毎年300冊以上のビジネス書を読む「The意識高い系、ビジネス書オタク」として、楽しくビジネス書代を浪費している。

そんな私の心を十二分にえぐってくれる、最高のエンタメ本と出会った。

 

『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』である。

本の帯を見てみると、次のように書かれている。

ビジネス書100冊のポイントを徹底抽出
成功者たちがしている「厳選27の教え」
この1冊あれば他はいらない!
全ビジネスパーソン必携
働き方バイブル!?

『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』表紙の帯より

もう期待しかない。

ついに、ビジネス書中毒に終止符を打ってくれる本と出会えた・・・

ワクワク感が高まるばかりだ。

 

しかし、数ページ読んでみて、わかった。

「この本は確かに、ビジネス書中毒を完治させてくれそうだ」

「ただし、アプローチが予想の斜め上を行きすぎている」

 

あまりに感動したので、その感情をそのままお伝えしたい。

 

『プロセスエコノミー』のお手本がここに

本書の1つ目の魅力は、「発売して約1週間で、Amazonレビューが200を超えている点」だ。

なぜ、こんなにも注目されているのか?

 

それは、『プロセスエコノミー』を素直に実践しているからである。

 

『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』の著者、堀元氏は次のように語っている。

2021年、僕の観測範囲で一番話題だったビジネス書は文句なしに『プロセスエコノミー』だろう。
「成果物を売るのではなく、モノを作る過程(プロセス)を公開してマネタイズする方がいい」という本だ。1冊読んでも特にそれ以上のことは書いていない。読んでなくても読んだフリができる本である。『思考は現実化する』と同じだ。
『プロセスエコノミー』が良い本なのかとか、読む必要があるのかとかいう議論はひとまず置いておいて、僕は本書を作るプロセスを公開してよかったなと思っている。お金にもなったし、何より楽しかった。

『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』p178

このシニカルな語り口がクセになる。

実際に著者の堀元氏は、自身のYoutube『衒学チャンネル』で、ビジネス書100冊をレビューする様子を公開している。

(ちなみに『プロセスエコノミー』は、この回でボコボコに酷評されている)

 

Youtubeをライブ配信して、視聴者とやりとりしながら、本を発売する前からファンを育てていく。

本を酷評しつつも、プロセスエコノミーの学びを忠実に実践して結果を出している様は、まさに「ビジネス書の学びを実践する、お手本」といえるだろう。

 

ビジネス書を鵜呑みにするのは本当に危険

ここからが本題だ。

本書は「ビジネス書の教えを鵜呑みにするのが、いかに愚かなことか」を、溢れんばかりのエンタメ感とともに、突き付けてくれる。

ここが本書の一番の魅力である。

 

例えば、「今ちょっといい?」という掛け声について、『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』の次の文が引用されている。

トップ「5%社員」の一番多い発言は「今ちょっといい?」

『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』p140

普段から周りとこまめなコミュニケーションを取ることで、信頼関係を無理なく育てることができる。

そのためにも、「今ちょっといい?」が効果的なセリフだそうだ。

 

しかし、これと真逆の教えが書かれている本がある。

『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』だ。

この本によると、世の中には「相手をイラっとさせることを言っている自覚がない人」が多いらしい。

そのダメな一言の典型例として紹介されていたのが、「ちょっといいですか?」である。

理由は、「”ちょっと”の定義は人によって異なる。この認識のズレが人間関係を悪化させるから」だと。

 

この矛盾点を、堀元氏は次のように指摘している。

ここまでの話をまとめると、こうなる。
①トップ5%社員のいちばん多い発言は、「今ちょっといい?」。
②「今ちょっといい?」は相手をイラっとさせる言葉。

したがって、三段論法を使えば、この結論が導かれる。
③トップ5%社員は相手をイラっとさせている。

直観には反するが、これがビジネス書100冊分析から得られた正しい結論であることは疑う余地がない。僕はAI分析ではなく人力分析を使ったけれど、この分析で得た結論は確かなはずだ。

『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』p123

なんとも皮肉な分析だ。

この調子で堀元氏は

  • 雑談では意味のある話をしろvs雑談では意味のある話をするな
  • 嫌な人とは戦えvs嫌な人とは戦うな
  • ひとつのことをやり続けろvsひとつのことをやり続けるな
  • SNSは見るなvsSNSを活用しろ
  • 嫌な頼みは断れvs嫌な頼みでも断るな

といった矛盾点を、リズムよく面白おかしく、指摘している。

 

まさに「ビジネス書中毒の処方箋となる、最高のエンタメ本」といえる。

 

ビジネス書の教えは、文脈に依存している

本書が伝えたかった教訓は何だろうか?

