新規事業を興すことは大変なことだ。スタートアップ企業にかぎらず、大手、中堅中小企業においても、「次のステージ」に行くために新規事業は大きな意味を持つ。

日本政策金融公庫の調べでは、「ここ10年で新規事業を行ったことのある会社」は、約4割に上る。

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また、「新規事業は9割失敗する」という都市伝説があるが、実際にはそんな低くない。岡山大学の調べでは、

”新事業開発は日本の主要企業を対象にした最近の調査でも重要な経営課題とされており,今後その重要性はますます高まると考えられている。

しかし,われわれの調査では,その成功率は景気が好調であった90年度で37%,バブル崩壊以後の急激な失速を経験した95年度では28%にすぎない。”

したがって、打率は約三割、といったところだろう。

ただ、いずれにしろ新規事業は失敗する可能性の方が高いということは言える。

 

 

なぜ新規事業は失敗するのだろう。頻繁に「マーケットの予測」や「人材不足」、あるいは「資金」の事が話題にされるが、実際に私が現場で観察した限りでは、主要な原因はそれとは異なる。

私が現場で見たことは次の3つだ。

 

1.短期的な予算を持たせて、潰してしまう。

立ち上げてすぐに大きな売上を生み出せる新規事業は殆ど無い。多くのケースは3年から5年、場合によってはそれ以上かかる。

”例えばTwitterのサービスは早すぎました。2006年当初はギークやネットに詳しい人しか使っておらず、芸能人や大統領が使うようになるスイートスポットに至るまでには数年間待つ必要があり、その間収入もなく、猫がメンテナンスしてる状態でした。

Googleの検索サービス開始も早すぎて、しかもCEOとなるシュミットが来るまで広告も大反対しているので同じく収入がベンチャーキャピタルだよりの状態で大規模Webクロールとサーバー処理をさばいてます。

Youtubeも早すぎです。創業以来Googleに買収されても単体では毎年莫大な赤字を垂れ流しつつ、Google所有のダークファイバーを使い現在の広告システムが受け入れられるまで長い道のりを歩いてます。

Amazonも早すぎました。ずっと赤字のまま問屋価格のような安売りを続け、10年以上たってやっと利益が出る頃になっても全額を技術とインフラ投資にあてて利益を出しません。

Microsoftなんて「最初に溺れろ」なんて標語があるぐらいフライングすぎます。Windowsも、Excelも、Wordも、IEも、DirectX(当時はGameSDK)も、Ver1.0の製品が全然使えないのです。Ver3.1とかVer5ぐらいでやっと安定します。

Appleも同じく、「S」のつかない 3G以前のiPhoneがスマホとして完成されてなかったり、当時SSDが高価で40万近くしたMacBookAirを買った人は、約半年後にちゃんとSSD性能が発揮できて10万も安くなる2代目が出てくるなんて思いもしなかったでしょう”

(出典:teruyastarはかく語りき セガは早すぎたから失敗したのではない。

大きな成功を生み出すために、資金や人材などよりも世間がそれに追いつくまでの多くの「時間」を必要とするケースが多々ある。

 

ピーター・ドラッカーは次のように言っている。

”個別の報酬の問題からも明らかなように、イノベーションの収益パターンは、既存の事業とは異なる。したがって評価測定の方法も異なるものにしなければならない。

既存の事業や製品については、毎年15%の税引前利益と年間10%の成長という目標は意味がある。だが、新しい事業については意味を成さない。ある意味では高すぎ、ある意味では低すぎる。

新事業は長い間、往々にして数年間は利益も成長ももたらさない。資源を食うだけである。しかし突然成長し、開発に要した資金の50倍以上を回収する。さもなければイノベーションとして失敗である。”

(イノベーションと起業家精神)

したがって、最初の数年間に渡って回収を焦り、予算を追わせるようなやり方は間違っている、と言わざるをえない。

「既存事業が傾いたから」といって慌てて新規事業を立ち上げても、遅いのである。

 

 

 2.責任者が疑心暗鬼になってしまう

新規事業が世の中に出るのは、製品・サービスを作り上げてからである。しかし、それまでには長い試行錯誤があり、また市場に投入してからも長い時間かけて認知をされていく必要がある。

だがその長い間に、「責任者が自信を失ってしまう」というケースがよくある。

「本当にこれでよいのだろうか?」

「失敗したら、俺のキャリアはどうなる?」

「もしかしたら、全てが無駄なのかもしれない」

そういった葛藤と常に戦い続けなければいけないのが、新規事業の責任者だ。

これには相当な精神力が必要なばかりか、社内的な批判の目、「あいつは何をやっているんだ」「遊んでいるだけじゃないのか」という圧力に屈することなく、己の道を貫く「度胸」が必要だ。

これがブレると、メインの商品の改良ではなく、「売り方」や「見せ方」など、「代理店の開拓」など瑣末なことばかりに時間を使い、肝心の製品がおろそかに、というケースがよくある。

 

 

3.新しい人に新規事業をやらせる

ドラッカーは、「外部から招いた人に、新しい仕事を任せてはいけない。新しい仕事はすでに評価が確立し、社内から信頼されている人物を当てなければならない。」と言っている。

これは、実際に本当によくある話で、「外部から詳しい人を招いて、新規事業をやらせよう」という企業が後を絶たない。

この場合に何が起きるか。

だれでも想像できるように、外部から招いた人が孤立し、支援を受けられないまま辞めていき、そのまま終了、というパターンがほとんどだ。

当たり前であるが、新規事業というのは、既存事業の人から見ると「遊んでいるようにみえる」のだ。

「おれたちの稼いだカネで遊びやがって」と既存事業のトップが漏らすのを、私は幾度と無く聞いた。新規事業をやっている人間と、既存で稼ぐ人間とはそもそも信頼関係がなければ不和は避けられない。

本質的に別のことをやっているのだから、論理的にはこのような議論まったくの無意味なのだが、感情的に納得できる人はほとんどいない。

だから、多くの場合「新規事業」と言うのは、特に中小企業においては、実績ある社長の腹心、もしくは社長のやるべきこととなる。新しい人に任せるなど、もってのほかである。

 

 

以上3つが、新規事業の立ち上げが失敗する大きな要因だと思う。くれぐれも注意されたし。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

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