就活の面接は、もはやノウハウ&マニュアル化されつつある。

ポピュラーな質問にはすでに「模範解答」があるし、大学のキャリアセンターなんかがばっちり指導していて、学生はきっちりと暗記してくる。

 

そんな中、こんな記事を読んだ。

採用担当者が嘆く「印象の悪い就活生」の共通点

面接では志望の強さも確認される。エントリーしている他社の選考状況を聞かれ、「内定が出たらどうするか」といった質問もある。

正直な学生は口ごもり、目が泳いでしまうかもしれない。なかには「御社は第1志望ではありません」と口走る学生もいるだろう。

正直は美徳だが、こういう学生が内定を得るのは難しい。企業が抱える採用課題の1つに「内定辞退」があり、そういうリスクのある学生を避けたいと考えているからだ。

「面接で当社への入社意思が5割以下と発言されると、正直採用しにくい」(300人以下・サービス)

「自社が第1志望でない場合に、それを素直に言ってしまう。または、態度で表してしまう学生」(300人以下・情報・通信)

これらの質問に対して明確な意思を示す必要はない。なぜなら「〇〇になったらどうするか?」という仮定の質問だからだ。

仮定の質問に対しては「いま一生懸命就職活動をしており、内定をもらったことがないのでわかりません」くらいの回答でいいはずだ。

うーむ……。

そもそも、この質問にはどんな意味があるのだろう?

 

「自社の優先順位は?」という質問にはかんたんに嘘がつける

売り手市場、内定辞退……そんな言葉が取り上げられるなか、企業が「自社への入社意思が強い学生を採用したい!」と思うのは当然だ。

でも、面接で

「我が社の優先順位は?」

「内定をもらったとして入社する可能性は?」

「弊社が第一志望ですか?」と聞くことに、どれだけの意味があるのだろう。

 

この質問に対する答えは、主に4つだ。

1.本当に第一志望で正直に答える

2.嘘をついて「志望順位が高い」と答える

3.正直に「第一志望ではない」と答える

4.適当にごまかす

企業が採用したいのは「1」の学生だろう。でも問題は「1」と「2」、つまり本当にそう思っているのか、内定のためについた嘘なのか、面接官はすぐに判断できないところだ。

 

「3」の「第一志望ではありません」と正直に答えれば「落とす」と言うのだから、なおさら多くの学生は「2」の答えを選ぶ。

記事中で挙げられているような「4」の「ごまかす」だって、心証がいい答えとは言えないだろう。やっぱり「2」が無難だ。

 

いくらでも嘘をつけるこの質問に、学生はこぞって「入社する気満々です」と言うだろうし、素直に答えた学生に対し「正直に優先順位が低いと言うなんて!」と眉をしかめるのもまた理不尽のように思うのだが、なんの目的があって聞くのだろう?

 

「内定が出たらどうします?」=「告白したらOKしてくれる?」

わたしはこの「内定が出たらどうするか」という質問は、「俺が告白したらOKしてくれる?」と聞くようなものだと思ってる。

説明会という合コンがあって、学生はそこでいいと思った人(企業)に連絡を取る(エントリーする)。

 

脈ありならば、相手(企業)からデート(面接)のお誘いがくる。

デート(面接)でお互いのことを知り、相手から「うちに来てください」と告白される(内定通知)。

そこで学生は、イエスかノーかを答える(内定受諾or辞退)。

 

ぜひとも恋人がほしい人は、微妙な相手にもとりあえず思わせぶりな態度をとるだろう。いわゆる「キープ」だ。

でも実際告白して受けてくれるかはまた別問題。その言葉を信じて告白しても、振られることはおおいにありえる。

 

また、デートで「実はほかにいいと思っている人がいるの」と正直に答える人は少数派だろう。

もしそう言われたら、「そもそもデートに来るな」と思うのも無理はない。

 

しかし相手からしたら「本命じゃないけどアリ」状態なわけで、デートのがんばり次第では振り向かせることができる。

それなのに「俺が本命じゃないならおかえりください」では、ゼロじゃないチャンスを自分から捨てるようなものじゃないだろうか。

 

この質問の答えは大きく分けて「本気かどうかはわからないけど思わせぶりな態度をとられる」もしくは「本命ではないと宣言される(ごまかされる)」のふたつなわけで、どっちに転んでもなぁ、という感じだ。

 

「第一志望」と答えた学生は、もちろん採用ですよね?

さらなるモヤモヤポイントは、「俺のこと好き? どれくらい好き? 一番好き?」と聞き、相手が「うん、大好き。一番好き」と答えたとしても、「じゃあ付き合おう」と必ずしも内定を出すとはかぎらないことだ。

 

いや、もちろん、自分のことを好きな人に対し、自分も好意を抱くとは限らない。片思いはいつでもありうる。

でも自分から「俺のこと好き?」と聞いておいて、「好き」と答えた相手の好意に応えないのであれば、「最初から聞くなよ」と思わないだろうか。なんだそれ、もてあそんでいるのか。

 

学生がいくつもの企業にエントリーしているなんてことは周知の事実なのだし、企業だって多くの学生とデートして比較しているのだから、学生にだけ一途さを求めるのも妙な話だ。

相手に一途さを求めるのであればせめて、「こっちはあなたに本気ですよ」と最初に好意を伝えるべきだろう。

 

「ぜひ採用したいが、内定辞退されると困るので正直な気持ちを知りたい」なら、学生の答えも変わると思う。

自分は好意を伝えないのに相手からの好意だけはしっかり確認し、相手が「好き」と言ってもそれに応える確約はしない。そのくせ「あなたが本命じゃない」と言われるのは我慢ならない。

……うーん、あんまり付き合いたくない。

 

「なぜ優先順位が低いのか」を冷静に聞く度量がなければ無意味な質問

この質問に関してつぶやいたツイートがかなり拡散されていたので、ついでに紹介したい。

どうせ聞くなら素直に答えてもらって、「なぜ優先順位が低いのか」を教えてもらえばいいのに、と思う。

 

給料か、立地か、福利厚生か、仕事内容か、説明会のときのイメージか。

会話のなかで条件や認識をすり合わせられるのであれば、この質問にも意味がある。学生の本音に対して具体的なビジョンを示せれば、「一応アリ」から「大本命」になれるかもしれない。

 

でもそうではなくて、「優先順位が低いなら落とそう」という考えなのであれば、デートに誘う時点、つまり面接に呼ぶ時点で、「その気がないなら最初に断ってね」と言えばいいのだ。

どうせ面接で質問したって、学生はバカ正直に「御社の優先順位は下の下です!」なんて言わないわけだし、自分から聞いておいて「優先順位が低いことを素直に言うなんてけしからん!」というのもまた謎だし。

 

入社意思の確認は、建前じゃ意味がない

この質問に素直に答えて内定をもらった人もいるだろうし、「そんなこと聞かれたことがない」と言う人もいるかもしれない。

ただ実際にこの質問は想定しうるものだし、優先度が低ければ落とす、と考えている人がいるのも事実だ。

 

しかし学生はいくらでも嘘をつけるし、面接中のやりとりで優先順位が変わることもあるし、学生にだけ一途さを求めるのもおかしな話だろう。

建前がまかり通る就活面接で学生の本音を聞きたいのであれば、ネガティブなことを言われても冷静に受け入れるべきだし、本音を聞きたくないのであれば、そもそもこんな質問はしないほうがいいんじゃないだろうか。

 

まぁ、「学生が器用に嘘をつけるかチェックする」という目的なのであれば、意味もあるのかもしれないが……。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

(Photo:Linus Bohman)