いわゆる「ロジカルな人」と「自分の理屈を押し付ける人」の違いは何なのか、という話をします。

 

雨宮紫苑さんの、こちらの記事を拝読しました。

筋が通ったロジックでも、こっちが納得するかは別の話

店の売り上げアップのために、集客力がある人に客を集めてもらうのは当然だ。そのロジックはわかる。

でもわたしからしたら、おもしろくはない。

たかがバイトにそんな期待をされても困るし、みんなはスマホいじりながらおしゃべりしてるのに自分だけ働くのってバカみたいだし、がんばっても給料は変わらないし。

ロジック自体の筋が通っていたとしても、こっちが納得するかは別の話なのだ。

ファクトに基づくロジックでも、必ずしも相手を納得させられるわけではない、納得を得るにはゴール設定が重要だ、という話ですよね。

 

雨宮さんがおっしゃるところはもっともで、全体として異論はないんです。

ただ、別の言葉での説明も可能かな、というか、ちょっと角度を変えてこの「ロジック」についての話をしたくなりましたので、書かせて頂きます。

 

まず、この店長さんの発言について言うと、これはそもそも「筋の通ったロジック」ではありません。

より厳密に言うと、辞書的な意味での「ロジック(論理)」ではあるかも知れませんが、仕事で「ロジカルな人」と言われるような人が用いる「ロジック」ではありません。

それは何故かというと、「相手と自分の、それぞれの並立したロジックの間に補助線を引くことが出来ていないから」です。

 

以下、分かっている人にとっては当たり前のようで、案外認識していない人も多い話をします。

「ロジカル」という言葉は、辞書的な意味で言うと「論理的な」「合理的な」という意味になります。筋道だった思考が出来ているかどうか、という話ですね。

しかし、例えばビジネスで「あの人はロジカルな人だ」と言うような評価をされる人は、必ずしも「論理的な思考が出来る人」とイコールではありません。というか、それだけでは十分ではありません。

 

そこには絶対に、

・ロジックには「どれだけのファクトをカバー出来ているか」という守備範囲が存在し、一つのロジックで全てのファクトをカバーすることは出来ないということ

・自分以外の人もそれぞれのファクトに基づいたロジックを持っており、それは必ずしも「正しい・間違い」の関係ではなく、同じ程度の説得力、同じ程度の重要性で並立している可能性がある、ということ

・並立したロジックとロジックがそれぞれ矛盾している場合は、その間で何か落としどころを見つける為の補助線となるロジックが必要である、ということ

 

この三つの要件についての理解と認識が必要です。この認識を持っていない人であれば、いくら「ロジック」を構築することが出来ても意味はありません。

 

まず、極めて単純な事実として、「一つのロジックで、あらゆるファクトを考慮することは出来ない」という事実があります。

雨宮さんは、元記事で「ファクトベース」という言葉を使われています。

ファクトに基づいてロジックを考慮することは極めて重要です。

Aというファクトと、Bというファクトがある。だからCという結論が導ける、というような思考ですよね。

 

上の話で言う店長さんの言葉で言うと、

・12月までに目標に届かなかったら店が潰れる

というのがAというファクト、

・もっとも販促に長けているのが雨宮さん

というのがBというファクト。

 

結果、「目標を達成する為に、雨宮さんが集中して販促に入るべき」という結論が導かれるわけですね。

なるほど、確かにこれ単体として見ればロジックとして成立しているように見えます。

 

けど、このAとBと同様、

・雨宮さんと他のメンバーの時給が変わらない

・雨宮さんだけが高い負荷のタスクを遂行させられている

というのもれっきとしたファクトなんですよ。

 

そしてこのファクトは、「店の目標」というファクトとの重要性の格付けが行われていません。

店長にとっては「店の目標が最優先なのは自明」なのかも知れないですが、個々人のバイトがそんな前提は持っていない。

 

これに基づいて、「自分だけが働かされるのは不公平」という結論が導かれるのも、感情云々ではなくれっきとしたロジックなんです。

 

つまりこれは、「ロジックで相手を納得させることが出来なかった」話というより、「別々のファクトから導かれる二つのロジックの対立とすり合わせ不足」なんです。

この店長さんは、この二つのロジックの間に補助線を引くことを怠っています。

つまり、自分のロジックだけを相手に押し付けて、相手のロジック、そのロジックが含むファクトの考慮すらしていません。

 

自分にはファクトに基づくロジックがあるから、それに反対する相手は「考えていない」と認識しているわけです。

でなければ「ちょっとは考えろ」なんて言葉は出てきません。

その結果優秀なメンバーを辞めさせているわけですので、マネージャーの仕事としては失格の部類です。

 

これが仮に「ロジカルな人」であれば、相手のロジックと自分のロジックがそれぞれ違うファクトに基づいていることにすぐ気付きますし、「じゃあその二つのロジックを整合させるにはどうすればいいか」を考えます。

その一つの方法は、雨宮さんのおっしゃる「ゴール設定とその共有」なのかも知れません。

あるいは、「負荷が一人に偏ることを防ぐ為のタスク調整」なのかも知れませんし、「タスクが偏った分の報酬の調整」なのかも知れません。

 

こういう「対立したロジックの整合性を、更に別のロジックでとることが出来る人」を、ビジネスでは「ロジカルな人」と称する、という話なのです。

 

***

 

上記のようなこと、文章として読んでみると「当たり前やん」って思いますよね?

ただ、実際に仕事をして色んな人とお話をしていると、これ、案外認識出来ていない人もいるんですよ。というかすっごく多いです(自分のロジックを押し通す為に敢えて出来ない振りをしている、というケースもあるかも知れませんが、ここでは一旦それは置いておきます)

 

自分にとって、自分が認識している「ファクト」は間違いがないので、自分のロジックにも間違いがない。

だから、このロジックに賛成しないのは相手が間違っている、あるいは考えが足りていない。ロジックが理解出来ていない。

 

そう考える人、そこら中にいます。本当、どこでも観測出来ます。

自分が認識していない他のファクトが存在することに気付いていない。

あるいは、気付いていたとしても、そのファクトよりも自分が認識しているファクトの方が疑いなく重要だと信じ込んでいる。

 

これ、少なくともビジネスの上では、どんどん人望を失っていく要因でしかないんですよね。

自分では「ロジカル」なつもりだけど、単に「自分の理屈だけを押し付ける人」とみなされてしまうんです。

 

自分のロジックが通じていないな、と思ったら、まずなによりも「相手のロジックの中身は何なのか」「そのロジックはどんなファクトに基づいているのか」を考える。

そして、そのロジックと自分のロジックを整合させるとしたらどんな補助線が必要なのかを考える。

相手のファクトとロジックを尊重する。

 

「ロジカルな人」になるとすれば、それが必須要件ですよね、と。

そういう話でした。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

 

Photo by Roͬͬ͠͠͡͠͠͠͠͠͠͠͠sͬͬ͠͠͠͠͠͠͠͠͠aͬͬ͠͠͠͠͠͠͠ Menkman