少し前の話になるが、アナウンサー出身のとある県知事が羞恥ここに極まれりといったスキャンダルに見舞われた。

 

いやしくも公職に就く者が、こんなおじさん構文の卑猥なメールを、不倫相手に送っていたなんて……!

というわけだが、ぶっちゃけこの手の話は過去を振り返れば枚挙にいとまがなく、新味は皆無と言っていい(むろん面白いが)。

 

ファンや子どもたちに夢を届けるプロ野球選手、清純ウリのタレント等々、あえて固有名詞は出さないけども、そういった人々の醜聞について総じて言えるのは、一般に認知されているキャラや公の地位と内面のギャップが大きいほど、非難の声が激しくなるということだ。

 

さて、筆者は元々編集業に携わっていたのだが、シモ絡みのスキャンダルが表に出るたびに自分が抱くのは、義憤でも興味関心でもない。

むしろ、突然のゴシップ爆誕によって潤う知人、困る知人、さらには単なるスキャンダルから裏の裏を読み取ろうとする陰謀論系の知人がどう反応するかという思いが湧いてくる。

 

ケシカランと非難するわけでもなく、「にんげんだもの」などと擁護するわけでもない。

世間一般とは全く違う捉え方をする人々がいることを、ぜひ皆さまに知っていただきたいというのが本稿の主旨である。

 

降って湧いた醜聞を養分にしたり、善悪抜きで情報価値を冷静に見極めて自分の仕事への影響を考えたり、はたまた己の妄想ワールドを広げる材料に使ったり。

 

それらの特異な方々の生態を紹介することで、スキャンダルとの接し方について、何がしかの示唆をお届けできれば幸いだ。

 

醜聞を善悪ではなく情報価値で捉える人々

前述の通り、一般に普段いいイメージを持たれている者の裏の顔が暴露された時ほど、炎上規模が大きくなる。

これが最初から倫理的に破綻しているように見えるお方なら、「やっぱりね」という感想しか生まないし、ある程度分かった上で推している人や理屈抜きの支持層はそう簡単には離れない(例:米トランプ元大統領)。

 

その反面、清楚、純真、クリーンといったイメージを売りとしている公人や有名人の場合、ダメージコントロールは難しい。

このような現象を、筆者が敬愛してやまないとあるネットユーザーは「ベッキー・渡部理論」と称したが、まさに言い得て妙。

 

どちらも元来いいイメージを持たれていたものの、不倫スキャンダルで大打撃を負ったタレントさんで、特に自分の場合、忘れ難いのはベッキーの方である(いい加減忘れてやれよという声はあるだろうが)。

 

というのも当時、筆者は週刊誌記者やフリーランスのジャーナリストなどと仕事上の付き合いがあり、それらの人々の生業が醜聞によって強く影響を受けることに驚かされたからだ。

 

まず、週刊誌界隈の友人は、世間と違った意味で祭りとなる。

はっきり言えば、大漁旗を掲げんばかりの稼ぎ時。

 

どこかが醜聞の第一報を伝えるやいなや、後追い記事だろうが何だろうが一斉に編集者や記者たちが動き出し、直近の発売号に間に合うよう企画が差し替えられる。

 

今どき週刊誌なんぞは大手ですら厳しく、弱小系ともなればかなりの媒体が青息吐息。

そんな雑誌にとって有名人の超大型スキャンダルは、まさしく干天の慈雨のようなものである。

 

当時、某誌の記者が言った「いやー、ベッキーの件で一息つけました」という言葉を今でもよく覚えているが、端的に言ってハイエナ商売(これもその記者本人の言葉である)においては、この手の案件が定期的に起きてくれることが理想なわけだ。

 

筆者には記者の友人、知り合いがそこそこいるけども、有名人による不義の愛は倫理的に許されない、社会に悪影響を及ぼすから徹底的に追求しなければならない……! といった話を聞いたことは一度もない(そういう考えの方も中にはいるだろうが)。

 

言わば、彼らが注目しているのは事件そのものの善悪ではなく、その情報を伝えることが自らの利益につながるか、世間的なニュース価値はいかほどかということだ。

 

