2年ほど前、「教育係に任命されて苦労してる。仕事を辞めたい」と愚痴っていた友人と、先日ちょっとLINEのやりとりをした。
「結構前に教育係がイヤだって言ってたけど、その後はどう?」
「それはもう大丈夫、いまは仕事が楽しいよ」
「へーそうなんだ、うまくいってよかったね」
「うん。仕事と性格を切り離したらうまくいった」
仕事と性格を切り離す?
どういうことだろう。
気になったので、ちょっとくわしく話を聞いてみた。
後輩が苦手な友人は、「いい先輩」になりきって克服した
「オレ、いままで部活もやってこなかったし、バイトも短期だけだし、末っ子だし、だれかに教えるって経験がなかったんだよね。そもそも年下がめっちゃ苦手で」
「年下苦手なのわかるわー」
「なんか、敬語で話しかけられると逆に緊張するというか、後輩に気を遣いすぎて相手に気を遣わせるというか」
「わかるわかる」
「でもさ、後輩の立場で考えたら、気まずそうに話しかけてくる先輩に悩みを相談することってないじゃん」
「まぁ、ないね」
「困ったときに頼ろうって気にもならないし」
「うん」
「だから、オレ自身がどういう人間かは一旦置いておいて、『こういう先輩がいたらうれしいな』ってイメージを、そのまま行動に移してみたんだよ」
友人がイメージする『いい先輩』というのは、朗らかで気軽に声をかけてくれて、怒らずに話を聞いてくれて、自分のことを信頼して仕事を任せてくれるような人だという。
で、「自分はそういう先輩なんだ」と言い聞かせて、後輩に接するようになったらしい。
いわば、いい先輩ロールプレイングだ。
「とりあえず、朝後輩に会ったら挨拶がてら雑談するようにした。いままでは後輩がミスしたら『自分がやるから大丈夫』って交代してたけど、後輩自身がリカバリーして自信につながるようにフォローしたり……。あとは、大げさに褒めることかな。先輩に褒め上手がいてすごくモチベが上がったから、その人のマネして、めちゃくちゃ後輩のこと褒めてる」
それを聞いて、わたしはちょっと驚いた。
友人はいろんな人とワイワイ楽しく共同作業するより、ひとりでじっくりと自分の作業に没頭するタイプだ。
良いヤツなのは間違いないが、面倒見がいいイメージは正直あんまりない。どちらかというと、我関せずマイペースなのんびり屋。
素直にそう言うと、友人は苦笑いして、こう答えた。
「オレ自身はたしかにそうだよ。でもオレらしく後輩と接しても、オレは気疲れするし、後輩はやりづらいしで、お互いメリットないからさ。仕事と性格は、切り離したほうがいいんだよ」
「自分らしく」がつねに最善とはかぎらない
「それって、無理してるんじゃないの?」
そう聞いてみたが、意外にそういうわけではないらしい。
友人いわく、「いい先輩ロールプレイング」にはむしろ、思わぬメリットがたくさんあったというのだ。
まず、悩まなくて済むこと。
教育係になったとき、後輩との接し方がわからず、とにかくずっと悩んでいたらしい。
自分なりに試行錯誤しても、「あれはまちがっていたんじゃないか」「イヤな気持ちにさせてしまったんじゃないか」と頭を抱える。
でも「自分がイメージするいい先輩」になりきってみると、「いい先輩ならどうするか」を判断基準にすればいいから、そういう悩みがさーっと消えてなくなったのだという。
たとえうまくいかなかったとしても、「自分自身」を責めるのではなく、「自分の『いい先輩』設定をちょっと変更しよう」と切り替えられるのも、精神的にすごく楽だったそうだ。
「オレとしても、いい先輩っぽい言動を心がけたら後輩への苦手意識がなくなったし、後輩としてもやりやすくなったんじゃないかな。いつまでも『後輩が苦手』って言い続けてもいいことないしねー」
なるほど、たしかに。
「自分らしく」いられることが最善だと思われがちだけど、「自分らしく」ふるまうことが常に最善だとはかぎらないのだ。
自分の性格ベースで考えるとすぐ壁にぶつかってしまう
ちょうど先日読んだ本にも、同じことが書いてあった。
仕事に恥ずかしさをもちこんじゃいけない。
性格と仕事は切り離せ。目からウロコでした。
僕はそれまで自分の性格まる出しで仕事をしていたので、悩むことも多く、たくさんの壁にぶつかっていたのですが、いま思えばそれはすべて「自分の性格」をベースに仕事をしていたからだと思います。(……)考えてみれば、たとえばお笑い芸人でテレビではすごく活発で面白い人が、プライベートでは物静かというような話はよく聞きます。アスリートでも試合中はとにかく熱いのに、普段は穏やかな人がけっこういるみたいですね。
出典:『バナナの魅力を100文字で伝えてください』
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「自分の性格ベース」で考えていると、苦手なものはいつまでも苦手だし、嫌なことは絶対やりたくないし、うまくいかないと自分を責めることになる。
ベースが「自分の性格」である以上、試行錯誤にも限界があるから、すぐに壁にぶつかってしまう。
