうなずける。
その図解の存在意義は、「理解を促す」のではなく、「場を華やかにする」「箸休め」などにあるのだ。
それならば、「文章のほうがわかりやすいじゃん」「図を見ても全然わからん……」という批判は、完全に的外れということになる。
だって、「伝える」のではなく、「存在する」ことで、その目的を果たしているのだから。
その情報は図解に適しているのか?と一度問いかけてほしい
文字数が限られるSNSが普及したからか、スマホというデバイスにおいて読了率を上げる工夫の結果なのか、日常的に情報が「図」として表現されることが増えている。
忙しい現代人は、一瞬で全体を把握できる「図解」を好む傾向でもあるのだろうか。
売れたビジネス書や自己啓発本ってよく漫画化されるし、「図解でわかる!」系もよく見かけるし。
そのうえで、「とりあえず図解しときゃいいだろ」の背中を押しているのは、溢れかえる図解ノウハウだと思う。
「視覚的にわかりやすいように図を使おう」という主張をよく見るし、図の作成マニュアル、テンプレートに当てはめるだけですぐに図が作成できる無料アプリなんてのもたくさんある。
でもそういう「図解のやり方」は、当然ながら「図解すること」を前提としたノウハウだ。
「そもそも図解する必要がある題材なのか?」「その情報は図解に適しているのか?」という問いかけはない。
その問いかけがないまま、「図解することはいいこと。こうやって作るんだよ。無料でできるよ」という情報が氾濫して、多くの人が「図」を使おうとする。
で、それが広まれば広まるほど「図がなければ読んでもらえない」という空気になり、より多くのにぎやかし図解が量産される。
いやね、気持ちはわかるんだよ。
文章でぎっちり埋まってるより、絵や図がいっぱいあったほうが、なんだか「わかりやすい」雰囲気が出るもの。目立つし、記憶にも残るし。
でも安易に「図」に逃げるのはちがうよなぁ、と思う。
図解が最適な場合もあれば、文書で伝えるのが最適な場合もある。
後者なのであれば、不要な図に頼らず、ちゃんと文章で伝えるべきなんじゃないかな。少なくともわたしは、そうしたい。
「図解」とは、「図を使って情報伝達をより楽にして相手に理解を促す」こと。
デジタル技術の進歩・普及でだれもがかんたんに「図」を作れるようになったけど、だからといって、その役割を持たない図解が量産されるのは、ちょっとちがう気がする。
どういう図にするかより先に、「そもそもその題材が図解に向いているか」「その図を用いてなにを伝えることができるのか」を考えることが大事じゃないだろうか。
わたしとしては、にぎやかしのためだけの図解が減って、情報を伝える役割を担う「良い図解」が増えてほしいと思う。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち (新潮新書)
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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Photo by Shubham Dhage