この記事で書きたいことは、大体以下のようなことです。

 

・昔の友人に、「ゲームの面白いポイント」を見つけるのがめちゃくちゃ上手いヤツがいました

・面白いコンテンツを見つけるための根気、ぶれなさ、言語化能力に私は憧れていました

・「他人の評価を参考にする」ことと、「評価軸を他人任せにする」ことは違います

・もちろん何かを評価する時に他人の評価を参考にすることはありますし、あって良いと思います

・けれど、その上で、「自分の評価軸」「自分は何を面白いと感じるのか」という軸はもっておきたいな、と思っています

・全然関係ないけどファミコン版のロットロットはスルメゲーです

 

以上です。よろしくお願いします。

さて、書きたいことは最初に全て書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。

 

まず、小学校~中学校の頃の友人だった吉田くん(仮名)の話をします。

吉田くんとは誰かというと、小学校の頃知り合った私のファミコン仲間の一人で、私たちの中で唯一「ロットロット」の面白さを見出した男です。

 

ロットロットってゲーム、皆さんご存知でしょうか?アーケードからファミコンに移植されたアクションパズルゲームでして、一言で言ってしまうと「独特の操作性の自機を操り、ボールの位置を入れ替えながら特定の場所に流し込んで、高得点を狙う」というルールなんですが、まあ動画を見ていただいた方が早いと思います。

 

 

こちらの動画でも解説して下さっていますが、ゲーム画面内に赤い「矢印(みたいなユニット)」と青い「矢印」がいることがお分かりでしょうか?

これ、プレイヤーは赤い矢印を操作して、青い矢印は少し遅れて赤い矢印を自動的に追いかけるような動きをします。で、赤い矢印と青い矢印の間で上から流れてくるボールの位置を入れ替えて、一番右端に誘導してやる。すると、右端からボールが流れ出て得点になる。

 

ボヤボヤしていると一番左下にボールが流れてしまって、変なカニに捕まってしまうと1ミス。文章で説明しにくいんですが、そんな感じのゲームです。現代でも類例がかなり少ない、非常に独特なパズルゲームだと思います。

 

このゲーム、ルールをきちんと理解した上で遊ぶと癖になる面白さがありまして、上手いこと青い矢印を誘導して大量のボールを流すことが出来るとめちゃくちゃ気持ちいいんです。

「テトリス」や「ぷよぷよ」のような落ち物パズルに近い爽快感と中毒性があるスルメゲーなんですが、当時小学生だった私たちには、本当にわけわかんなかったんですよ。「これ何のゲームなんだ??」って当時も思ったんです。

 

以前から何度か書いていますが、私たちファミコン仲間の間では、お互いのゲーム所持状況について情報交換して、新しいゲームを買ってもらったらそいつの家に行ってみんなで遊ぶ、という習慣がありました。

当時はゲームを買ってもらう機会も限定されていて、新しいゲームが手に入る機会など、半年に一度あればいい方でした。なるべくたくさんのゲームを遊ぶために、なるべく買ってもらうゲームが被らないようにして、やったことがないゲームを遊ぶチャンスを可能な限り増やそうとしていたんです。一種の互助会です。

 

以下は手前みそですが、このゲーム仲間の間で「ドラクエ2」を遊んだ時の話です。良かったら読んでやってください。

工藤くんの家でルプガナに初めてたどり着いた時のあの感動を、俺はいつかまた味わえるのだろうか

 

で、この「ロットロット」も誰かが買ってもらったタイトルなんですが、説明書がついていなかったこともあって、最初は仲間の誰ひとり「これは何をするゲームなのか?」が分からなかったんです。

十字キーを押すと、なんか↓が動く。で、ボタンを押すとなんか音がする。が、ただそれだけで、いつのまにかボールが下の方に移動していって、変なカニが出てきてゲームオーバー。そんな理解度だったと思います。

 

今でこそ動画やWebの情報で「遊び方」を調べることが出来ますが、当時そんなインフラはありませんでした。たとえ取説があったとしても、この「ゲームの仕組み」と「面白さ」を、小学生が理解するのは、恐らく難しかったでしょう。

こちらは、自宅にある「ファミリーコンピュータマガジン」のおまけ冊子の画像引用です。

当時、「ファミマガ」の紙面では読者によるゲームの評価づけが行われていまして、面白いゲームは大方評価20以上、最上位の有名ゲームだと25を越えていました。確か、歴代最高点が「ドラクエ2」の28.02だったと思います。

 

そんな中、ロットロットの評価は御覧の通り15.7。これを見ても当時のファミっ子たちが、ロットロットをかなり低く評価していたことが分かります。

これらの評価もあって、私たちはロットロットを「なんだかよくわからんつまんないゲーム」として評価し、ファミコン箱の奥にしまい込んでしまいそうになりました。

 

そこで、「俺、家でもうちょっと遊んでみたいから貸してよ」と言って、ロットロットを借りていったのが吉田くんです。

最初はみんな「物好きだなー」と思っていたんですが、やがて吉田くんは「いや、ロットロット面白いよ!赤いの落とすと一気にボーナス入って、すごい気持ちいいんだよ!」と熱弁するようになりました。

