他者の意見を、「尊重しよう」という人がいます。
皆の意見を「大事にしよう」という組織があります。
そう考えること自体は、別に良いと思います。
が、私が現場で教えられてきたのは
「価値があれば尊重せよ。そうでなければ相手にしなくていい。」でした。
もっと平たく言えば「考慮はするが、尊重はしない。」という態度です。
どういうことか。
「尊重」という言葉の意味は、日本国語大辞典によれば、「価値のあるものとして大切に扱うこと」です。
つまり、「皆の意見を尊重しよう」という考え方は、他人の意見は、デフォルトでは価値あるものとして扱いなさい、という発想だと思います。
美しいですね。
しかし、学校を卒業し、私が社会人で経験したのは、
「尊重されるのは、価値のあるものだけ」
という現実でした。
実効性の高いもの。
顧客の満足を高めるもの。
生産性を向上させるもの。
良い仕事につながるもの。
そういった「意見」は歓迎されます。しかし、
「バカな意見」
「実効性のない計画」
「現実を見ない理想論」
といった、「時間の無駄」に関して、それに対していちいち「大事だね」と尊重するなど、現場ではありえません。
「はいはい。で?成果につながることを言ってくださいよ。」で、おしまいでした。
ですから他者の意見は、現実にはデフォルトで「尊重」ではなく「保留」という事になります。
*
「冷たすぎるだろう」
「人を何だと思ってるんだ」
「傲慢だ」
という意見が聞こえてきそうですが、これは、皆の生活を守るためでした。
つまり、ただでさえ忙しいのに、仕事において「くだらない意見につきあうこと」自体が、皆の仕事の質、ひいては生活のレベルを下げることにつながる。
この考え方です。
だって、そうでしょう?
皆の時間は無限ではありません。いちいち他人に配慮して「尊重」をしていたら、いつまでたっても何もできないのです。
かくいう私も、会社の会議で「意見が尊重されている」と感じたことは一度もありませんでした。
いい意見なのか、くだらない妄言なのか。
それだけが、判定の対象となる。
「くだらないこと」を言えば、「なるほど」といったん受け止めてはもらえますが、そのあと「意味が通じませんね」「解決になりませんね」「関係ないですね」と言われるだけです。
ただ、誤解の無きよう申し上げますが、
「尊重」されないからといって、それが「失礼」だとは思いませんでした。
なぜかというと、「考慮」の対象だからです。
すくなくとも、発言されたことについては会議の出席者の皆が、一度は「考慮」する。価値をジャッジされる。
もちろん意見を出すことは、大変な緊張感が伴いますが、仕事なのでやらねばなりません。
逆に、そういうことを通じて、くだらない意見が出たときに暗に発される
「お前の言っていることは、マジでくだらねえ」
というメッセージをその場から受け取れなけば、改善もないので、ある意味それは重要なのだともいえるわけです。
*
最近では、多様性やら、心理的安全性という言葉が強調されすぎて、
「皆の意見を尊重しよう」
という考え方が先走っている組織があります。
人の会社ですから、それに対してどうこう言うつもりはあまりないですが、
本当にくだらない意見なのに、「意見をありがとうございます」とか言っているのは、どう考えても健全ではありません。
バカな意見には「その意見は却下」と、はっきり言わなければならない。
もちろん、人の意見を、よく考えもせずにバカにしたり、無視したりするのは、正しい態度ではありません。
というよりも、ダメな態度です。
しかし、皆の意見を尊重しましょう、という態度も、病的です。
中身に関わらず尊重しようと考えることは、それもある意味、人を馬鹿にしていると考えたほうがいい。
そう考えていくと、
「他者の意見。考慮はするが、尊重はしない。」
という態度くらいが、ちょうどいいような気がします。
*
余談ですが、「市場」というのは、これをもっともよく体現していると思います。
つまり、商品や作品を見たときの人間の反応が、「考慮はするが、尊重はしない。」なのです。
いや、ブログやSNSも同じかもしれません。少なくともつまらない文章は誰も尊重しません。
売り場で、ダメな商品を「尊いですね」という人はいません。
選択肢として「考慮」はされますが。
仕事における「意見」も、一種これと同じだと思うのです。
小学校では
「お友達の言ったことは大事にしようね」
でよいかもしれませんが、社会においてそれは現実とは異なります。
もちろん、誰も面と向かって「お前はバカだなあ」とは言わないと思います。
失礼ですからね。
が、大した価値も出せていないのに、「自分の意見は尊重されてしかるべきだ」と思っている人間は、呆れられて、無視されるだけです。残念ながら。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」65万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
◯Twitter:安達裕哉
◯Facebook:安達裕哉
◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)
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