最近おきた大きなイノベーションのひとつが、ChatGPTのリリースだったことは、多くの人の共通の認識でしょう。
正直なところ、Googleを脅かすほどの存在が、こんなに早く出てくるとは思っていませんでしたが、Googleなどのプラットフォームは大きい割には技術革新に対して脆弱であり、「短命」なので、必然の流れなのかもしれません。
逆に、プラットフォーム上に流通する「コンテンツ」には、とても長命なものが存在します。
例えば「イーリアス」「論語」「原論」などの古典などもそうです。
これらは時の試練に耐え、プラットフォームを乗り換えながら2千年以上もの間、全く変わらずに生き残っています。
では、ChatGPTもしばらくすれば時の彼方に消える……かというと、少しこれまでのプラットフォームと事情が異なるかもしれません。
なぜなら「コンテンツ流通させるだけ」の、Google、Twitter、Amazonなどと異なり、ChatGPTは「コンテンツそのものを生み出す」ツールだからです。
もちろん、ChatGPTそのものはGoogleなどと同様に、テクノロジーの進化ですぐに消える運命だと思います。
しかし、「優れたAIが生み出したコンテンツ」が増えるにつれ、中には驚くほど長命なものが出てくる可能性があります。
ですから、せいぜい寿命が数十年、百年も生き残れば立派な、GoogleやAmazonなどとは、インパクトのレベルが違います。
「ChatGPT」に代表されるような、ジェネレイティブAIをどのように創作に使うかは、想像以上に重要な話だと、私は認識しています。
ChatGPTを使うスキルは、人間の部下を使うスキルとほぼ変わらない
ただ、これは別に私独自の見解でも何でもなく、同様の認識をしている人が多いのだと思います。
すでに、web上には、「ChatGPTの使い方」に関する情報が、大量に出回っています。
わたしも今までにかなりの記事をChatGPTで作りましたが、彼らと同様に、その知見を社員が使えるよう、やり方をまとめたものを作って、社内に展開しています。
なお、私が一番重要だと認識している項目はChatGPTが出力した「目次」です。
(目次は記事へのリンクから無料で読めるようにしています)
ChatGPTに「ChatGPTで高品質な記事を書く方法」という記事を書かせたら、多くの知見が得られました。
ChatGPTに「効果的なChatGPTの使い方の記事を書いて」とお願いをし、その結果得られた知見(良い使い方)をChatGPTにまた投入する、という反復的な手法で、ChatGPT活用の記事を作ったところ、多くの知見が得られたので、それをご紹介します。
この資料ですが、noteのマガジンとしてもすでに1万5千人以上の方に見ていただいていますので、ChatGPTへの関心の高さがうかがえます。
で、「ChatGPTの使い方マニュアル」を作ってみてわかったことが一つあります。
それは、AIへの指示の出し方と、人間への指示の出し方は、さほど変わらない、という点です。
みていただくとわかると思いますが、このマニュアルの「ChatGPT」の部分は、「部下」に置き換えても、全く不自然ではありません。
例えば以下は目次の大項目ですが、「部下への指示の出し方」という記事でも違和感ゼロです。
1.明確で具体的な指示を出す
2.ChatGPTが生成した文章を調整する
3.正確さと信頼性を確保する
4.ChatGPTを専門知識でトレーニングする
5.ChatGPTで思うような結果が得られないときの対処法
ですので、すでに勘の良い方はお気づきかと思いますが、実はChatGPTを使うスキルは、人間を使うスキルとほぼ変わりません。
プログラミング的な使い方もありますが、基本は自然言語なので、「命令のしかた」そのものは、新しいものではないのです。
では、AIは何が新しく、圧倒的に人間より優れているのでしょう。
これは、明らかな点が一つあります。
それは、アウトプットの質ではありません。
実は、どんなに負荷をかけても大丈夫という点です。
もっと言えば、こちらの指示が悪くても、適当な指示でも、何度もやり直しさせることが可能です。
人間ではそういうわけにはいきません。
人間は面倒くさがる生き物なので、
「やる意味はなんですか?」とか
「指示がわかりにくいです」とか
「手戻りはイヤです」とか
「時間の無駄では?」とか
そういうことを言う。
AIは、こういうことが全くない。
やる意味を問いませんし、指示がわかりにくくても、時間の無駄にみえても、何かをとにかくアウトプットしてくれる。
