結局のところ、「失敗体験を得る機会を、どうやって作り続けるか」が一番重要だよなあ、と思ったのです。
この記事で書きたいことは、大体以下のようなことです。
・勉強とは、つきつめると「間違えて、それを直す」ということの繰り返しです
・普通の人は、「失敗体験」と「それに伴う修正」というステップを踏まないと、知識やノウハウが身につきません
・だから、「失敗体験をどう積むか」「失敗体験から何を導くか」というのが非常に重要です
・「失敗の適切な踏み方」「テーマや課題の選択」「間違いを直した後の整理の仕方」など、細かいノウハウはもちろんたくさんあります
・これは勉強だけではなく、仕事でも趣味でも家事でも、どんなことでも同じだと思います
・最近「年をとってもいい感じに生きるコツ」的なテーマの記事をいくつか拝読しました
・年をとることで一番踏みにくくなるのが失敗体験なので、自然に失敗体験を踏めるような環境を整えていくのが大事だと思います
以上です。よろしくお願いします。
さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。
まず、補習塾の塾長について書かせてください。
何度か書いていますが、しんざきは昔、地元の補習塾で塾講師のアルバイトをやっていました。古い雑居ビルの2階と3階に間借りしていて、生徒数も全部で数十人程度の、こじんまりとした補習塾でした。
その塾の塾長は非常に大柄なおじさんで、当時40過ぎくらいだったのでしょうか。身長が190cmくらいあって体格も良くて、見た目はクマかイエティかって感じで威圧感が凄いんですが、話してみると穏やかでユーモアがある人でした。趣味はアイドルのライブにいくことだそうで、好きなアイドルの話を始めると止まりませんでした。今でいうドルオタだったのだと思います。
最初に白状してしまうと、この記事で書くことの大部分はこの塾長の受け売りです。
塾長と私が初めて話したのは、採用面接の場でのことでした。採用面接といってもそれ程面接っぽいやり取りをしたわけではなく、30分くらいずっと深田恭子の話を聞かされ続けるばかりで「これ面談というより布教会じゃないかな?」と疑問に思った記憶があるのですが、一つ印象的だったのが「勉強って、一言でまとめると何することだと思う?」と聞かれたことでした。
当時、そこそこ勉強は得意なつもりだったのですが、改めて「一言でまとめると」なんて聞かれると、どう言葉にしたものか考えあぐねました。
参考書を読んで要点をまとめること。模試を受けてどこが出来なかったかチェックすること。知らなかった知識をノートにまとめること、課題の反復練習をして知識を身に着けること。
どれもそれぞれ勉強だという気がしますが、さて、これらは一体何をすることなんでしょうか?
悩んでいる私に向かって、塾長はこう言いました。
「うん、まあ、どう説明するかは人それぞれだし、別に塾で統一見解を作りたいってことでもないんだけど、俺は「間違えて、それを直す」ことの繰り返しが勉強だって説明してるんだよね」
最初言われた時は、いまひとつ腑に落ちないというか、それ程「ああ、そうか!」というような納得感はありませんでした。
当たり前のことのように思えたからです。多分塾長は何度も同じことを説明していたのでしょう、私の表情を見て補足してくれました。
「「知識を身に着ける」って言うと簡単そうだけど、一回読んだだけで覚えられる子なんて滅多にいなくって、まず「この問題出来ない、分からない」って感じてもらって、その上で正解に納得してもらう、って段階がないと普通身につかないんだよね。参考書読んだだけでその内容全部理解しちゃう人、あんまりいないでしょ?」
「いないですね」
「ただ、もちろん「間違えた」だけだとそこから何もくみ取れないから、どう間違えるか、間違えた理由をどう納得するか、それをどう他の問題に当てはめるかってところが大事なんだけどね。その繰り返しが勉強で、俺たちの仕事はそれを手伝って、そのやり方を覚えてもらうこと」
なるほどなあ、と思いはしました。ただ、この話をちゃんと実感を伴って理解出来たのは、多分かなり後のことだったと思います。
つまり、何かを身につける際に一番有効なプロセスは、「まず間違える」「まず失敗する」ということだ、と。
例えば、問題を解いてみる。分からない、間違える。悔しいし、辛い。そこで初めて、「自分はこの問題が解けないんだ」ということが理解出来る、つまり「分からない」が可視化、あるいは言語化される。
その、言語化された「分からない」に対処することで、問題が自分の中で相対化される。ただ参考書を読んだだけだと「なんかの知識」でしかなかったものが、「自分が分からなかった箇所、分からなかった問題」というラベルがつく。だから理解が深くなるし、定着する。
「なにが分からないのか分からない」って状態、多分どんな人でも経験したことがあると思うんですが、そこを解決する為には基本「試行錯誤」が必要なんですよね。
つまり、まず実際に手を動かして、そして間違えないといけない。その上で「正しいやり方」を見いだすことで、ようやく脳がちゃんとその知識を覚えてくれる、と。
多分、塾長の話はそういう意味だったのだろう、と思うのです。
ずっと後になって知ったことなのですが、「問題を解いて、それを失敗した経験から学びを得ること」には教訓帰納という呼び方があって、その有用性について研究もされているし、論文も出ています。この時の塾長がこれを踏まえていたのかまではちょっと分かりませんが。
教訓帰納とは?
