会議において、「対立」は常に発生する可能性があり、対立のハンドリングは、コンサルタントの必須スキルだった。
では、具体的にどういうシチュエーションで使われるのか。
例えば、営業会議においてAさんとBさんが、立場の違いから対立した意見を述べたとする。
A「次のセミナーに、無料招待枠を10社、設定してほしい。うちのソフトウェア導入に悩んでいるお客さんを招待して、そこでクロージングを決めたい」
B「無料招待枠を安易に増やすのは良くない。セミナーも弊社の貴重な収益源の一つである上、無料枠はセミナーの価値を下げる。」
A「お金を払わせると、クロージングのハードルが上がる。無料というだけで、動く人が大勢いる。」
B「そもそも無料で招待した人が、本当に契約してくれるのか。疑問だ。」
このような状況はなかなか打開しにくい。
なぜなら、お互いが、自分の所有する経験やデータから発言をしているため、自分の正しさを確信しているからだ。
では、どうするか。
最も安易な解決策としては、「上司の鶴の一声で決めてしまう」というのがある。
上司「今回はAさんの言うとおりにする。(前回はBさんの意見をきいたから)」
といった具合だ。
ただ、このようなことがつづくと、AさんもBさんも、次第に自分で考えなくなる。
「結局上が決めるなら、最初から上に決めてもらおう」と考えるのが自然だ。
では、他の方法はあるか。
次善策としては、AさんとBさんに討論してもらい、よりデータが取れており、客観的に正しそうな意見を選択する、というやり方もある。
ただ、このやり方にももちろん欠点がある。
新しいやり方にはデータがないのが普通だし、ディスカッションにゆだねれば、施策の効果ではなく、口がうまいほうが勝つことが多い。
もっとひどい時には、資料作りのうまさで、施策が決まることもある。
いずれも、「本質的に施策が有効なのか」とは関係がない。
対立をリセットする
そして、最も優れている方法(と私が考えている)のが、「人と戦うな、課題と戦え」という選択肢だ。
結論から言うと、AさんとBさんの意見を、より優れた意見Cで代替できないか、と試みるやり方だ。
そんな時には、このように言う。
コンサルタント「この議論の目的は、会社全体で、クロージングでの契約率をあげたい、という話からでしたでしょうか?」
A「そうです」
B「そうです。」
コンサルタント「そこは共通ですね。」
このようにして、人の意見と意見を戦わせるのではなく、課題を共通の認識とするところまで、一度話を戻す。
すると、AさんとBさんは、一度「施策」ではなく「課題」に注目するようになる。
コンサルタント「Aさんは、クロージングの契約率をあげるのに、セミナーの無料枠を増やすことが最善だと考えていますか?」
A「それだけではないが、接点を増やすために今の段階では必要だと判断した」
コンサルタント「では、Bさんは、クロージングの契約率をあげるのに、どのような施策が必要だと思いますか?」
B「私としては、セミナーの無償化より、うちのソフトウェアのメリットをちゃんと理解してもらうよう、営業の個別提案を強化するべきだと思ってます。セミナーは事例と技術情報が中心なので。」
このように、改めて課題に対して、案を提出しなおしてもらう。
一度、対立をリセットすることにもなる。
コンサルタント「そうすると、接点を増やしつつ、個別提案が可能な施策って、セミナー無償化以外にも何かありますかね。」
A「一番いいのは、セミナーではなく、ソフトウェアの一部を無償化して、体験してもらう事だと思ってる。」
B「んー-、一部を無償化というのは難しいけど、期間限定ならいけるかも、あ、でも……」
……
……
このように、一度「施策」のレベルから、「課題」に視点を引き上げることで、対立をリセットする。
そして、より本質的な議論を喚起する。
施策は個人の思いと結びついていることが多く、対立を解消しづらいが、課題は会社と紐づいているため、対立を解消することが簡単だ。
「対立」が会議を活性化するための条件とは
コンサルタント時代、どこで読んだのかはもう忘れたが、「人と戦うな、課題と戦え」という趣旨の文を読んで、「なるほど」と思った。
それが実践的だったので、私はすぐに仕事に取り入れた。
その具体的なやり方が、上に紹介した、「共通に認識されている課題まで、議論を戻す」というやり方だ。
もちろん、いつでも通用するわけでもないし、新しいやり方が出てくる保証もない。
しかし、対立して固まっている議論を、ある程度前に進ませる働きはできる。
対立した意見から、より良い意見を生み出すプロセス・方法論を、弁証法という。
ただし会議ではそのように都合よく「いい意見」など生み出されない。
対立している意見の主が、自分の意見をいったん捨て、新しい意見を提出しなければならないのだが、その仕掛けとして「課題に立ち返らせる」は有効なのではと考えている。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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