24時間フルに働かせて大丈夫な手下です。
ChatGPTの使い方の上手い人と、下手な人の差はどこに出るか
強調しておきますが、この「何度やりなおしをさせても文句を言わない」という特性こそ、アウトプットの質を云々する前に、圧倒的に人間を超えています。
パワハラOKなのです。これこそ、AIの本質です。
少ない情報でも、あいまいな状態でも、ひとまず「結果を示せ」と命令すれば、クオリティが低くても、何かしらの成果が一瞬で上がってくる。
これはほとんどの人間にはできません。
したがって、そこで「クオリティが低い、ダメだな」と切ってしまう人は、「ChatGPTを使うのがヘタな人」です。
逆に言えば、「クオリティの低い回答」でも、それをうまく利用できる人が、「ChatGPTの使い方が上手い人」でしょう。
ChatGPTをうまく使う人は、成果品のイメージが最初のうち曖昧であっても、やり取りを繰り返すうちに、それを洗練させ、求める成果品に近づけていくのが非常にうまいのです。
実際、先ほど挙げた目次の最後に、
5.ChatGPTで思うような結果が得られないときの対処法
という項目がありますが、中身は至極まっとうで、いわゆる「新規事業」などのアプローチとほとんど同じです。
a. 指示を修正する
b. 依頼をより小さなタスクに分解する
c. 追加のコンテキストを提供する
d. さまざまなアプローチで実験する
e. アウトプットを繰り返し、洗練させる
f. ChatGPTのドキュメントとコミュニティに相談する
g. ChatGPTは学習ツールであることを忘れない
逆に「最初から高クオリティの回答が返ってこないとダメ」と思っている人は自分が求めているものを、誰かに「引き出して」もらわないといけませんから、ChatGPTではなく、優秀な人間がそばにいないと、アウトプットを出せません。
優秀な人間から
「あなたの求めているものは〇〇では?」とか、
「もしかして〇〇だと思っていませんか。」とか、
「こういう事例があります」とか、
「たぶんこうするとうまくいきますが、どうでしょうか?」とか、
様々な、自分の考え方を引き出す問いかけをしてもらわないと、自分が求める成果を明確化できないのです。
こういう人は、(今のところ)ChatGPTをうまく使えません。
ChatGPTは、自分に語り掛けてくれませんし、自分の心を読んでくれません。
ですから、「ChatGPTは使う人次第で、能力が大きく変わる」のです。
「要望が固まってないと、動けません」という人間はAIに負ける
したがって、「指示や要望が固まっていないと、手戻りになるので動けません」という人間は、かなり早い段階で、AIに負けてしまうでしょう。
「じゃあ、(いくら負荷をかけても大丈夫な)AIに相談してみます」と言われてしまう。
逆に、「成果品への要望を、質問などを使って固められる人」は生き残りやすいでしょう。
そういう人は、「ChatGPTに対しても、部下に対しても、お客さんに対しても」同様に、「成果のイメージを明確化する技術」を適用できますから、AIを自分で使う側に立てるので、逆に仕事は加速する。
では一体、どの程度の人が、「成果のイメージを明確化する技術」を持っているのかというと、私も良くわかりません。
ただ、体感値として、そういう人はあまり多くはない。
そうなれば、AIによる人間の代替化が進むかもしれません。
ディストピアが訪れる可能性もあります。
われわれは何か重要な一線を越えてしまったかもしれない、と思いました。
*
全く関係ないですが、本日4月19日に”頭のいい人が話す前に考えていること” という本を出します。
頭のいい人が話す前に考えていること
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ここには、「働く上で知っておくと得すること」を盛り込みました。
編集者のかたと1年以上、ほぼ毎週ミーティングをしながら、すこしずつ書きためてきた本ですので、ぜひ手にとっていただければとても嬉しいです。
よろしくお願いします。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
◯Twitter:安達裕哉
◯Facebook:安達裕哉
◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書)
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