また、同様の見方から巷で話題の醜聞を分析する人々として、真面目な報道に関わるフリーランサーの友人たちがいる。

本来、彼らの専門分野と不倫は全く関係ないはずなのだが、実は多大な影響を受けることがある。

 

紙媒体であれば、どうしても紙幅の関係で世間の関心が強いテーマにページが割かれるし、テレビの情報番組ならなおさらである。

それこそ銃弾をかいぐぐって撮ってきたネタであっても、芸能人が薬物絡みで捕まったりして巷の話題がそれ一色になると、掲載が見送られたりネット版の方に回されたりするわけだ。

 

結局のところ、各人の可処分時間には限りがあり、世のあらゆるトピックスに等しく関心を持つことはほぼ不可能なので、やむを得ないことではある。

だからと言って、「自分が命がけで撮ってきた素材を使わず、こんなしょうもない話題を優先するなんて……!」と、フリーランスで報道に携わる友人たちが憤るかというと、自分が見てきた感じではそうでもない。

 

むしろ、このスキャンダルはネタとして強すぎるので、タイミングをずらすしかないですねといった具合に、まるで天災か何かのように捉える人が多いというのが正直な印象だ。

 

醜聞を商売にする一部のメディア従事者とスタンスこそ違うが、各スキャンダルについて社会的関心の強さや巷間における情報価値を見極めるという点では、共通したものを感じる。

 

彼らはスキャンダルを消費するのではなく、観察・分析しているのである。

 

観察しすぎて闇落ちしないようご注意を!

さて、前項で消費ではなく観察・分析という話を書いたけれども、ここで注意すべきは考えすぎるあまり思考の飛躍を起こしてはならないことだ。

 

筆者には陰謀論ガンギマリの友人、というか観察対象がいるのだが、そんな彼が芸能人の不倫話などをネットニュースで見るたびに口にするのは、「まーた、あっちむいてホイ、か……」といった言葉。

 

彼の特殊な視点では、こういった醜聞は日本の政治・社会の重大な問題から国民の目をそらすために仕組まれた出来レースの炎上で、注目したら負けということになるらしい。

 

ちなみに、そんなことを言いつつも彼はゴシップが出るたびに「では何から目をそらさせるのか」について独自に追求を始めるので、自らの妄想(彼にとっては「真実」だが)を補強する材料にしているとも言える。

 

ある意味、存分にジャンクな情報を満喫しているわけで、本人は絶対認めないだろうが紛うことなきスキャンダルの消費者だ。

そうではなく、あくまで観察者・分析者の視座から「ニュルニュル〜」などといった話に向き合うと、義憤に駆られて怒ったり、大爆笑したりするのとは違った思索が生まれてくる(こともある)。

 

人の噂も七十五日という言葉があるが、この件の「賞味期限」はどれほどで、それを左右するのはいかなる要素か。

謝罪ではいかなる対応が世間へのアピールで有効か、またダメコン可能な人と消えゆく人を分けるものは何か。

 

報じているメディアとて当然表裏があり、それを自覚していないはずがないのに、なぜ倫理を振りかざして他者の矛盾を叩けるのか。

そもそもわれわれはなぜ、言ってしまえば赤の他人のゴシップにこれほど関心を抱くのかーー。

 

不倫スキャンダルとは要するに下半身の話であり、人々に消費される多種多様な情報の中でもとりわけジャンクな部類。

そんなものについて深く考えようが、面白おかしく楽しもうが、関心を持ってしまっている時点で大した差はないかもしれない。

 

だが、どうせ否が応でも消費するのなら、絶好の人間観察のテーマとして、じっくり咀嚼しつつ、思索にふけってみてはどうだろう。

 

感情むき出しで情報を受け止め、やがてすっかり忘れるよりも、冷静に観察と分析。

その方が自分の頭で考える習慣が身につくし、しょうもないゴシップネタの中からでも何かしらの気づきがあるはずだ。

 

もっとも、そんなことをする時間があったら、仕事なり学業なりを頑張った方が絶対いいのは間違いないが……。

 

 

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【プロフィール】

御堂筋あかり

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

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