私がまだ駆け出しだった頃。ある東京の中小製造業で見た話だ。
部長が激昂していた。
「何度言ったらわかるんだ!てめえ、仕事を舐めてんな。」
どうやら、上司の指示を守らず、何度も同じミスを繰り返したらしい。
周りの方々も凍りついている。
叱られた部下の表情からは、彼が何を考えていたのかをうかがい知ることはできなかったが、
その後も、彼は度々遅刻を繰り返し、ついには休職に至ってしまった。
私は「会社といえど、あんな汚い言葉で人を罵るのが許されるのか」と、暗鬱な気持ちになったことはよく覚えている。
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前提として、何かをやらせたい時、人を罵倒することは不合理そのものである。
まず、罵倒をして状況が改善されることはない。
改善のためには、「何が悪い」「次はどうすれば良い」を、実行可能な形で理解させなければならないが、感情的な罵倒はそれを遮る。
さらに罵倒された側は萎縮するか、または当人に対して恨みを持つ。
もちろんこれが、目的を達成する事にプラスに働くことはあまりない。
ではなぜ、不合理であるにもかかわらず、人を罵倒する人物がいるのだろうか?
ここには可能性が3つある。
1. 罵倒しても事態が改善されない、ということを知らない。
できるかできないかは、「やる気」「根性」の問題に帰着すると考えている人は、罵倒することが成果につながると考える傾向にある。
だが、ある物事が遂行可能かどうかは、多くの場合「スキル」や「能力」、あるいは「性質」に依存しているので、罵倒しても状況は改善されない。
2. 感情が先行して、合理的な選択ができなくなっている。
カッとなると、自分を制御できない、という方が世の中には数多く居る。
3. 目的を達成する事よりも、上下関係を明確にすることが優先されている。
罵倒する上司を側近が諌めた時、「何言ってるんだ、甘くするからつけあがるんだよ。」という言葉を吐いた上司がいた。
だが「つけあがること」と「目的達成」は関係がない。
むしろその上司は罵倒することで「上下関係を明確にすること」に力点をおいていた。
いずれの可能性を考えても、彼が上司として適切な行動ができていない、と考えたほうが良いだろう。
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肝心なのはここからだ。
では「罵倒」を彼らにやめさせることはできるだろうか。
これは、私がコンサルタントだった時の大きな課題の一つだった。
罵倒する人は、大抵は権力者であるから、行動を修正させるのは難しい。
また、「自分は絶対に正しい」という、強い思い込みを持っている人物が多く、人の話を聞かない傾向にある。
だが「罵倒する人」を組織から駆逐しなければ、成果をあげる組織、成功する組織を作るのは難しい。
そのために、実効性があり、かつ現実的な「罵倒する人対策」が、求められていた。
条件としては
・「クビにする」「左遷する」などの劇薬はできるだけ避ける
・「短期的に性格を変えるのは不可能」と言う前提に立つ
の2つだ。
そこで私は社内の専門家に相談し、事例を学んだ。
すると、すべての状況に対応できるわけではないものの、幾つかの施策が、ある程度(あくまで、ある程度)の効果を発揮した。
◯部下にメモを取らせること。
「罵倒する上司」に対して、部下にメモを取らせることで以下の2つの抑止効果があった。
・時間稼ぎ。カッとしている人にすぐに喋らせず、「申し訳ございません、メモを出します」と時間稼ぎをすることで、瞬間的な怒りが少し収まる。
・「あなたの言うことをよく聞いていますよ」という意思表示につながる
◯部下に、マメにコミュニケーションを取らせること。
早めの相談は、多くの上司と部下の摩擦を軽減できる。
また、罵倒される部下の多くは、上司とコミュニケーション不足であることが多く、それが上司の怒りを誘うことが多い。
◯上司に、カウンセラー的な存在をつけること。
多くの「罵倒する上司」は、誰かから別のパワハラを受けていたり、家庭に問題があったりと、別のストレスを抱えている可能性が高い。
彼の話をきちんと聞ける人を設定すると、部下への圧力もかなり和らぐ時がある。
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最近、妻が、スーパーで買物をしていた時。
ある母親と、その子供が売り場をせわしなく歩いていた。
母親は急いでいるらしく、子供はそれについていくのに精一杯。
ついに子供は転んでしまった。
すると母親は、
「何やってんだ、馬鹿野郎!」
と大声で言った。
妻は「母親のイラつく気持ちは分からないでもないけど、子供が気の毒だった。」
と言っていた。
子供は親を選べない。
いわゆる「毒親」のもとに生まれた子供は、不幸としか言いようがない。
それに比べて「毒上司」の悩みはそれなりに対策可能だし、いざとなったら逃げることもできる。
また、長期的に見れば罵声を浴びせるような上司は左遷されたり、クビになったりすることが多い(オーナー社長は例外だが)。
職場で罵声を浴びせられ、苦しんでいる人も多いと思うが、なんとかうまく切り抜けて欲しい、とつくづく思う。
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