AIの発展が目覚ましい。

 

Twitterをみていると、お絵かきAIやChat GPTによる優秀な仕事がサラサラと流れていく。

その仕事のお点前は、既に平均的なビジネスパーソンの域を超えているようにすら見え、かつそれが数日単位でレベルアップする有様である。

 

自分はそれをみて「はー」と感心するだけだったのだが、つい最近になって翻訳AIで有名なDeep Lを使用し、卒倒するぐらいの衝撃を受けた。

今日はその衝撃を書いていこうかと思う。

 

日本の研究者を悩ませる英語問題

古より日本人研究者の頭を悩ませてきたのが英語である。

日本人の英語の酷さは海外では有名なようで、有名な論文の投稿規定に「日本人は英文校正サービスを使用した後に論文を投稿してください」という意図の事がやんわりとした表現で書かれていた事があったという程である。

 

例に漏れず、僕も英語はそこまで得意な方ではない。簡単な日常会話や専門誌の読解ぐらいであればなんとかできるものの、論文の執筆ともなると脳が沸騰する。

 

ライターをやっているぐらいなので、母国語であればそれなりに面白く論理的な展開でもって話を拡張させることはできるのだが、英語で書くとなると急に表現が中学生やら高校生レベルにまで落ち込んでしまう。

使いこなせる単語やフレーズの数もそう多くはなく、どうしても似たような表現が何度も繰り返し出現させてしまう。

 

「これじゃあ内容が良くても、パッと見で”あまりにも幼稚…出直してこい!”と弾かれちゃうよな…」

そう頭を悩ませていた。

 

翻訳ソフトは翻訳ソフトっぽさがあったのだが…

そういう事もあって論文執筆は本当に頭の痛い問題だったのだが、ふと

 

「話題のDeepLでも使ってみるか」

と、そこまで期待せずに翻訳をかけたところ、これが衝撃であった。

 

それまでの翻訳ソフトは英文の骨子組み立てぐらいまではギリギリ対応できるものの、それでも読んでいて違和感を感じさせる文章をよく排出していた。

この違和感は言葉では表現しにくいのだが、なんか英文が翻訳ソフトをかけたっぽい仕上がりになるのである。

だから翻訳ソフトを使って無理やり想像した英語の文章は見る人がみれば「これ翻訳ソフトかけたでしょ」と指摘できるようなものが多かった。

 

わかりやすくてキレイな英語だね

しかしDeep Lの翻訳はそういう次元をはるか先に超越していた。

論理展開はスムーズで、接続後や前置詞の使用方法にも全くと言っていいほどに違和感がない。

母国語で書いた文章のロジックが、ダイレクトにそのまま英文へと落とし込まされるのである。

 

衝撃以外の何物でもなかった。

おまけにパラフレーズですらクリック一つで10秒ほどで提案してくる有様で、別単語を使用したらそれに沿った文章に再翻訳をかけてくれるほどである。

 

そうして以前だったら1ヶ月はかかっていたであろう論文の草稿執筆は、わずか3時間で終わってしまった。

できあがった文章を試しに他の人にも何もいわずに読ませてみたが、ネイティブを含めて「わかりやすくてキレイな英語だね」と言うほどである。

 

そこにはかつてあったはずの翻訳ソフトっぽさは微塵もなかった。

逆に綺麗すぎて人間離れしているとすら言えるぐらいに、美しい英語がそこにはあった。

 

これ、もう英文校正サービス要らないね…

その後、これは話題のDeep Lの力を借りて執筆したものだという事を皆に告げたのだが、誰一人としてこれが機械翻訳の仕事であると思っても見なかったと言った。

むしろ僕が書いた英語論文にしては文章があまりにもこなれすぎているので、英文校正サービスを受けた後の完成論文だろうと思った人が何人もいた程である。

 

それを聞いて僕は即座にこう思った。

「ああ、もう英文校正サービスは要らないな…」と。

あんなにも高いお金を払って受けていたお仕事が、目の前で大崩壊するのをみた瞬間である。

 

逆に読解力と母国語の能力の重要性が益々増してしまった

一応念を推しておくと、Deep Lで打ち出された英語の文章を全く校正する必要が無いという事ではない。

科学論文にふさわしい英単語を使っていないだとか、元となった母国語自体が変だったりだとかで、Deep Lで打ち出された英語に変なものが混じっている事はそれなりにはある。

 

しかしそれは英語力の問題というよりも、むしろ読解力と母国語の問題である。

こちら側が打ち出された英語を適切に評価できるのならば…AIと二人三脚でもって超速でいくらでも仕事ができるというわけである。

 

逆に言えばである。こちら側に専門家としての知恵が無ければ話にならない。

いくらAIが優秀だからといって、勝手に論文を無限に製造してくれるという程には話は甘くはない。

 

