知人の幼稚園で、「目標管理をやっている」と聞いた。

「先生も大変だね」というと知人は、

「違う、園児たちが目標管理をやっているんだよ」

という。

状況を詳しく聞いてみたところ、その幼稚園では、園児たちに「課題」が毎週与えられ、その課題をクリアするように求められるらしい。

 

例えば、朝の体操、洗顔、寝具を畳む、挨拶、一連の流れを全てこなして、一つの課題をクリア。

家で育てている、アサガオなどの草花への水やりをやって、もう一つの課題をクリア。

立ち歩かずに食事を終えると課題をクリア。

そんな感じである。

 

出される課題は毎週変わり、そのたびに1週間分の「シール」と「シール台帳」をもらう。

課題をクリアすれば自分でシールを貼ることができる。

 

これだけであれば、なんとなく「まあ、やっている所ありそうだよね。」と思う方もいるだろう。

「やらせる親が大変そう」と意見の方もいるかもしれない。

だが、この幼稚園が面白いのは「管理」が、園児たちの自主性に任せられている点だ。

 

まず、基本的に親は「どのような課題が出されたのか」を直接幼稚園から聞くことがない。子供が親に「こんな課題が出た」と報告することから、課題は始まる。

だから、子供が何も言わなければ、親は課題を無理にやらせることはできない。つまり、子どもたちは「自分で自分の目標の進捗を管理する」責任を負わされる。

 

また、毎日のことであるから、サボったり、うまく課題をクリアできないときもある。

だが、親はそれを強制してはいけないことになっている。

1週間のうち、サボった日、怠けた日はシールを貼ることができないので、結果的に「やらなかった」と子供が自分で幼稚園に申告する。

 

「できなかった」と申告するのが嫌であれば、自主的に課題をやる子もいるし、どうしても嫌ならやらなくて良い。

もちろん、課題をすべてクリアした子供は表彰される。

だが、やらなかったとしても、先生に責められることはない。単に「やりませんでした」と言うだけだ。

 

聞くと、課題によっては全くやらない子供もいるし、喜々として課せられている以上の事をやる子供もいる。

要するに、「目標による自己管理」を地で行く教育がなされていた。

 

私はこれに、思わず感心してしまった。

 

以前、慶応大学の中室牧子氏の著作、「学力の経済学」を読んだ時、同じような話が書いてあったからだ。

人生を成功に導くうえで重要だと考えられている非認知能力のひとつは「自制心」です。(中略)

最近の研究では、認知能力の改善には年齢的な閾値が存在しているが、非認知能力は成人後まで可鍛性のあるものも少なくないということがわかっています。では、非認知能力を鍛えて伸ばすためにはどうすればよいのでしょうか。

重要な非認知能力のひとつとしてご紹介した「自制心」は、「筋肉」のように鍛えるとよいと言われています。

筋肉を鍛えるときに重要なことは、継続と反復です。腹筋や腕立て伏せのように、自制心も、何かを繰り返し継続的に行うことで向上します。

たとえば、先生に「背筋を伸ばせ」と言われ続けて、それを忠実に実行した学生は成績の向上がみられたことを報告している研究があります。

もちろん、背筋を伸ばしたことが直接、成績に影響を与えたわけではありません。「背筋を伸ばす」のような意識しないとしづらいことを継続的に行ったことで、学生の自制心が鍛えられ、成績にもよい影響を及ぼしたのでしょう。

また、心理学の分野でも、「細かく計画を立て、記録し、達成度を自分で管理する」ことが自制心を鍛えるのに有効であると多数の研究で報告されています。

「学力」の経済学

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実際、この幼稚園のカリキュラムは、自主的な目標達成を通じて、自制心を鍛えるようにプログラムされているのだと気づいた。

 

世の中には「習い事」を3つも4つも子供に掛け持ちさせ、英語やピアノ、算数など「スキル」に直結する能力を鍛えることに熱心な親が多いと聞く。

もちろん「スキル」も重要である。

だが、与えられた課題を自ら考え、工夫し、達成するという経験にまさる教育はない。

 

中室牧子氏によれば、4つの基本的なモラル(嘘をつかない、他人に親切にする、ルールを守る、勉強をする)について、しつけを親から受けた人物は、「年収が高くなる」という因果が存在する。

さらに、大阪大学の池田教授の研究では、子どものころに夏休みの宿題を休みの終わりのほうにやった人ほど、喫煙、ギャンブル、飲酒の習慣があり、借金もあって、太っている確率が高いことを明らかにしている。

宿題を先延ばしにするような自制心のない子どもは、大人になってからもいろいろなことを先延ばしにし、「明日からやろう」といっては結局禁煙できず、貯蓄もできず、ダイエットもできないというわけです。

前述した幼稚園のように幼少の頃から「非認知能力」を徹底して鍛えることは、非常に合理的なのだ。

 

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