つい先日、若手に「キャリア形成に大事なことってなんですか?」と聞かれた。

難しい質問なので逆に、考え方を尋ねたところ、収入を増やしたいので「経験」や「スキル」を積み上げること、あるいは「目標をもって取り組むこと」が大事だと思っている、という話が出てきた。

 

それでよいと思う。

そもそも「キャリア形成」という言葉自体が、様々なイメージを含んでいるので、特に「正しい」とか「間違っている」とか、そういうものはないのだ。

だから、「それでいいと思いますよ」と言った。

 

ただ、この若手は「私の考え方より、安達さんがどう思っているのかを知りたいのですが。」と、単刀直入に聞いてきた。

 

「考え方を聞きたい」と率直に言われたので、私は、昔教わったことを述べた。

「成果を問われること」がなくなったら、キャリアは頭打ちだと。

 

 

世の中の仕事は、2種類に分けられる。

成果を問われる仕事と、作業をこなせばよい仕事だ。

 

一般的に、前者は難易度が高い。

非定形業務が中心で予想ができず、成果が出なければ、頑張りや努力と関係なく、契約解除されたり、クビになったりする。

運の要素も大きいが、その代わり、成果が出れば良い報酬がもらえる。

 

後者は、難易度は低い。

時間さえかければ作業は必ず終わる。予想でき、あまり頭を使わず、運の要素も少ない。

だが、原則として報酬は低い。

 

かつて先輩にはこう言われた。

コンサルタントの報酬が良いのは、原則は「成果」で仕事をしているからだよ。しかしコンサルタントの仕事も、中には「作業」をすれば金がもらえる仕事もたくさんある。」

「そうなんですね。」

 

「でもそんな時、どっちを優先して選択するかでその後のキャリアが決まる。大きく稼ぎたいなら「成果を問われること」を選択しなさい。それがなくなったら、キャリアは頭打ちだよ。」

ただ、正直なところ、それを言われた時には私はピンと来なかった。

 

 

しかし、その2年後くらいに、ある選択を迫られることがあった。

 

一つは、それまでやってきたコンサルティングを続ける、という選択。

長時間労働にさえ耐えれば、そこそこのボーナスを得られ、順調に昇給もしそうだ。

しかし、今まで散々やってきたことの延長なので、それはある意味「作業」だった。

 

そしてもう一つの選択肢は、「新規事業の立ち上げ」だった。

立ち上げの難易度は全く読めない、恐らく失敗する可能性も高いし、その場合はボーナスもないし、昇給もない。

最悪、降給もあり得る。

 

しかし、立ち上げに成功さえすれば、大きなインセンティブがもらえる。

何よりも、「新しい経験」が積める。

その仕事は、先輩の言う「成果を問われる仕事」そのものだった。

 

 

悩んだ末、結局私は先輩の助言通り「成果を問われる仕事」を選択した。

理由はよくわからない。

ただ、先輩のいう事は本当で、この意思決定は今後のキャリアを大きく左右すると、なんとなく思ったのだ。

 

新規事業の立ち上げはやったことがなかったし、マーケティングの初歩すらわかっていなかったので、当時の社長はよく私にこの仕事を任せてくれたと思う。

実際、私の力不足で、結局、新規事業の立ち上げは失敗した。

その年のボーナスはなかったし、昇給もなかった。

 

しかし、得られたものは非常に価値があった。

何もないところから、散々あがいたおかげで、商品はどのようにあるべきか、市場をどのように開拓すればよいのか、そうした新しいノウハウを得ることができた。

 

そして何より、「従来の作業的な仕事」が恐ろしくカンタンに感じるようになり、クロスセルや継続契約の仕事の受注率が飛躍的に伸びた。

 

 

それ以来、私は仕事の選択を行わねばならない時、先輩の教えに従い、常に「より難しく、より新しい、より成果が問われる」方向に切ることを原則とした。

 

大きな成功も、大きな失敗も増えたが、後悔はしていない。

 

ただ、それを「良いキャリア」と呼ぶか「悪いキャリア」と呼ぶかどうかは、個人の感じ方ひとつなので、評価はしない。

しかし、「自分が何を選択してきたか」で、キャリアが決まることだけは、間違いない。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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Photo:Riccardo Annandale