SNS、とりわけtwitterを眺めていると、毒舌屋や皮肉屋が大袈裟なメンションを繰り返して人気を集めているのをしばしばみかける。

現代インターネットの風物詩といった光景ではあるが、彼らを眺めていると、立身出世についての現実法則めいたものを思い出す。

 

偉くなる人は、毒舌屋や皮肉屋ではない

社会人を二十年ぐらいやっていると、出世していく人・ぜんぜん出世しない人の明暗を何度か目にすることになる。

医者の世界には、研究分野の超絶才能でもって地位を獲得する人がいる。医者に限らず、超絶才能はどこの世界でも重宝するから、そういう人が地位を得ること自体は不思議ではない。

超絶才能は、人格的に破綻した人物すらサバイブさせ、それどころか出世すらさせる偉大な力だ。

 

だが、才能やスキルの凄さだけですべての人の出世や立場が決まるわけではない。

 

実力という点ではほぼ互角のA医師とB医師がいたとする。

A医師は野心があるようにも見えないのに順調に出世を重ね、厚遇を勝ち取っていく。

一方、B医師には大志があるのに出世がはかどらず、不遇を嘆くうちにだんだんフェードアウトしていく……といった風なことはままある。

私の聞き知っている限り、こうしたことは他の業界でも珍しくないようだ。

 

出世して厚遇を勝ち取る人と、そうでない人の明暗を分けるものはいろいろあろう。

けれども、明暗を分ける要素のひとつとして心に留めておいて良さそうな法則がある。それは、

 

「毒舌屋や皮肉屋は出世しない」

 

である。

 

Twitterなどで不特定多数のフォロワーを集める際には、毒舌や皮肉が役立つことが多い。

毒舌を面白がる人や皮肉をありがたがる人が、twitterにはたくさんいるからだ。毒舌屋と皮肉屋が言論バトルしているのを楽しみにしているオーディエンスもいる。

 

しかし現実社会では、毒舌をふるう人・皮肉を繰り返す人は出世しにくい。

少なくとも、たくさんの人の上に立つような地位に就いたり、たくさんの人に影響力を与え続け、大きなことを達成したりすることは、まずない。

 

彼らは気持ち良く毒舌や皮肉を披露し、ときにはそれが喜ばれることもある。

そのかわり、その毒舌や皮肉はときどき聴き手のモチベーションを奪ってしまったり、ときどき誰かを敵に回してしまったりする。

 

毎日のように口からこぼれる毒舌や皮肉が、目の前の聴き手を落胆させたり怒らせたりする確率はそれほど高くはあるまい。とりわけ、気の利いたベテランの毒舌屋や皮肉屋ならそうだろう。

だとしても、たとえば2%~3%程度の確率でも、毒舌や皮肉が聴き手に良くない心証を与えるとしたら、その心証の蓄積は案外バカにならない。

 

のみならず、その毒舌や皮肉が、その場にいない誰かに伝言されることによって、もっと広範囲の人間に悪い心証を発生させてしまうおそれもある。

たとえばベンチャー企業に勤めている皮肉屋が、公務員についての痛烈な皮肉を同僚に言ったとする。

社内の同僚たち自身には、そういう皮肉は刺さりにくいかもしれない。しかし、その同僚の友達や家族が公務員だった場合は、聴いていてあまり良い気分はしないだろう。

 

特定の趣味や宗教についても同様だ。

社内の同僚にアニメオタクやゲームオタクがいないつもりでオタクを皮肉っていたら、同僚の一人が隠れオタクだったとか、同僚の配偶者がその筋の趣味人だったとか、そういったことは往々にしてあり得る。

 

気持ち良く毒舌をふるった際に皆がウケてくれたからといって、どうして安心できようか。

ということは、twitterでブイブイ言わせている諸氏の真似事を現実世界でやるのは非常にリスクが高い、ということになる。

 

もちろん世の中には例外もいて、毒舌や皮肉を弄しているにもかかわらず高い地位に就いたままの人物も存在する。

だが、そういった人物は世襲やコネクションのたぐいで地位を獲得してしまっているタイプ、いわば既に出世する必要のない人なので、これから地位を得ようとする人は真似をしてはいけない。