上司としてプロジェクトを立ち上げるのは必須だし、そのプロジェクトの進行具合を修正する作業も必須である。

プロとして恥ずかしくない仕事になるよう、落とし所を最後の最後まで模索し続ける為の根性だって必須だ。

 

座学の必要性が以前よりも更に増してしまった

これらは全て受験勉強のようなゴリゴリの座学でもって人間がインストールしなくてはならない必須技能である。

この最も面倒くさいとも言える領域だけは、どんなにAIが優秀でも誰もやってはくれない。

 

つまり…AI時代で大切なのは、知識と読解力、そして専門家としてのセンスなのである。

どんなによく切れる包丁があってもセンスのない料理人には美味しい料理が作れないのと同じような話なのである。

 

机に座ってコツコツ勉強し続けられず、職場で淡々と下積みをやれない人間は、AIを使う段階にすら到達できないのだ。

 

これまで以上に人間には泥臭い修行が求められるし、仕事の量も桁違いに増える

これらの事実を鑑みた結果、僕はこれから人間はこれまで以上に泥臭くならなくてはいけないという未来を確信した。

 

残念ながらAIは人間を机には座らせてはくれないし、物事への集中力も増やしてはくれない。嫌なことをやるときの倦怠感だって取り去ってはくれない。

これらはどんなにツールが便利になろうが全て人間の意思の問題だ。

ある程度は誤魔化しは効くだろうが、それでもゼロにできるものではない。

 

現にである。AIが早々に導入されるようになった将棋業界ではトッププロはハチャメチャに忙しそうである。

 

AIが登場して仕事が奪われるどころか、どう考えてもAIが登場して仕事が増えている。

それに伴って注目度も才能もこれまで以上に集まってきているようにしか見えない。

 

おそらく…これが今後10年、20年後の私達の未来なのであろう。

AIが人間の仕事の一部をショートカットしてくれるようになった結果…いろいろな意味でそれまで仕事に参画できなかった高性能人材がどんどんプロの領域に流れ込んでくるようになる。

 

有能と無能の差が明確化する

そしてそれに伴い、本当の意味での無能と本当の意味での有能な人間の差は益々明らかになってしまう。

 

例えばである。日本人研究者が苦手だった英語という壁が取り外されたら…単に英語が苦手だっただけの人間は普通にホトルネックが解消されて、スルスルと知的に生産的な仕事にコミットしはじめるであろう。

それに伴い、この人の仕事はどんどん増えるはずである。ボトルネックが解消されたのだから、当然といえば当然なのだが。

 

逆に英語も研究も苦手な人は…もう英語ができないから研究ができないというイイワケが全く通用しなくなる。

こういう無能な人間は……昔だったら色々と誤魔化しが効いてエセ研究者をやれたのかもしれないが……AI時代では生き残れまい。

 

つまり……有能はもう有能さを隠そうにも隠せないし、無能も無能さを隠そうにも隠せなくなってしまうのである。

そういう意味ではAIは人間の優秀さを適切に評価できる、真贋鑑定装置だとも言えるのかもしれない。

 

新しい時代がやってきても、今も昔も何も変わらない

こうして嘘がどんどん暴かれてゆき、真実がどんどん真実として輝きを増し、優秀な人間だけがどんどん忙しくなる時代があと数年で必ずやってくる。

 

優秀な人間はこれからどんどん忙しくなる。

ボトルネックがどんどん解消され続けていくのだから、得意なことに専念できるというような明るい話というよりも、むしろ生産を強要されるぐらいの感じになるだろう。

 

逆にどんなにAIを与えられてもボトルネックが解消しない人間は…本質的に無能の烙印を押される事だろう。

それは本当の意味で仕事の適性が無いか、あるいはそれ以前の段階で人間として仕上がっていないという事でもある。

 

下手すると小学校時代からの学習のやり直しと、机の上に一日10時間座る練習からのやり直しを命じられてしまうかもしれない。まあ、それで生産できるようになれるのなら、悪くはないのかもしれないが…

 

この時代に生き残れるのは、コツコツと机に黙って座って勉強できる人間と、集中力の出力先を適切にコントロールできる人間、そして類まれなる芸術的センスとそれをハイクオリティな完成品へと組み上げる執念を持つ人間だ。

そしてこれは今の時代の優秀な人間が持っているものでしかない。そう…結局すべてが何もかも同じなのだ。

 

こういう今の時代でも優秀な人間が益々優秀になるだけで、AI時代がこれからやってきた所で私達のやるべき事は何も変わらないし、評価される基軸も何も変わらないのである。

 

結局AI、AIいっても、人間の優秀さの基軸は同じなのだ。だから変に焦らず、淡々と目の前の事をやるしかないのである。

それでいいし、それがいい。私たちはこのクソ忙しい未来がやってくるであろうという予言を前に、誠実であり続けるだけなのだ。

 

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます

Photo by :Kelly Sikkema