 

みんな半信半疑だったのですが、吉田くんの家に遊びに行って、彼が何万点ものポイントを積み重ねるところを見せられると、「すげえ……!」となりました。

彼が「一度赤い矢印を右端に持っていって、その後上から落ちてくるボールの方に行く」「すると青い矢印が同じ軌道で右端に行く」「そこでボタンを押してボールを交換する」という非常に忙しい操作をスパスパ処理するのを見て、私は初めて「これがなんのゲームなのか」を理解することが出来たのです。

 

とはいえそれでも「ロットロットが仲間内で大流行り」とはならず、大半の仲間にとってロットロットは「なんだか分からないゲーム」であり続けたのが現実の辛いところなのですが、その後も吉田くんはロットロットをやり込み続け、スコアが数十万に達するところも見せてもらいました。

 

実はこの時だけの話ではなく、仲間内で「このゲームつまんない」という結論に至りそうになった時、いつも決まってそのゲームを借りていき、「いや、これ面白いよ」と言っては解説してくれていたのが吉田くんでした。

私はスターラスターを、スパイvsスパイを、ランパートを、ギミック!を、かこむん蛇を吉田くんから教わりました。

 

今から振り返って考えてみると、私が持っていなかった「ゲームを評価する際の強み」を、吉田くんは少なくとも三つ持っていました。

 

・分からないゲームのやり方を黙々と試行錯誤する根気

・周囲や雑誌の評価をうのみにせず、面白いポイントを自分で見つけ出すぶれない軸足

・「面白い!」となった時、その面白さをきちんと言語化出来る言語化能力

 

特に、「周囲の評価をうのみにせず、ちゃんと自分で確認しようとする」というスタンスには、当時も感銘を受けましたし、今でも小学生ばなれした物凄い能力だと思っています。自分の物差しをもつ。簡単なようで、大人でもこれが出来ていない人は数多くいます。

 

ロットロットのように「面白さが分かりにくい、けれど分かってくるハマる」タイトルというのは、世の中にはたくさんあります。けれど、その面白さに気付く為には、まず「面白さを理解する」為の遊び方、スタンスというものがどうしても必要になります。そして、そのスタンスに基づいて、自分の目でコンテンツを判断する根気も必要不可欠です。吉田くんにはそれがあった。私にはなかった。

だから、私は今でも吉田くんに憧れています。

 

***

 

クリエイターの心構えというか、一つのスタンスとして、「百人に一人、深く刺さるようなコンテンツを作る」というものがあります。

最初から万人受けするものを作ろうとすると、コンテンツからエッジがなくなってしまって、結局誰にも刺さらないで終わってしまう。だから、「百人の中で一人でもいいから、どこか「刺さる」エッジを作ろう」と、そんな考え方だと理解しています。

 

ただ、コンテンツの受け手としては、その「百人の内の一人」になる為にはどうすればいいのかな、と思うことがあります。

クリエイターが作ったエッジを適切に受け取り、それを「面白い!!!」と感じ、それを言語化出来る誰かひとり。

別にそこまで他人と違った人間でいたいという欲求があるつもりではないのですが、「面白さを見逃さない」というスタンスには、私は小学校の頃から憧れ続けています。

 

その為には、まずは最低要件として、「他人の評価をうのみにせず、自分でコンテンツを評価する自分なりの軸」が必須なのだろうなあ、と思います。

 

もちろん、他人の評価を参考にしてはいけない、という話ではありません。あらゆるコンテンツを遊び尽くすことは不可能なのだから、何かのコンテンツを見出す為には、既にそのコンテンツに触れた誰かの評価をまずは参考にすることだって必要でしょう。現代のように、多種多様なコンテンツがあふれている世界であればなおさらです。

 

けれど、その評価を参考にした上で、「それは飽くまで他人の評価軸に基づいて評価されたもので、自分の評価軸とは違うんだ」と理解すること。そして、自分は何を面白いと感じるのかをきちんと把握して、その上で「これは面白いかも」と思ったら、出来る限り自分の目でそのコンテンツを確かめること。

そういうスタンスがあって初めて、「深く刺さる百人に一人」になれるのだろうな、と思います。そう、例えば吉田くんのように。

 

残念ながら、私には吉田くん程の根気もなければしっかりとした軸足もなく、今でも往々にして人の評価に流されてしまいます。

私に「刺さる」コンテンツは他の大多数の人とそれ程異ならず、強いて「人と被りにくいタイトル」をあげるとすればファミコン版のゴーストバスターズくらいだと思いまして、あのゲーム私自身は「お買い物ゲーム」として大好きなのですが、それは余談なので省きます。

 

ただ、それでも、コンテンツに接する時は可能な限り「自分の評価軸」を意識して、それに基づいて面白さを判断したい、と。他の誰かに評価軸を委託するようなことはできる限りしたくない、「これ面白いかも」と感じたら可能な限り自分の目で判断したい、と。

そんな風に考えているわけです。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

Photo:Ugo Mendes Donelli