しかも性格なんてそうそう変わるものではないから、その壁を乗り越えることもむずかしい。
だから、「切り離す」という方法は、案外有効なのかもしれない。
「ここでは自分はこういうキャラだ」と思い、割り切ってそう振る舞うことで、「本来の自分」だったら苦手なこと、できないこと、やらないことも、成し遂げられるようになるのだ。
面倒なご近所づきあいも「やったほうが結果的に得」
思い返してみれば、わたし自身も、ほとんど無意識に「性格と切り離したロールプレイング」をやっていたことに気づいた。
それは、ご近所づきあいだ。
人口1万人以下の村だから、夫の教習所の教官とスーパーで出くわしたり、ガソリンスタンドの店員がご近所さんの息子だったり、暖房の修理や水道点検の業者が全員大家さんのお友達だったりする。
だからご近所づきあいは大事なのだが、正直なところ、面倒だからできるだけ避けていた。
夫からは「もう少し仲良くなっておいたほうがいいよ」と言われてはいたけど、別に話すこともないしなーと、挨拶だけの関係にとどめていた。
でもその後、夫の言うことが正しかったと思い知ることになる。
それは、我が家が犬を飼ったときのことだ。
我が家のワンコは元保護犬で警戒心が強く、ロビーで会うご近所さんみんなに吠えまくっていた。
わたしはとりあえず謝って、できるだけご近所さんと鉢合わせないよう避けるように。
一方夫は、ご近所さんたちに「ちゃんとしつけます。少し時間をください」と説明していたらしい。
で、ワンコが我が家に馴染んできたタイミングで、ご近所さんに「よければおやつを与えてみてくれますか。そうしたらもう吠えなくなると思うので」と、積極的に協力してもらっていたそうだ。
夫曰く、「俺だってご近所づきあいは面倒だけど、犬を飼うならまわりの理解があったほうがいいでしょ。気のいい若者夫婦って思ってもらえたら、みんなかわいがってくれるよ」とのこと。
わたしは自分自身がご近所づきあいをしたいかどうかしか考えていなかったから、夫の大人な対応を見て、素直に反省した。
たしかに、わたしがご近所づきあいをしたくないからといって、しなくていいわけじゃないよなぁ。ワンコが人慣れするためにも必要だし……。
その後は夫を見習って、「自分は気さくな新米飼い主」だと思って散歩に行くことを決意。
ほかの飼い主さんにはにこやかに挨拶し、「うちの子、来たばっかりでまだ慣れてなくて。よく吠えちゃうんです、すみません」と声をかける。
すると、「今度一緒にお散歩に行ってみようか」と言ってもらったり、「試しににおいを嗅がせてみよう」とトレーニングに協力してもらえたりするようになった。
立ち話をすることで、動物病院の情報を仕入れたり、ダイエット方法のアドバイスをもらうことも。
面倒くさがりのわたしであれば、そういうのは全部自分らしくないことだ。
できればやりたくないし、実際最初はやっていなかった。
でも「自分らしく」いることが、常に最善とはかぎらない。
自分らしくいればラク、得をする、というわけでもない。
自分の性格は別として、その場にあった得するキャラになりきっちゃったほうが、メリットが大きいことだってたくさんあるのだ。
苦手な場面では「得するキャラ」になりきるほうがラク
もちろんそれは、「自分を偽れ」とか「嫌なことも無理してやれ」とか、そういうわけじゃない。
やりたくないことをやらずに済むのであれば、きっとそれが一番いい。
でも現実問題、苦手なこともやらなきゃいけなかったり、気が進まなくてもやったほうがよかったり、そういうことはいくらでもあるわけで。
どうせやらなきゃいけない・やったほうがいいのであれば、「自分の性格ベース」で考えるよりも、「得するキャラベース」で考えたほうが、圧倒的にラクなんじゃないかなーと思う。
自分の性格ベースで考えると、やりたくない、なんでできないんだ、うまくいかない……と、自分自身を責めたり落ち込んだりしてしまうからね。
「自分らしく」あることが、つねに最善とはかぎらない。
苦手な場面にブチ当たったとき、やりたくないことを回避できない環境に身を置くときは、自分の性格を一旦切り離してみるのは有効な方法だと思う。
本来の自分と乖離しすぎてつらくなるなら別だけど、「この場での自分は〇〇キャラだ! そう振る舞おう!」と割り切ると、結構うまくいくことも多い。
苦手なことを少ない精神的負担で乗り越えられるし、なにより、「意外と自分こういうのに向いてるのかも?」「結構楽しい!」と、前向きな気持ちになれることもあるから。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち (新潮新書)
- 雨宮 紫苑
- 新潮社
- 価格¥760(2025/06/08 01:23時点)
- 発売日2018/08/08
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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