• 解いた後に、「なぜ、はじめは解けなかったのか」を問う。
• 1問解くごとに、「自分はどういう点で賢くなったのか」を教訓として抽出する。
• 問題側の難しさ、やり方の工夫、自分の思い違い、ミスなど。
実際、色んな子に教える上でも、ただ「問題をたくさん解く」だけで点数が上がる子は稀というか、殆どいませんでした。ある問題の解き方を覚えて、その問題だけは解けるようになっても、その解法が一般化出来るようになっていないから、題意が同じでもちょっと条件を変えるだけで解けなくなってしまったりするのです。「間違えて、その間違いを言語化して、その対処法を反復する」というプロセスを経て、初めて解法が身につく。
その点、「間違えて、直す」という言葉は、極めてシンプルながら、「勉強」というものの本質を明快に捉えた言葉だなあと、今の私はそんな風に考えているのです。
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これ、別に勉強に限った話じゃないんですよね。むしろ、ゲームでも、スポーツでも、仕事でも、家事でも、殆どありとあらゆる分野で同じことが言えるんじゃないかと思うんですよ。
もちろん「正しいやり方」を覚えてそれを繰り返すだけでもある程度精度は上がるんですが、やはり「間違い」「失敗」を一度挟んでその理由を言語化すると、定着度合いというか、身につくスピードがまるで違います。
私は格闘ゲームが好きで今でもしょっちゅう遊ぶのですが、やはり一番上達するのが「対戦で負けた時」なのは間違いありません。
「負けて悔しい」という感情、認識がまず最初にあって、だからこそ「今の自分の動きは何がまずかったのか」「どうすれば勝ちにつながる動きが出来たのか」「その動きを身につけるには何をすればいいか」というところまで徹底的に考えられる。「負け」を下敷きにしてこそ自分の動きを最適化する為の努力が出来る、というのは、おそらくどんな人でも同じことだと思います。
一方、例えばシステムの現場では、一番技術力が身につくのは「不具合が起きた時のリカバリ」だとよく言われます。何か問題が発生して、必死になって解決法を探している時の試行錯誤こそ、一番知識やノウハウが身につく。
まあ、本番環境で顧客からのクレームを受けながらエラーの解決法を探すような状況はかなり健康に悪いので、「した方が良い」などと軽々しく言うことは出来ませんが、それでも「まず失敗する」というのが非常に重要なのは論を俟たないと思います。
こと程さように、知識を身につける、技術を高める時、ひいては人生を歩み続ける為に、「失敗体験」というものが極めて重要だ、ということは間違いないように思うんですよ。
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ところで、先日安達さんのこちらの記事を拝見しました。
中年の悲哀は「予測可能性の高さ」というか、先が見えてしまうことがその最大の要因である。だからそれを避ける為には、予測可能性を意図的に低く保つ努力をしなくてはいけない。
乱暴な要約で申し訳ありませんが、ポイントをまとめるとそういう話になるのではないかと思います。
言葉が違うだけで主旨は同じだと思うのですが、わたし自身は、年齢を重ねることで一番得にくくなるのは「失敗の機会」「間違える機会」ではないかなあ、と言語化したくなりました。
例えば仕事でも、経験を得れば得る程ミスは減るものですし、ある程度責任がある立場になると、実際に手を動かして「失敗」をする機会というものも稀少になります。
仕事を離れた趣味にしても、年齢を重ねる程「新しい何か」に挑む瞬発力は減って、自分が今までやってきたものに安住してしまいがちです。必然的に、「失敗して悔しい」と思うタイミングも滅多になくなって、知らないスキルやノウハウを習得する機会もなくなる。
安達さんのおっしゃる「予測可能性の高さ」とは、言い方を変えると「失敗するチャンスの少なさ」でもあるんじゃないかなあと、そんな風に思ったわけです。
そういった閉塞感を脱する為には、「失敗するチャンス」「失敗体験」を自分からどんどん求めていかなくてはいけない。年齢を重ねても人生を楽しんでいる方は、大体これが出来ているんじゃないかなーと感じています。
人間の意志というのは基本弱いもので、単に「意識する」だけだとなかなか物事に手をつけるのは難しいものですので、これはある程度機械的にというか、ルールとしてやっていかないといけないなあ、と私は思っています。
例えばアナログゲーム会を開いて自分が知らないゲームの卓にどんどん入れてもらうとか、2ヶ月に1回は知らないジャンルの音楽セッションに参加してみるとか。
そういう、「知らない何かに飛び込む機会」というものをルール化して、自力他力様々な形で実現していく必要があるのではないかなあ、と。
私自身は、「試行錯誤を重ねて、自分の思考や動作を最適化していく」という作業が大好きでして、これをする為に生きているようなものなので、今後も「失敗体験」を得る機会は見逃さず、ガンガン自分を初学者の立場においていきたいなーと。
そんな風に考えるわけです。
今日書きたいことはそれくらいです。
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【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
Photo:Tom Crew