よく、「日本人は議論が苦手だ」と言われる。理由としては、協調を重んじる気質や自分の意見を言うのが苦手な日本人の国民性が挙げられることが多い。だが、それだけではない。日本人は、議論を通じて「対話」するのが苦手なのではないかと思う。
そう考えるようになったのは、Twitterで自分の記事に対する反応を見ていたときだ。記事への反応はさまざまで、賛同するものも反論するものもある。
だが不思議なのが、賛同意見は「共感した」「その通り」といったコメントが多いのに比べ、反論意見の場合「まぁこの人は○○だから」「どうせ××したことないんだろ」と人格への言及がほとんどセットになっていることだ。
反論意見は多くの場合、こういった人格への攻撃が伴う。
わたしへの反応だけではなく、他の人への反論コメントも似たようなものだ。
「ちがう意見=敵」と思ってしまうことが、「日本人は議論ができない」と言われる原因のひとつではないだろうか。
反対意見を言うと「和を乱す悪者」になる日本
当然のことだが、意見の賛否と人間性は分けて考えるべきだ。仲がいい友人でも驚くほど考え方が違う場合もあるし、逆に考え方はとても似てるのになんだか好きになれない人だっている。
それでも日本では意見の賛否と人間性を切り離せない人が多く、話し合いの場でも感情が重視される。
小池東京都知事が安全より安心を重視したことは、わかりやすい「感情優先論」と言えるだろう。
ほかにも、「○○さんは不倫をする不誠実な人なのでその意見は信用できない」だとか、「そういう言い方をすると傷つきます」のような、「本題にまったく関係ないし客観的根拠もないが情に訴えます」という姿勢で話し合いに臨む人が少なくない。
なぜ、日本はこのように感情が優先されるのだろう。
これは、日本の「同調圧力」「空気を読む」といった独特な考え方に根差したものだと思う。
みんなが同じ考えであることを前提としているから、同じ考えの者同士は徒党を組んで、ちがう意見の者を攻撃する。みんなが賛成なのに反対する「空気が読めない輩」は、厄介者扱いされる。
意見がちがう=和を乱す悪者であり、敵なのだ。
そういう思考回路だと、敵には容赦なく攻撃するし、「自分が正しいから相手は間違えている」という極論に走るようになる。
意見がちがう人=敵だと考えている限り、双方は意見はひたすら平行線をたどるし、議論ではなくただの意見の押し付け合いになる。
白黒はっきり決められるテーマなら、それもありかもしれない。だが現代社会で話し合われる多くの問題は、確実な正解が存在しないのだ。現代では、議論を通じて、多角的な視点から「より正しい答え」を導くことが求められている。
日本人が学ぶべきは「正解へいたるプロセス」
では、どうすれば日本で、議論を通じて「より正しい答え」を構築することができるのだろう。
「より正しい答え」を導くには、数学と同じように「正解へいたるプロセス」がある。
日本は特にこういった技術的なことを習わないから、議論ができないのだと思う。
まずしなくてはいけないのは、議論の目的を共通認識として持つことだ。全員が「意見を出し合って対話することが目的」と理解することによって、はじめて議論が成り立つ。
「論破や勝ち負けが目的ではなく意見を通じた対話こそが大事なのだ」と考えれば、関係のない人格攻撃や揚げ足取り、詭弁がいかに無駄で邪魔かわかるはずだ。
「論破」を狙うひとりによって議論がぶち壊しになることもあるから、目的の共有は大前提となる。
目的の共有のあとは、「事実」と「テーマの本質」の共有が必要になる。
たとえば、「国公立大学の学費を無料にすべきか」という議題があったとしよう。そこで、「無料にすべき」「すべきではない」という真っ向から対立した意見をぶつけ合ってても、「より正しい正解」は見えてこない。
同じ土俵で話し合うためには、現在の学費や経済的理由で進学できない人数など、客観的事実を基礎知識として共有していないといけない。
さらに、「教育の機会平等の観点で無料にすべき」なのか、「日本はもっと高等教育を支援すべきだから無料にすべき」なのか、はたまたちがう視点からなのか、どこに議題の本質があるのかを理解することも必要不可欠だ。
議論が進むにつれテーマをちがう角度から見たり拡大することもあるが、まず最初に「どこにスポットライトを当てるのか」を決めておかなければ、収拾がつかなくなる。
日本の議論ではこういう「整理されたプロセス」がないから、しっちゃかめっちゃかな言い分が飛び交ったり、感情論に流されてしまうのだろう。
議論で大事なのは、どちらが100%正解かを決めるのではなく、正解がないテーマに対し多くの知恵を持ち寄って「より正しい答え」を模索することだ。
だから、「より正しい答え」を導けるように、日本人も議論する能力を身につけるべきだろう。
議論は、物事の理解を深め、より確実な正解を求めるために必要なことだ。グローバル化が進む世界では特に、自分の意見を述べて相手の意見を聞き、「より正しい答え」を構築する対話能力は必須になる。
まともに議論できる人が増えれば、日本はもっと意見を言いやすくなり、多様性が認められるようになるのではないだろうか。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
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2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
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3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901