『GE帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか』(トーマス・グリタ、テッド・マン著、御立英史訳/ダイヤモンド社)という本を読みました。

本のオビに、「ビル・ゲイツ絶賛」と書いてあったのが目に留まり、手にとってみたのです。

 

GE(ゼネラル・エレクトリック)は、発明王エジソンが興した総合電機メーカーで、アメリカを代表する大企業です。

日本で暮らしていても、名前くらいは知っている、あるいはロゴマークを目にする機会は少なからずあるはずです。

 1892年の創業以来、GEは単なる企業ではなく、米国そのものを代表する企業であり続けた。何十万人もの従業員にとっては人生の当たりくじ、株主にとっては損をする心配のない賭けだった。幹部社員にとってはエリート養成機関であり、そのうちの一部の者にとっては巨万の富に続く道でもあった。GEは米国に電気を供給し、最大のマシンを動かし、社会に深く根を下ろした。GE以外にそんな企業はない。

人びとはGEに米国政府と同等の信頼を置いた。エジソンの工作台とJPモルガンの金融力が合体して生まれたGEは、中産階級に力を与え、軍事力を強固にし、国民の金融資産を爆発的に増やしながら、近代アメリカの台頭と歩調を合わせて進む巨大金融機関へと変身を遂げたのである。

GEは国の成長とともに成長し、時代と共に進化し、創業以来最大の力を蓄えて21世紀に歩を進めた。2000年のピーク時には、米国で最も価値のある企業となり、その企業価値は6000億ドルに迫った。境界を知らない広大な事業領域で、先進国の膨大な人口に影響を与えた。

GEの工業機械や消費財は、国中に電力網を張り巡らせ、民間やキッチンを照らした。GEのエンジンは、米国の戦闘機や旅客機、大統領専用機(エアフォース・ワン)を世界の空で飛ばせた。金融サービスはマクドナルドのフランチャイズ店の新規オーナーを支援し、石油や穀物や木材を運ぶ鉄道車両をリースした。超音波診断器は妊婦に胎児の画像を見せ、X線検査装置は折れた骨を映し出し、MRI(磁気共鳴断層画像)装置は臓器をスキャンして癌を見つけた。米国人はGEの冷蔵庫からスナックを取り出し、ソファにもたれて、GEがつくった人気テレビ番組の『となりのサインフェルド』や『フレンズ』を観た。GEは工業系企業だが、あらゆるものを売った。

僕にとっては、GEはそれほど身近な企業ではありませんが、GEの医療機器には長年お世話になっています。

生活の基盤となる電力を長年生み出す機器もGE製が多いのです。

 

人々の生活に密着しており、株も「安定・安心の投資先」だったはずのGEだったのですが、2000年からの20年あまりで、さまざまな歪みが表面化し、凋落の一途を辿りました。

それから20年も経たないうちに、ミートボール(GEの会社のロゴマークの愛称)はまだ至る所で見られるものの、GEは想像できないほど衰えてしまった。

いまでも世界に数百の拠点を有する巨大企業だが、株価はピーク時の一欠片にすぎない。もはやメディアの寵児でもなく、アナリストのお気に入りでもなく、ダウ・ジョーンズ工業株平均の銘柄でさえなく、気前のよい配当も消え去った。

かつてGE株は投資初心者のポートフォリオに欠かせない銘柄だったが、いまでは投機的銘柄と認識されている。一世代前にそんな見方をしたら、株式市場で異端児扱いされただろう。

伝説的な経営者だったジャック・ウェルチさんがCEOだった時代、あまりにもウェルチさんが聖域化してしまったがための弊害もみられていたのです。

経営を監視するのが役目の取締役会も、ほとんど出番がなくなった。目覚ましい成功を続けるGEには突っ込むべきポイントもなく、取締役に任命されること自体が名誉とみなされた。

