e-sports市場が熱い。

 

わたしもじつは、これらのゲームが大好きである。

ただ、自分でやってしまうとゲーム廃人になることが分かっているので、ネット上の配信サイトやYouTubeで見ることで我慢している。

 

中でもやはり「PUBG」の流行に始まり「RUST」に代表されるバトルロワイヤルゲームだ。

これらの共通点は「オンライン上でチームを組み、見知らぬ相手と殺し合う」という形式だ。

 

「VALORANT」については世界大会が実施されている。

ネットゲームゆえに、地域も国籍も問わない。

人気配信者の加藤純一さんのプレイを見て、わたしはいくつか考えさせられた。

 

原始の争いに近い世界観

数ある中で、今回は「RUST」というオンラインゲームの話をしたいと思う。

最初のリリースは2013年12月。10年前の話である。

しかし今でも、ゲームアプリSteeam上では「最もプレイされているゲーム」の14位である(2024/3/1現在)。

 

わたしはRUSTの魅力について、こう感じている。

「人間が戦争をしている」生々しさがある。いや、人類史の凝縮だ。

プレイヤーは最初のログインをすると、裸の状態でランダムな場所に落とされる。

 

そこから石を拾い木を切って木材を集め板を作り、敵対する人物は殺害し、その骨までもが武器の材料になる。

路上のドラム缶や廃車から金属を集め、硫黄を含む石を砕いて火薬を作れば、それらを合わせて銃火器も製造可能になる。

 

そんな具合で拠点となる建物を作り、その世界に存在している他の軍団の拠点を壊しに行く。

(https://rust.double11.com/press-kit)

リスポーン(=生き返り)機能を除けば、本当に原始的な戦争に近い。

 

大勢の「山の民」とともに

このゲームは、24時間稼働しているいくつかのサーバーからどこかを選びプレイする。

いろんな国の人がひとつのサーバー、つまり土地に混在するのである。

 

ひとつのサーバー上で日々拠点を強化し、長く君臨するクラン(=人の集団)もある。

その後に新規参入する新しいクランを潰すことで彼らは王の座を維持できる。

 

しかし新参者に本部拠点を破られれば、どんな強いクランであっても再建に時間や人員が必要となる。

もちろん、自陣も敵もオンラインプレイヤーの集合体である。

本部以外にも物資の倉庫を多数作るクランもある。

人が生き返ることができることを除けば、ほぼ戦争そのものだ。

 

わたしがこのゲームを知ったのが、ネット配信で活躍中の加藤純一さんの実況を見た時のことだ。

チャンネル登録者はYouTubeで124万人。Twitchで89万人。かなりのファンを抱えている。

 

彼は「何日からRUST配信をする」と配信で伝える。

しかしいつログインするか具体的には知らせない。

 

なぜなら、時刻を告知してしまうと、一緒にプレイしたい視聴者が一気にログインしようとしてサーバーに負担をかけてしまうからだ。

しかし配信を見ていれば彼がゲームを始めたかどうかがわかる。視聴者はそこを目指して合流するのだ。

 

面白いのは、彼は参加する視聴者のスキルを問わないことである。

一部には高いスキルを持つ参加者もいるが、岩でものを殴ることしかできない参加者もいる。

彼はそんな彼らを「山の民」と名づけ、まずはひたすら物資を集める作業に専念させるのである。

 

「山の民」は100人規模で集まってくる。

初心者を集めてどうするのか?と思うかも知れないが、これが愉快なのである。

 

失うものがない裸の王様

彼はもはやRUSTの世界では、「Katoの日本人グループがきた!」となるくらい厄介な存在になっている。

ひとえに「山の民」の迫力のおかげだろう。

 

優秀な部下に建築や道具の製造を任せるが、そうでない視聴者が山ほどいる。

しかし、どんな扉も1万回殴れば穴を開けることができる、それが彼のやり方だ。

 

板を数発殴るだけのために「山の民」は狙撃されて死に、生き返り、また壁を数発殴っては死に、また生き返って壁を殴りに行く。

気の遠くなるような作業だ。

しかし集まった視聴者たちは、それをやってのけるのである。

 

今では「ゾンビ・アタック」と言われるこの手法はまさに「数の暴力」だ。

そして外壁が1枚、2枚と抜けていくごとにロケットランチャーなどを装備した精鋭部隊が後方支援をかけていく。「仲間ごと壁を打つ」ことも厭わない。

 

しかしそれ以上に面白いのは、彼の立ち回りである。

じつは彼は、上級者ではない。

 

自分自身はほとんどの時間を石ひとつ、裸で移動するのである。見た目は「山の民」である。

視聴者が資材を集めても、「俺に渡すな!俺は下手だから!」と言い張る。

 

大将でありながら、死んだってどこかでリスポーンできる。しかしその時にロストするアイテムは、石ひとつだけで済む。

「自分は上手じゃないから、物資の無駄遣いはしない」という考えだ。

 

つまり彼は、「失うものがない大将」なのだ。

 

