秘密の花園の伐採

私の年代を三文字で表すならば、お世辞と忖度を最大限に効かせたとしてもBBAだろう。

それでもまだオンナとしての可能性を捨てきれない私は、恋愛や結婚という妄想を大切に温めている。

 

なんせ今のご時世、価値観というものに変化が起こり、あらゆる差別が禁止されつつあるわけで、そうなると見た目や年齢という表面上のモノサシが機能しなくなる未来が近いといえる。

 

ということは、現在のモテ基準も様変わりするはずだから、BBAのモテ期が到来するかもしれないわけで。

 

そんな輝かしい未来を迎えるためにも、私はとある覚悟をもって"まだ見ぬ世界"へ踏み込む決心をした。

それは、謎のベールに包まれた秘境の開拓・・いや、謎の毛に覆われた"秘密の花園の伐採"である。

 

渡りに船

そもそもなぜ、陰部に毛が必要なのだろうか。

諸説あるが、「フェロモンを留めることで異性をひきつける」「外部からの刺激を守る」「保温・細菌やウイルスの侵入を防ぐ」などが有名だが、断定できる理由は不明とのこと。

 

そんなことよりも、人生でオンナを謳歌できる時間を有意義に過ごしたい私は、女性のシンボルであるデリケートゾーンの脱毛を決意した。

 

日頃からアンダーヘアの形を整えたり長さをカットしたりと、それなりに手を加えてはいた。

だが、そんな手間を繰り返すくらいならいっそのこと無毛にしてしまおう・・ということで、陰毛の完全除去を目論んだのである。

 

ここで問題となるのは、医療脱毛とサロン脱毛のいずれを選択するかである。

 

ところが意外にも、私はあっさりと"サロン脱毛"を選択した。理由は簡単、友人らの体験談を聞くうちに「医療脱毛はめちゃくちゃ痛い」という事実を知ったからだ。

しかも絶妙なタイミングで、友人が脱毛サロンをオープンさせるというニュースを聞きつけ、「まさに渡りに船だ!」とばかりに飛びついた。

 

よく「知り合いに局部を見られて、恥ずかしくないの?」と聞かれるが、たしかに最初は躊躇した。

しかし、どうせなら気心知れた間柄のほうがいいのでは?と考えたのである。

 

なぜなら、施術者たるものVIO(デリケートゾーン各部位の総称)に関する眼識を持っているのだから、他人と比べてなんらかの異変があれば、友として意見してくれるはずだからだ。

そんな邪(?)な狙いもあり、私は友人に"御開帳"を決めたのである。

 

御開帳の朝

アンダーヘアに別れを告げる日がきた。これは同時に、局部の毛を自らの手で剃り落とすという、重要任務を遂行する日でもある。

(ちょっとは残したほうがいいかな・・・)

 

あれほど息巻いていたくせに、なんだか急に弱気になる私。——多少なりとも毛があったほうが、自然なんじゃないか。

だが「理想的なチョイ生えにするのは、すごく難しいからね」と友人に釘を刺されたため、全剃りの覚悟を決めた私は、いざ局部と向き合うことにした。

 

使用するのは顔そり用のT字カミソリ。細部まで届くコンパクトヘッドと、肌に優しいセーフティーガードのおかげで、秘密の花園も安全かつ綺麗に伐採できるはず。

友人からは「剃り残しのないように、ちゃんと処理してよ!」と念を押されているため、ただでさえ身体の硬い私は入念にストレッチを行い、バスタブに片足を乗せると思い切って己の股を覗き込んだ。

 

——それはなんとも不思議な光景だった。そもそも、自身の陰毛がどのように生えているのかなど、知る由もないのだから。

たとえば範囲や本数について、正面から目視できるV(ビキニ)ラインであれば日々確認できるが、I(陰部の両側)とO(肛門周辺)については、わざわざ覗き込むこともないため、その辺りの毛がどのように生育しているのかは全くの謎だった。

 

とはいえ、生え方や毛量を知ったところで数時間後には根絶やしにされるのだから、大した問題ではない。

とは言うものの、人生で初めて自身の陰毛と向き合う機会を得たわけで、人体の不思議というか体毛の存在について、しばし考えさせられた。

 

(・・やっぱり不要だよな)

およそ10分の格闘の末、私は見事に陰毛伐採を果たしたのである。

 

