ショッキングなタイトルの記事だな―、と思いながら、記事を眺めていました。
筆者は、ベンチャーキャピタリストとして1000以上のビジネスモデルを見てきたと同時に、自身でも事業のゼロからの立ち上げ、飲食業も含めさまざまな投資案件を見極めている。現在、投資実行している会社の売上合計は60億円で、4億円の営業利益を出している。
この経験から感じたのは、飲食業は「基本的には勝てないビジネスモデル」だということである。これはもう、断言してもいい。
(現代ビジネス)
でも、「勝ちにくいビジネス」というなら、たしかにそうかもしれません。
そう言えば、昔こんな記事を見ました。
開業3年で約7割が廃業し、10年後も営業している店は1割程度
飲食事業は参入障壁の低いビジネスであり、誰でも比較的簡単に開業することができます。情報誌やインターネットを見てもわかるように、個人店・チェーン店に関わらず、新しい飲食店がどんどんオープンしています。
しかし、その廃業率は非常に高く、1年未満で閉店した割合は34.5%、2年以内で閉店した割合は15.2%。合計すると49.7%となり、約半数の飲食店が2年以内に閉店しているというデータもあります。
さらに、開業3年では約7割が廃業し、10年後も営業している飲食店はわずか1割程度と言われています。つまり、「どんどん新店舗がオープンする一方、どんどんつぶれている」のが、飲食業界の実態です。
(livedoor news)
「流行るお店を作る」のが難しいのは当然として、「普通にやっていく」のすら難しいのが飲食業界だということでしょう。
飲食店を立派に何年も運営している「行きつけのお店のあの人」は、実はスゴい事をしているのです。
さて、冒頭の記事の中に、一つ面白い指摘があります。
チェーン店は残るが、突然オープンした謎の居酒屋はすぐに姿を消す。一方で、町中華や、中国人が家族で経営する中華料理店は、なぜだか残っていたりする…。
確かに、イケイケのラーメン屋が突如なくなり、街の「普通の」ラーメンさんが生き残る……経験的にも正しいと感じます。
記事の筆者は、その理由を「人件費がほぼかからないから」と言っています。
一番大きいのは、人件費がほとんど掛からないことだ。町中華には、夫婦で切り盛りし、忙しい時間帯には子供も手伝うようなお店が多い。
また、自分の店で食事をとれば食費も浮くので、生活にかかる経費を大きく落とすことができる。さらには、店と自宅が共用であれば、家賃負担も大きくならない。
そして、この話は「起業」を考えている方にとっても、非常に重要な考え方です。
なぜかと申しますと、「起業」は街の中華料理屋さんのようにやったほうがうまく行きやすい、ということが言えるからです。
畢竟、企業において肝心なことは、固定費の削減にあります。
倒産とは、つまり現金不足で支払不能に陥ることですから、毎月の固定費が少なければ少ないほど、その会社は潰れにくい、潰れにくければ、さまざまなことにチャレンジでき、成功の可能性が上がる……のは当然と言えるでしょう。
逆に、「イメージの良いスタートアップ」は、その華やかさとは裏腹に、リスクも高いのです。
かっこいいオフィス。
たくさんの従業員。
手厚い福利厚生。
経営がうまくいきだすと、こう言った「固定費」を気楽に増やしてしまう経営者を数多く見てきましたが、こう言った会社は何かあると「ブラック化」し易い傾向にあります。
膨れ上がった固定費を賄うべく、日々の営業活動に邁進せざるを得なくなるからです。
逆に、真の意味で良い経営陣は固定費をそう簡単に増やそうとしません。
極端な話、全員で共同生活をし、同じ釜の飯を食っていれば、固定費は最小まで押さえられますから、4人で100万円ずつ持ち寄れば、その400万円で1年間は事業が可能でしょう。
一人が毎年100万円の売上(毎月8万円程度)を作ることができれば、次の1年も会社を続け、夢に邁進することができる。
これは十分、現実的な数字です。
もちろんそれは、何億円も調達し、渋谷の一等地にオフィスを構えるような起業とは異なる、
「カッコ悪い」起業です。
でも、カッコのために起業するわけではない、という方は、こちらのほうが遥かに楽しい起業だといい切れます。
株主からの圧力も、資金繰りに頭を悩ませる必要もなく、短期的な売上を追求する必要もない。
自分の好きなことの延長を、どこまで商売にすることができるか、という、別の種類のチャレンジです。
かつて、堀江貴文氏は以下の4つを兼ね備えた商売を「うまくいく商売」の条件としました。
1.利益率の高い商売
2.在庫を持たない商売
3.定期的に一定額の収入が入ってくる商売
4.資本ゼロあるいは小資本で始められる商売
在庫がなく、小資本で始められる商売とは、すなわち「固定費がゼロに近い商売」です。
余談ですが、そう言った経営を実践しているのが、芸能事務所です。
例えば、吉本興業は売上が500億円近くありますが、東京本部の家賃は新宿の廃校を上手に利用し、400人規模のオフィスで月額340万円です。
吉本興業が新宿の小学校跡に移転。夏は暑く、冬は寒いオフィス?
そもそも新宿区では平成17年より、歌舞伎町を新しい文化の創造と発信の街にしようと、さまざまなプロジェクトを進めており、今回の移転もその一環として実現した。
東京進出の大型拠点を探していた吉本興業と、校舎の有効利用の道を模索していた区との思惑が一致し、耐震工事など約1年半をかけて今回の移転となった。吉本興業によると、これまでにかかった費用はおよそ10億円。新宿区との契約は10年で賃料は月340万円とのこと。
(日経トレンディネット)
ジャニーズ事務所も、売上が数百億とも1000億とも言われますが、事務所は小さい雑居ビルです。
(出典:Wikipedia ジャニーズ事務所)
これからの「起業」は、能力ある少数の人を活用する形態となるでしょう。
それは「芸能事務所」とあまり変わりないのかもしれません。
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