コンサルタントは、労働集約的なクライアントワークなので、お客さんとの関係がとても大事だ。

 

安くない金額を、長期にわたって、お客さんから発注してもらうためには

「小さい不満も、できるだけ早く察知して潰す」

ことに長けた人でないと、仕事ができない。

 

例えば昔、このようなメールが、同僚のコンサルタントに届いたことがあった。

マネジャーと、そのプロジェクトメンバー全員をCCに入れて。

件名:ご確認のお願い

△△様

いつも大変お世話になっております。
先日お願いしておりました件につきまして、その後のご連絡がまだいただけていないようでしたので、念のため改めてご確認させていただきました。

私どもとしては、すでに社内外での調整を進めており、御社からのご回答を前提に動いている部分もございます。

ご多忙の折とは存じますが、可能であれば本日中に現状についてお知らせいただけますと大変助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。

―――――――――
株式会社〇〇
担当:□□

私はこのメールを見て、「早く返信しておきなよ」くらいにしか思わなかった。

 

だが、私の先輩は、真っ青になって、そのメンバーに言った。

「今すぐ電話しろ!どうなってんだ回答は」と。

 

そして、お詫びの電話を入れたあと、即、お客さんのところに向かって、事なきを得たという話を聞いた。

後で話を聞いたら、「お客さんは穏やかだったけど、あと少し回答が遅れていたら、取引停止になってた」ということだった。

 

「来週までにお願いします」と言ったら……

また、こんなこともあった。

 

プロジェクトの初回ミーティングでのことだった。

初回のミーティングでは、会社の状況を共有してもらうための「調査票」を記入してもらう宿題を、お客さんに依頼することになっている。

 

それをミーティングで告げると、お客さんから

「この宿題ですが、いつまでに終えればよいでしょう?」

と、質問があった。

 

新米コンサルタントが

「あ、来週までにお願いします」

といった。

 

すると、相手の営業課長が眉をひそめ、何か言いたげに黙った。

 

新米コンサルタントは何も気づいていない。

だが、上司のマネジャーはすぐにフォローに入った。

 

「すいません、標準ですと1週間程度で記入いただいているのですが……どの程度で記入できそうでしょうか?」

 

課長は「いや、今週は結構忙しいのでね」という。

マネジャーは「そうですよね……」といった。

 

すると課長は、表情を緩めて「分かりました、2週間後であれば何とかなります。」と返してくれた。

マネジャーは「ありがとうございます!」と礼を述べ、何事もなく場は収まった。

 

*

 

後で、新米コンサルタントはマネジャーからきつく言われた。

 

「宿題を出すときは、納期をお客さんに言わせろと、あれほど言っただろう。お客さん怒ってたぞ。」

 

調査票は、それなりに分量もあるし、記入するには頭も使う。

だから、大変な作業であることは、コンサルタントは知っておかねばならない。

 

それを「来週まで」と、簡単に言われたら、怒るのは当然だ、と新米は叱責されたのだ。

 

「相手の表情をみて、自分が相手を怒らせた、と気づかない奴は、コンサルタントとしては無理だ」

という事例として、社内にそれは共有された。

 

大人の「怒り」はわかりにくい

私がこれらの出来事から得た教訓は、大人の「怒り」は、とてもわかりにくい、ということだ。

実際、上の「鈍い」コンサルタントたちは、お客さんが怒っていることを、全く想像できていなかった。

 

しかし、放っておけば、大問題になることも珍しくないし、「あいつはプロジェクトから外せ」というクレームにもつながる。

 

だから、相手の怒りを察することができないと、「コミュニケーション能力が低い」として評価されてしまう。

コンサルタントとしては「無能」だ。

成功はあきらめたほうがいい。

 

もちろん、「言わなきゃわからない」「察しろというのは無理」という人もいるだろう。

そのとおりだ。

だから、上司なら、部下に「期限を守れ」「その言い方はよくない」とはっきりというべきだろう。

 

しかし、お客さんにそれを求めるのは無理だ。

「言わなきゃ、わからないですよー、お客さん。」

ということはできない。相手をさらに怒らせるだけだ。

 

だから、コンサルタントを含め、サービス業は、ひたすら「察する」ことに神経を使わないといけない。

 

ここで問題なのは、「どちらが悪い」ではない。

一緒に仕事ができず、契約を切られてしまえば、大きな不利益をこうむるのはこちらである、という事実だ。

 

しかし、他人の気持ちがわからない人は結構多い。

実際、新米コンサルタントの最初のハードルは、「提案書を書く」とか「論理的思考」とか、そういった話よりも、「お客さんの気持ちを察する」ことだった。

 

どうしたら人が「怒っている」ことがわかるか

ある時、上司のマネジャーと、こんな話をしたことがある。

「お客さんが何を考えてるか、どうしたらわかるんですか?」

 

すると彼は、こういった。

「何言ってんの、僕だってわかんないよ。」

 

私がぽかんとしていたのだろう。

マネジャーは補足してくれた。

「要するに「自分は相手の気持ちがわかっていない」と認識するのが、第一歩。そうすると、何をするかっていうと、相手に確認するでしょ?「どのくらいで宿題できますか?」って聞くのも、その一つ。」

 

つまり、こういうことだった。

相手の気持ちがわからない、かつ、相手に配慮が必要なシーン では、細かく相手の意向を確認することが、「察する」ことにつながるのだ、と。

 

私はマネジャーに言った。

「全然「察して」ないじゃないですか。」

マネジャーはにやりと笑った。

「そうだよ。今頃気づいた?」

 

*

 

だいぶ昔に、プロの「執事」が書いた本を読んだことがある。

面白いな、と思ったのは、執事ほどの「察する」が職業の根幹になっている人たちであっても、「しつこく質問せよ」と言っている部分だった。

所詮は、「察する」という行為は、状況から推測される「仮説の提出」にすぎない。

それを検証するのは、あくまでも「質問。」

 

つまり、「人の気持ちがわかる」とは、「観察」⇒「仮説(察する)」⇒「質問」というサイクルを、早く回せているだけ、ということになる。

コンサルタントの技術とは、魔法のようなものではなく、ただこうした手間をおしんでいないだけのことなのだ。

 

裏を返せば「察せない人」というのは、「面倒くさがり」なのだ、とみなしてもよいのかもしれない。

こういわれると、怒る人は多いのかもしれないけど。

 

 

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」88万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

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◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書

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