それは「ビジネス書に書かれている技術や事例は、文脈に依存している。文脈を理解して使わないと、ビジネス書は役に立たない」ということだ。

 

例えば、日本を代表するマーケター森岡氏の『マーケティングは「組織革命」である。』には、次のように書かれている。

かつて私も幼稚なクセがあって、自分の作る戦略やプランは完全無欠に練り上げてから上司のところに持っていき、上司からの質問や突っ込みを全て論破防御するスタイルを主としていました。
(中略)
中には、私が頼ったり巻き込んだりせずに剛速球を投げてくることが嫌でたまらなかった上司とも巡り合いました。その頃の私は、何のためにこの人は、そんな反論のための反論のようなくだらない質問ばかりしてくるのだろうとイライラしていました。
(中略)
今の私であれば、自分の提案にわざと穴をいくつか開けておいて、上司にそこを指摘させて感謝して訂正し、そのプランを上司の付加価値も含めた2人のプランにする、というような芸当もできるのです。

『マーケティングとは「組織革命」である。』

この「自分の提案にわざと穴をいくつか開けておいて、上司にそこを指摘させて感謝して訂正し、そのプランを上司の付加価値も含めた2人のプランにする」の部分だけを切り取って、実践したとしよう。

 

「よし、自分もわざと提案に穴を開けて、上司の承認を勝ち取るぞ」と。

 

一般的なレベルのビジネス戦闘力で、この技術を真似すれば、おそらく

「何だ、この穴だらけの提案書は。ふざけてるのか?」とボコボコにされるだろう。

 

今のは極端な例だが、ビジネス書の教えを「文脈から切り取った状態」で使用すると、ロクな目に合わない。

 

「自分の提案にわざと穴を開けておく」

この技術は、「圧倒的な論理的思考力を持ち、そのキャラが社内で認知されている森岡氏」だからこそ効果的なのだ。

 

もし、この技術を実践したいのであれば、森岡氏と同じように「圧倒的な論理的思考力を持ち、そのキャラが周りに認知されている」必要がある。

 

もう少し方法論チックに書くと

  1. ビジネス書に書かれている事例・技術を把握し(提案にわざと穴をあける)
  2. 2の裏側にある文脈を理解し(森岡氏は圧倒的な論理的思考力を持っている)
  3. 3の文脈が自分にも当てはまるかを照らし合わせて(自分も圧倒的な論理的思考力を持っている)
  4. 「筆者の文脈≒自分の文脈」であれば、ビジネス書の教えを実践してみる

というプロセスを踏むことで、はじめてビジネス書の教えを再現できる。

 

この点を無視して、ビジネス書の教えを鵜呑みにしていると、

「”提案は準備が9割”って本で読んだぞ。抜け目ない提案書を作らないと」

「いや、提案が完璧すぎると、上司に嫌われるかもしれない。だから、穴をわざと用意しないと。『マーケティングとは「組織革命」である。』に書いてあったから、間違いない」

「あれ、穴を用意して提案したらズタボロにされたぞ。よし、次は『〇〇コンサル流 提案書の作り方』を読んでリベンジするぞ」

・・・と、ビジネス書に振り回されるわりになかなか良い結果を出せない「ビジネス書中毒」に陥ってしまうかもしれない。

 

「ビジネス書に書かれている技術や事例は、文脈に依存している。文脈を理解して使わないと、ビジネス書は役に立たない」

堀元氏の本は、この教訓を心に刻んでくれた「最高のエンタメ本」であった。

 

 

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(2024/4/21更新)

 

 

 

【プロフィール】

本山 裕輔

PwCコンサルティングを経て、現在はグロービス経営大学院でDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進中。

趣味で書評ブログ「BIZPERA(ビズペラ)」を運営。

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