「日本の無職ジジイを舐めんなよ」

「いいかー、俺はこれから寝るからな。でもお前たちは資材を集めとけよー」

おいおい、と思うかも知れない。

 

しかし真に人を動かす大将というのはそういうものかもしれないと思わされてしまう。本人は裸に石ひとつ、の姿であっても。

 

そして、非常に印象的な言葉がある。

「チート」という、つまりはサーバーなどにプログラムの改ざんを働きかけて自分の攻撃力や防御力を上げる輩が時々いるのだ。

 

しかし彼はそれに屈しない。配信でプレイヤーにこう呼びかける。

「相手がチーターなら、こっちはニーターだ!日本の無職のジジイを舐めんなよ!」

この言葉こそが、彼の人気を支える要素だとわたしは思っている。

 

日本でネット配信、それが収入になるという礎を築いたのは「ニコニコ動画」、そこから誕生した「ニコニコ生放送」だろうと思う。「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏も一枚噛んでいる。

 

いまも、1日中ネットに貼りついている、つまり無職というユーザーが「ニコ生」を支えている。

そして、それを支えているのは氷河期世代だということが、視聴者のコメントなどを見ているとよくわかる。

 

今年の3月からプレミアム会員の料金が大幅値上げされ、「会員やめるわ」というユーザーが増えているが、今流行の「ふわっち」や米系の「Twitch日本向けチャンネル」のように、ネット配信で収入を得るということがひとつの職業になるという道を切り拓いたのは間違いなく「ニコニコ生放送」だろう。

このKさんも、「ニコ生出身」の人である。

 

そこに裏切り者がいたとしても

それはさておき、加藤純一さんの「RUST」配信の醍醐味は、人の心理を見事に描き出す点にもある。

 

人気配信者ともなれば、当然多くの視聴者が彼の軍隊の兵になりたいと参加するのだが、それを逆手にとってスパイ行為をはたらく参加者も出てくるのだ。

かつ、世界中のチームがそれぞれのサーバーにひしめいている。

 

すると、何が起きるか。

自陣からして「得体の知れない人物」が出てくる。

 

「共通の大敵を一緒に倒すお手伝いをします」という意図なのか、敵陣が送ったスパイなのかは最初はわからない。

しかし、彼の味方が「あの人はスパイです」などの情報を仕入れてくる。「情報班」とも呼べるだろう。

 

中には、「他のプレイヤーが、加藤さんのせいでサーバーが重くなっていることを不満に思っている」

という情報も得てくる。

さて、その時、彼はどうするか。

 

自ら「首脳会談」に赴くのである。

「今から◯◯のポイントに向かうって相手に伝えてくれ!」と指示をして、これまた裸に石一つで駆けつけるのである。

相手は英語やその他の言語だ。それも、ボイスチャットだ。Google翻訳など使っている余裕はない。

 

ではどうするか。

 

配信で「誰か英語できるやついねーかー!通訳してくれー!」と叫び、実際に英語が得意な参加者を連れて通訳をしてもらうである。あるいはなんとかカタコトの英語でコミュニケーションを取り、プレイヤーの国籍を超えた「連合軍」まで作ってみせるのである。

その様が、まさに「人間が起こしている争い」だという生々しさを見せつけてくれる。

 

ある「首脳会談」では、通訳と一緒に簡易的に小屋を作ってその中で相手と和解し、「誓い」としてその場で手榴弾で一気に自決するというシーンもあった。

 

それも、相手の提案によってである。

しかも英語が流暢というわけではない彼は、最初は相手が何をしたいのか、見た目だけではわからなかった。しかしまもなく、その意図を汲み取った。

 

身軽だからこそできるノリの良さ

もちろん彼がここまでの面白さを持つ配信をできるのは、彼がずっとインターネット上で努力を重ねてきた結果の集客力にほかならない。

 

しかし、自分は裸一貫。

ある時には、優秀な視聴者に拠点作りを任せるが、「場所は俺も知らないほうがいい」と伝える。

本人が妙な所をうろつくと、場所がバレてしまい、敵対者が一斉に襲ってくるからだ。

 

ゲームの世界で何を言っているんだと思われるかもしれないが、オンラインゲームはもはや「人」がそこにある。いや、ネットゆえに近寄ってくる相手が何者なのか余計に察しがつかない。

今や人を束ねる世界とは、そういうものなのである。

 

もちろん、寓話の「裸の王様」とは趣旨が異なるが、自ら裸になることもひとつの戦略なのかもしれない。

(なお、結局は国籍で軍が組まれて敵対するという部分も非常に興味深かった。)

 

 

 

 

 

【プロフィール】

著者:清水 沙矢香

北九州市出身。京都大学理学部卒業後、TBSでおもに報道記者として社会部・経済部で勤務、その後フリー。
かたわらでサックスプレイヤー。バンドや自ら率いるユニット、ソロなどで活動。ほかには酒と横浜DeNAベイスターズが好き。

Twitter:@M6Sayaka

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