アンダーへア討伐

照明を落とした薄暗い空間で、私は友人と向かい合う。

「全裸でいいんだよね?」

VIOを含む全身の脱毛をするのだから、全裸以外に答えはないはず。だが間違って全裸になったのでは気まずいため、念のため状況確認をする。

「当然だよね?」

・・そりゃそうだ。

 

施術中は室内を明るくするため、私の顔にはタオルが掛けられていた。

しかし、その隙間から見える彼女の表情は真剣そのものだった。特にデリケートゾーンに差し掛かると、言葉数が減った上に眼光の鋭さが増したことで、その姿は鬼神にすら思えた。

(あぁ、鬼神相手に秘部を御開帳とは、なんとも不思議な気分である——)

 

 

施術後、他人の陰部を散々拝んできた友人に、その心境について尋ねてみた。

「もう"無"だね。あぁ陰部だな・・っていうくらいで、なにも感じないよ」

たしかに、いちいち反応していたのでは施術に影響が出る。

 

それだけでなく、顧客が施術者の異変に気づく可能性もあるだろう。なぜなら人間というのは、身ぐるみ剥がされ全てを取り上げられた状態のほうが、感覚が研ぎ澄まされるからだ。

微かな戸惑い、一瞬の躊躇・・そんな些細な違和感を、全裸の人間は瞬時に察知するのだ。だからこそ施術者も、心を無にして挑まなければならないわけで。

 

——アンダーヘア討伐というのは、施術者と顧客との究極の真剣勝負なのだ。

 

男のアンダーヘア事情

サロン脱毛の場合、医療脱毛と比べて施術回数が倍以上となる。その理由は、照射する光の出力が弱いため、痛みが少ない代わりに回数が必要となるからだ。

だが、細い毛や産毛にも効果が及ぶため、気長に通い続ければあっという間に全身ツルツルになれる。個人差はあるだろうが、私は3回目で明らかな減毛を感じたため、その後のムダ毛処理は非常にラクになった。

 

そんなある日、後輩(男)が怪しい会話をしている場面に出くわした。

「そんなにもらえるなら、俺がやるよ!」

——そんなにもらえる、ということはカネ絡みの話か。無知な若造が事件に巻き込まれるのを阻止するべく、BBA代表として私は会話に割り込んだ。

 

「この子、美術系の高校に通ってて。それでヌードモデルが必要らしいんで、俺がやろうと思ったんすよ」

なんと、裸は裸でも芸術の話だった様子。これはこれは、勝手に先走ってしまい失礼しました。

「あ、そういえば俺、アソコもツルツルだけど大丈夫かな?」

突然のカミングアウトに、私は思わず反応した。——なんだと?オマエも処理済みなのか!

 

男のVIO脱毛に興味津々の私は、二人の会話などお構いなしに、根掘り葉掘り後輩を追究した。中でも衝撃的だったのは、彼が発した最初のセリフだった。

「紙パンツ履かされるんすよ、全裸で」

——か、か、紙パンツ?!これから施術する部位を、なぜ隠すのだ?!

「あれは、今までの人生で最も恥ずかしいというか、情けない姿でしたね・・・」

にやけ顔で後輩が語る。しかし、「なぜ紙パンツを履かされたのか」という理由までは不明とのこと。

 

そこで私は、ベテラン施術者である友人に「なぜ男性に紙パンツを履かせるのか」を尋ねてみた。するとこれまた衝撃的、かつ、あまりに合理的な回答に、驚きつつも感心してしまったのである。

「竿に触れるわけにはいかないから、紙パンツでずらすんだよ」

 

施術者が女性の場合、さすがに「男性の局部丸出しはマズいだろう」という配慮から、顧客に紙パンツを履かせるのだそう。

だが実は、そんな配慮よりも納得できる"現実的な理由"があり、それこそが「施術中に突起物が邪魔になった際、直に触れずに紙パンツを使ってさりげなく位置を変える」というものだった。

 

これを聞いた私は、思わず膝を打った。なるほど!それは確かにその通りだ——。

 

 

今のご時世、アンダーヘアの処理は身だしなみの一つといえる。誰に見せるわけではなくとも、蒸れによる異臭や排泄物の付着を防ぐべく、男女問わず"VIO脱毛"を検討してみてはいかがだろうか。

(了)

 

 

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【著者プロフィール】

URABE(ウラベ)

ライター&社労士/ブラジリアン柔術茶帯/クレー射撃スキート

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