2016年。東急電鉄がマナー広告で「電車内で化粧をしている女性はみっともない」と表現し、大きな議論を巻き起こした。
それに乗じて『化粧をしないことは、本当に「マナー違反」なんだろうか』という記事を書いたところ、とんでもなくバズり、新聞やテレビでも紹介していただいた。
2024年のいまでもわたしの考えは変わらず、「女は化粧をして当たり前」という考え方はまちがっていると思うし、「化粧は身だしなみでマナー」というのなら男性だってやるべきだと思う。
さて、マナー広告騒ぎから8年経った現在。
「他人の見た目をとやかく言うのはルッキズムであり悪いこと」という声をよく聞くようになった。
ようやく時代が追いついてきた! そうそう、別にすっぴんだっていいじゃないか!
……と思っていたわたしだが、最近、まったく予想していなかったことが起こる。
なんとわたし自身が、化粧にハマったのだ。
すっぴんは接客NG?他人のための化粧への違和感
大学生時代、わたしはベースに夢中でとにかくずっとベースを弾いていたかったから、すっぴんで大学に行くことが多かった。
すると毎回数人の男子から、「今日すっぴんじゃん、急いでたの?」とか、「すっぴんだとなんか顔色悪いな(笑)」なんて言われる。
バイト先の居酒屋はすっぴんの女は接客してはいけないので、すっぴんの日は強制的に洗い場担当にさせられた。店長含め、男性は全員すっぴんで接客しているのに。
しかも大学内には、堂々と「就活用メイク講座」なんてポスターが貼ってある。なんだそれ。
なにがなんでも女に化粧をさせようとする社会の圧力が、さっぱり理解できなかった。
いくら顔を洗って、眉毛を整えて、きちんと髪の毛をまとめても、化粧していないかぎり女は社会的に受け入れられない。いったいなぜ女だけ、素顔でいることを否定されるんだろう。
こういう思いがあって、マナー広告炎上に際し、「なんで化粧を強制するんだ」という記事を書くに至ったのだ。
そしてその記事が『ワイドナショー』という番組で紹介され、すっぴんだと接客を禁止されることをどう思うか、という話題になったとき。
正確な言い回しは覚えていないが、コメンテーターの松本人志さんが、「僕はすっぴん好きですけどね。すっぴん居酒屋あったら行きたいくらい」のようなことを言って笑いを誘っていて、心の底からがっかりした。
その発言が化粧しない女性の肯定になると思っているなんて。
あんたの好みなんて毛ほども興味ないわ。あんたのために化粧するわけでもなければ、あんたのためにすっぴんを選ぶわけでもない。あんたの基準でわたしの見た目をとやかく言われるのがダルいって話をしてるのに、なんで伝わらないの?
化粧嫌いのわたしが化粧に目覚めた理由
大学を卒業してドイツに移住してからは、ほとんど化粧をしなくなった。
ドイツには、化粧をしているかどうかでとやかく言ってくる人はいない。夫も「化粧なんてしなくていいよ」と言ってくれるし、すっぴんでも普通に接客バイトができる。
その後、病気になりバイトを辞めて在宅ワークをはじめた結果、外出頻度がかなり減った。さらにコロナ禍に突入したことで、わたしは完全に化粧をやめた。2年間ほどだろうか。
が、コロナが落ち着き、車を購入して行動範囲も広がったので、街に買い物に行ったりレストランで食事することも増えてきた。
コロナ禍の3年間、外出といえば犬とのハイキングがメインで、スポーツ服やジャージしか着ていなかった。「久しぶりにお出かけするならおしゃれしたいな」という気持ちが湧き上がり、「久しぶりにお化粧してみよう!」という気分に。
思い立ったわたしはその週の土曜日、意を決してマインツのMüller(ドラッグストア)に突撃。
とりあえず資生堂やメイベリンといった見たことあるブランドで化粧品をそろえ、久しぶりに化粧をしてみる。
……これ、わたし?
数年ぶりに化粧をすると、なぜだか自分がすっごくかわいく見える。
ずっとタンスに眠っていた昔のおしゃれ着を引っ張りだしてお買い物に行けば、窓に映るこぎれいな自分を見て思わず笑顔に。
えー、なになに、化粧ってめっちゃ楽しいじゃん!
別にわたし、化粧が嫌いなわけではなかったんだな。
単純に、他人に化粧を強制されるのが嫌だっただけで。
化粧は自分を幸せにするための手段
化粧を学ぶためにいろんなYouTube動画を見るなかで、「就活のため」「モテるため」のような他人基準ではなく、自分のために楽しんで化粧する人がたくさんいることを知った。
ガチのコスメオタクって、2000円する単色アイシャドウ全99色レビューとか、6000円のリキッドファンデーション5色比較とかやるんですよ。
しかもそれぞれ経過時間でどう変化するかを確認するために、使ってから数時間は落とさないから、お金だけでなく時間もかかる。
いろいろ試して研究するのが本当に好きだからできるんだろうなって、素直にそう思う。
コメント欄も、「このコンシーラーで赤みを抑えられて大人っぽくなりました」「動画通りにチークを使うようにしたら血色良く見えました」「自分は脂性肌なのでこの下地と組み合わせてテカりを抑えました」などなど、化粧を通じてなりたい自分を目指す人たちのポジティブな意見で溢れている。
そのなかには男性のYouTuberもいるが、「男が化粧するなんて」「オカマ」といった時代錯誤なコメントは一切ない。
「肌きれいでうらやましい~」「派手なアイシャドウでも似合うのすごい!」など、美を求める仲間としてのコメントばかり。
ちなみに老けて見えるNG眉メイクという動画には、「NG例普通にめっちゃよくない?」「大人っぽく落ち着いた印象でいいと思うけどなー」「『これはNG』とかやめようよ、やりたいようにやればいいじゃん」「骨格によって似合うものが違うんだから、ネガティブワードを使う必要ない」というコメントがたくさんあった。
そういうのを見て、他人が決めた「こうあるべき」のための化粧はつまらないけれど、自分が「こうありたい」のための化粧って楽しいんだなぁ、としみじみ思ったのだ。
他人から「好き」を奪われたくない
わたしのように、「本来嫌いじゃなかったのに、他人からとやかく言われたせいで嫌いになった」という経験は、実は多くの人がしているかもしれない。
たとえば本人は苦手ながらも楽しく体育のサッカーをやっていたけれど、サッカー部の人に「このときはこう動くべき」「なんでできないんだ」「足引っ張ってるぞ」と言われて、スポーツ嫌いになったり。
独身時代は気合入れて自炊していたのに、結婚後はパートナーに「2日連続揚げ物か」「肉じゃがはもっと濃い味だろ」なんて言われ続けて、料理が苦痛になったり。
本当はサッカーだって料理だって、嫌いじゃなかったはずなのに。
他人にああだこうだと言われ、こうあるべきだというルールに縛られて、無理にやらされているという気持ちが勝って、嫌いになってしまう。
それはとても残念なことだ。
もちろん、だれかのために努力することは素敵だし、それが原動力になることもある。
でもそれは「そうしたい」という本人の選択だから素敵なのであって、「こうするべき」という他人からの強制になったら、ただの重荷だ。
というわけで、他人から自分の「好き」を奪われないようにしたいし、自分の不用意な発言で他人の「好き」を奪わないようにしたいなー、という話でした。
にしても、ドイツは日焼け止めが入ってる下地があんまりないんだけど、みんなBBクリームを使ってるんですかね? 日焼け止め入ってるファンデも少ない気がする……。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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