世襲やコネクションを持たず、コツコツと人望を獲得して頭角をあらわしたい人は、毒舌屋や皮肉屋にならないよう、自分の言動に気を配っておく必要があるだろう。

 

「社内に適応するのに精一杯」な人もだいたい同じ

ここまでの話は、野心の無い人にもだいたい当てはまる。

むしろ、社内のコミュニケーションについていくのがやっとの人、自分の社内での立場が危ういと感じている人こそ、毒舌や皮肉を弄するのは最小限にしておく必要がある。

いや、最小どころか封じ手にしてしまってもいいかもしれない。

 

毒舌や皮肉がそのリスクに比してメリットが大きい場面なんて、どのみち滅多にないからだ。

日頃からコミュニケーションや立ち位置のことを心配しなければならない人が毒舌や皮肉でへたを打つと、ますますコミュニケーションが難しくなったり、立場が危うくなってしまったりする。ときにはそれが命取りになることさえある。

「自分は出世欲を持っていないなら毒舌や皮肉を言っても構わない」と考えるのは利口なことではない。

 

なぜtwitterには毒舌屋や皮肉屋が跳梁跋扈しているのか

では、twitterではどうなのか。

twitterで毒舌や皮肉を繰り返しているアカウントは、twitterを出世や人望のために使いたいとは思っていない。

また、何割かはアカウント自体が“無敵モード”になってしまっている人達なので、ここまで述べた問題を度外視できるのだろう。

 

また、twitterに限らず、不特定多数を相手取ったメディアでは「どれだけ敵を増やしても構わないから、熱烈な信者さえ増やせば収益が得られる」というルールがまかり通ることも多い。いわゆる「炎上商法」などはその典型である。

 

たくさんの人々から蛇蝎のように嫌われると同時に、熱烈なファンからカルト的に祭り上げられ、そこから収益を得ているようなアカウントなら、毒舌や皮肉を連発したほうが実入りは大きくなる。

オープンなインターネット上でたくさんの人々に嫌われることには、それ相応のリスクがあるように私には思われるのだが、少なくとも短期的には、そういったリスクを度外視して収益に転換できるのがオープンなインターネットの良いところ(そして恐ろしいところ)である。

 

そういう手法で収益をあげたいなら、twitter上で毒舌や皮肉を連発するのも一つの手かもしれない。普通のユーザーは絶対に真似するべきではないが。

 

「弱く見えるぞ」

それともうひとつ。

ふだんから毒舌や皮肉を繰り返していると、本当に何か言わなければならない時に、言葉が弱く見えてしまうおそれもある。

 

毎日のように毒説や皮肉を披露している人は、本当に何かを批判したいと思った時に本気で批判を投げかけても、「ああ、あの人また平常運転しているよ」以上の感想を持ってもらえないおそれが高い。

 

このあたりは「オオカミ少年」の寓話とそれほど違わなくて、嘘ばかり言っていると本気にされなくなるのと同じように、毒舌や皮肉ばかり言っていても本気で取り合ってもらえなくなってしまうのである。

 

肝心な場面できちんと響く批判をしたければ、日頃は言葉を慎んでおく必要がある。

日頃は言葉を慎んでおいて、ここぞというタイミングで・これぞという案件で批判したほうがインパクトがある。

軽はずみに毒舌や皮肉を口にしない人だからこそ、ごくまれに口にする毒舌や皮肉にインパクトが宿る。こういうインパクトは、デイリーな毒舌屋や皮肉屋には望むべくもない。

 

これから就職や異動のシーズンを迎えるにあたり、前途有望な人が、あまりよく考えずに毒舌屋や皮肉屋に堕していくのをみるのはしのびないので、届くべき人に届けばいいなと願いを込めつつ、この文章を書いてみた。

 

不用意な毒舌や皮肉は、世渡りを難しくするのでどうかご注意を。

 

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

 

【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)など。

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ブログ:『シロクマの屑籠』

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