年功序列が衰退し、年下の上司を持つことが特に珍しくない時代になった。
マンパワーグループの調査*1によれば、直近3年以内に転職した35歳から55歳の正社員の約7割に「年下の上司」がいるという。
その「年下上司」について、よく言われることの一つが、「一緒に働きづらい」だ。
調査によってばらつきがあるが、上のマンパワーグループの調査では、約3割の人が、「年下と働きづらいと感じた」とされている。また、エン・ジャパンの調査では、約6割の人が「年下と働きづらい」*2と言っている。
正直なところ、これが「年下だから」働きづらいのか、それとも、こんな価値観の人は「相手が誰だろうと、働きづらさを感じる」のか、原因を切り分けるのは難しい。
ただ、エン・ジャパンの調査におけるコメントを見ると、一定数の人が「年上ならまだ我慢できるが、年下で自分より高い地位の人と働くのは嫌」と考えているのだと読み取れる。
『若い分経験が浅いのではと不安になった』
『年下に命令されると、言い方にもよるけど良い気分がしない』
年長者は偉い、という発想
これらの発言は「年長者は、若者より経験豊富(で賢い)、ゆえに偉い」という発想を、一部の年長者が依然として持っていることを示す。
例えば、少し前に「タメ口で話しかけてくるおっさんにタメ口で返すと、おっさんがフリーズする」というまとめ記事がバズっていた。
「偉そうな年長者」という現象が、各地で見受けられるのだろう。
確かに、私は小学校で特に理由もなく「目上の人を敬おう」と習った記憶がある。
また、映画・小説・漫画などのコンテンツ中で賢者とされる人は「年配」の設定が多いと感じる。
「年長者は偉い」という発想は、その延長線上にあるのだろう。
年配が尊敬される時代は終わった
しかし近年、年配者の増加と共に「年食ったやつは偉いどころか、むしろ害となる人も多いのでは」という発想をよく見かける。
いわゆる「老害」というやつだ。
当メディアへの寄稿者の一人である、熊代さんは過去の記事で「老人が尊敬される時代は終わった」と述べた。
希少にして代え難いvalueを持った存在としての老人は失われてしまい、今ではvalueを見出されず、お荷物扱いされがちな老人が巷に溢れかえっている。それは何故か。
【要因1】平均寿命が延びまくった
【要因2】老人固有の知識が役立たずになってしまっている
【要因3】知識や学習の普及
【要因4】時代の流れが早くなりすぎている
【要因5】能力が低下しても老人が生き残りやすくなっている
老人のvalueは地に堕ちた。この事態をあなたは笑っていられますか?
己の能力の低下を持て余しながら、厄介者扱いされがちな余生を過ごすというのはどんな気持ちだろうか。メンタルヘルスという視点からも、尊厳や人生観の視点からも、“歳をとればとるほど無価値になる一方”というコンセンサスの蔓延は大きな問題を孕んでいると思われる
全く同じ文脈で「年配が尊敬される時代は終わった」と表現したらおかしいだろうか。
多分、おかしくはないだろう。
新しい状況が次々と発生する現場では、昔ほど「かつての経験」が有効に機能しなくなった。
むしろ「過去の成功体験」を捨てきれないことが、新しいスキル獲得の障害となることも多い。
実力で尊敬を勝ち取るか、年下にかわいがってもらえるか。
ということは、年配になり「空気扱い」ではなく、組織でそれなりの居場所を得るには、選択肢が2つある。
一つは、年配者もスキルを更新し「実力」をつけることによって、尊敬を勝ち取ること。
そして、もう一つは年下に「かわいがってもらえる」ように振る舞うこと。
逆に、実力もないのに偉そうにふるまえば「老害」認定は確実だ。
まず「実力」の選択肢は、熊代さんのいう「value」という話であるから、わかりやすい。
根本的には、尊敬を生み出すのは、valueしかない。
しかし、valueを出し続けるのは、マッチョな道でもある。
「仕事が大好き!」という人以外には、つらいだろう。
であれば、2つ目の道。
「昔、自分が上司にかわいがってもらったように、年下にかわいがってもらう」しかない。
言い換えれば「新人のようなマインド」を保つことだ。
謙虚さのない年配の人は、もう居場所がない。
とは言っても「新人と全く同じ」にはいかない。
年下の上司も、年配者と新人を同列に見ることはないだろうし、また、年配者としてのプライドもあるだろう。
ではどうするか。
過去を思い返すと「面倒を見たくなる年上」という存在が確かにいた。
具体的には、控えめなのに、黙ってリーダーの弱点を補佐してくれる年配者。
意欲があるけど素直で、他の人にポジティブな影響を与える年配者。
新しいことをすすんで勉強し、共有してくれる年配者などだ。
こういう年配者であれば、新人と同じように、現在のvalueが今一つでも、上司は一緒にやっていこうという気持ちになるし、鬱陶しくもない。むしろ助かる。
結局のところ、実力に関わらず「素直さ」、「学ぼうとする意欲」、「ちょっとしたチームへの貢献」というのは、年齢関係なく、歓迎されるといえる。
要は年配になっても「謙虚さ」を保てるかどうか、という話に帰着する。
だが「そんなの無理」という年配者もいるだろう。
だが、こう考えてみてほしい。謙虚にふるまえるかどうかは「死活問題」だと。
シニアになってからのQOLに直結する話なのだと。
スタンフォード大学心理学教授のキャロル・S・ドゥエックは著書*3の中で「人間関係は、育む努力をしないかぎり、ダメになる一方で、けっして良くなりはしない。」と述べているが、全くその通り。
実力も謙虚さもない人間の居場所など、組織のどこにもないのだ。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
◯Twitter:安達裕哉
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◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書)
*1 年下上司との関係は複雑!?約3割が「やりにくい」と回答 ミドル人材が働きやすい職場に必要なこととは?
*2 ミドルの6割が年下上司の元で働いた経験あり。実際に働いた感想は…??―『ミドルの転職』ユーザーアンケート集計結果―
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