取締役会は、会長であるウェルチの指揮にほぼ従った。ウェルチ時代に新たに就任したある取締役は、CEOが取締役会を支配していることと、取締役会で議論がほとんど行われていないことに驚いた。戸惑った新任取締役が会議終了後、以前からの取締役に「GEの取締役の役割は何ですか?」とたずねたら、「拍手喝采さ」という答えが返ってきた。

イメルトは2機のコーポレートジェットで世界中で飛び回った。CEO在任中のほとんどの期間、イメルトがどこか外国に飛ぶ時は、彼を乗せた機体の跡を、誰も乗っていないボンバルディアやガルフストリームが追いかけた。万が一、機械的な問題が発生した場合に備えてのことだ。

予備機はイメルトの就任後すぐに飛び始め、辞任の数ヶ月前まで彼の旅に付き添った。これはGEでも異例なことだ。国家元首でもそこまでしないのは、実用的な意味がないからだ。わざわざ帯同しなくても、異常が起こればそこで別の機体を調達すれば済む話だ。

ジャック・ウェルチの後継者となったジェフ・イメルトがCEOだった時期のほとんどで、この2機のプライベートジェットが使い続けられていたのです。

 

GEの経営者は、独裁国家の君主のような存在になってしまい、非効率的なことや虚飾が蔓延し、排除されるのを恐れて、トップに諫言する者はいなくなりました。

それでも、少なくとも外面的にうまくいっているように見えていた時代には、彼らは「理想的な経営者」として、メディアや市場からもてはやされ、その独善性や馬鹿馬鹿しい2機のプライベートジェットが問題視されることはなかったのです。

 

そして、「結果」を求める経営陣の期待に応えるため、あるいは自らの保身のために、GEは目先の好業績をつくり出してきたのです。

課せられた収益目標を達成できなかったGEの社員には、最悪の処遇が待っている。

GEは結果重視で、有無を言わせないトップダウンの経営が行われていた。市場の実態を踏まえ、ボトムアップで目標を立てるのではなく、いきなり上から数字が降りてくるのだ。

 

マネジャーは四半期ごとに目標を達成することを求められ、その実現が危うくなると、差額を埋めるために奔走した。ウェルチ以降、GEが四半期予算を達成できなかったことはほとんどなかったが、それが偶然ではない。

GEキャピタルが保有する膨大な資産から、換金できるチップがふんだんに提供されたからだ。四半世紀の雲行きが怪しくなると、何かが売却された。ビル、駐車場、飛行機など、宝箱の中の何かを売れば、簡単に数字をつくることができた。

 

何カ月もGEを調査したトゥサは、GEは過大評価されており、その見通しはGE自身が言うほどバラ色ではないと結論づけた。中核であるGEパワーについては、契約のアップグレードを積極的に進めて売り上げを伸ばしていたが、長期的効果はないと判断した。

要するに、GEは既存顧客に「将来のメンテナンスの必要が減り、効率が上がる」という約束でアップグレードを売っていた。問題は、先々のメンテナンスもまた、将来の収益源だということだ。いま売上げを立てるために、GEは明日のビジネス(そして請求)を減らしていたのである。

 

会計用語で言うと、GEは売上げを前倒しし計上していた。今日をなんとか生き延びるために、明日売れるかもしれないハンバーガーの代金を、今日の売上げとして計算に入れてしまうようなものだ。

上層部が決めた「こうあるべき、という売上げ」を達成するために、現場はGEでのグループ内での売買を「売上げ」として計上したり、実際には価値がほとんどなく、倉庫を狭くするだけの在庫を「資産」に入れたりしていたのです。

目先の数字の見栄えを良くするために、将来の利益を前借りするようなメンテナンス契約も常態化していました。

 

目先の決算内容や株価重視の経営、というのは、GEに限らず、こういう「長期的な悪影響を考えずに、とにかく短期的な、わかりやすい結果を出す」ということになりがちなのです。

それで現在の株価や配当が上がれば、株主も経営陣を支持してくれる。

 

逆に、将来のことを考えての研究開発や結果が出るのに時間がかかる投資には、経営者も消極的になります。

芽を育てている時期に「結果を出していない」と自分がクビになってしまうから。

 

常に短期的な成長や結果を求められる「ポピュリズム経営」の歪み。

僕は東芝で起こった粉飾決算のことを思い出さずにはいられませんでした。

いま、外部からは順風満帆にみえる大企業も、内部では、崩壊がはじまっているのかもしれません。

 

僕が若い頃、「神格化」されていたジャック・ウェルチの「伝記」「経営論」を読んだときには、まさか20年後に、GEがこんなに衰退するとは思わなかった。

これと同じことが、現在のアップルやAmazonで起こっている可能性もあるのです。

 

会社の経営だけではないですよね。政治においても、有権者は「とにかく早く、目に見える成果をあげてみせる」ことを重視し、政治家は「とにかく選挙に当選すること」しか考えなくなっていく。

そして、現在の帳尻を合わせるためのツケが、次の世代を苦しめることになるのです。

 

しかしながら、「現実を受け止めて、誠実に情報公開をしていけば、人々は『痛み』を受け入れてくれる」のかどうか。

 

イメルトさんの後継CEOとなったジョン・フラナリーさんは、GEの現状を直視し、会社が厳しい状況にあることを率直に内外に発信していきました。

それまでの「内情を隠して、外面だけを取り繕うやり方では、GEは変わらず、さらに追い詰められていく」と考えたのです。

フラナリーの提案は、GEらしい優等生的な雰囲気とは一線を画していた。厳しい現実と誠実に向き合う姿勢だけとっても、これまでのトップとは違っていた。市場はGEの大胆な構造改革を待望していた。新CEOがその必要性を認めたことは、GEが変わりはじめたサインかもしれなかったが、市場はそう受け止めてくれなかった。

そして、GEの株価は20ドルを割り込んだ。

フラナリーが率直に語った会社の現状とリストラ策は、GEの状態が大方の想像以上に悪いことを示していた。フラナリーは満足な仕事をしているのだろうかと、疑問を感じるアナリストや評論家もいた。

社内では、先行きの不透明さと株価の下落で士気が低下していた。社員が保有するストックオプションは権利行使価格を割り込んでいたが、フラナリーの発言からは、その状態がまだまだ続きそうだった。世の中の景気は悪くなかったが、GEの従業員、特にシリコンバレーで勤務するGEデジタルの従業員はどんどん辞めていった。

結局、現状を率直に認め、正確な情報を発信しようとしていたフラナリーは、CEOの座を追われてしまいました。

 

「場当たり的、短期的な数字だけを求める経営なんてロクなものじゃない」と多くの人は考えているはずなのだけれど、実際に、厳しい現実を突きつけられると「トップを替えたら、マシになるのではないか」「もっと希望が持てるような話をしてほしい」と思うのです。

経営に絶対的な正解があるわけじゃなくて、うまく結果を出した人がやったことが後付けで「正解」になるだけ、という気がしてなりません。

 

それにしても、ビル・ゲイツさんはすごいな。

この本を読んで「私の知りたかった答えが書かれた重要な本」とゲイツさんは仰ったそうですが、僕はこの本を読んで、「経営とか経営者というのは、その人の能力だけではなく、『運』とか『タイミング』に恵まれるかどうかだよなあ……」としか思えなかったので。

 

ジャック・ウェルチは、僕が若い頃は「経営の神様」と絶賛されていたけれど、後世からは、決算の数字の見栄えを良くし、株価を上げるために、さまざまな問題を先送りし、後継者たちにそのツケをを払わせたようにもみえるのです。

 

この本から、ビル・ゲイツさんが読み取った「答え」を知りたい。

「経営に絶対的な正解など存在しない」というのが「答え」なのだろうか。

それとも、なんらかの「正解」をゲイツさんは見出したのだろうか。

 

 

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【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

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