もうずいぶんと前の話であるが、「良い営業を見分ける方法」を習ったことがある。
当時、私は営業としては駆け出しであり、「仕事を取ってくる」ということが具体的にどのようなことなのか、想像がつかなかった。
そうして手探り状態で仕事をしていたところ、たまたま会社でNo.1の営業の方と同行させていただく機会があり、その時に興味深い話を聞いた。
一緒にランチを取りながら、私は営業のコツをその方に教えてもらおうと、何気なく「営業って、何か極意のようなものがあるのですかね」とその方に聞いた。
今考えれば曖昧模糊とした稚拙な質問なのだが、その方は快く答えてくれた。
「そうだね…、極意はしらないけど、その人が良い営業マンかどうかを見抜く方法はあるよ。」
私はそんなに都合の良い物があるのか、と驚いたが、正直なところ半信半疑であった。
彼は私を見て、「疑ってる?もちろん例外はあるけど、だいたいこれは当たる」と言った。そして私に「なんだと思う?」と問いかけた。
「商品知識ですか?」
「それも大事だけどちがう。」
「レスポンスの早さ?」
「決定的なちがいではないね。」
「人あたりでしょうか?」
「もちろん人あたりは良いに越したことはないけど、それで売れるかどうかは別の話だ。」
私は考えていたことがことごとく否定され、困ってしまった。さっぱりわからない。見ると、彼は黙って食事をしている。どうやら簡単には教えてくれないようだ。
私は少し前に読んだ営業向けの本の内容を思い出してみた。たしかそこには「提案力」と書いてあった気がする。そこで私は
「提案力ですか?」と聞いた。
「提案力か…。安達さん、提案力って、なんのことかわかってる?」と彼は逆に聞き返してきた。
確かにそう言われると、提案力とは何なのか正確に定義するのは難しい。
私は苦し紛れに答えた。
「お客さんに喜んでもらえる提案を出来る人が、良い営業です。」
彼はそれを聞いて言った。
「うん、間違っていはいないけど、私が聞いたのは良い提案をする営業をどうやって見抜くか、その方法だ。その回答は抽象的すぎる。その人がお客さんに喜んでもらえる提案を出来る人どうか、どうやって判定する?」
「……」
私はまた困ってしまった。
「難しいよね。じゃ、そろそろ答えを言うよ。」
「はい。」
「良い営業かどうかは、「他社の製品やサービスも薦めているかどうか」でわかる。」
「他社製品?」
「そう。それができる人は良い営業。」
「なぜですか?」
「第一に、本当に顧客のことをわかっていなければそんなことはできない。第二に、長期的に信頼される行動をとっている。第三に、競合のことをよく研究していなければそんなことはできない。」
確かに、他社に良い製品があった時、無理に自社のものを売りつけるのは良くない行動だ。しかし、他社の製品をわざわざ薦めるまでしなければいけないのだろうか?
「お客さんの身になって考えてみれば、こんなこと考えるまでもない。お客さんは「一番いいサービス」が知りたいだけだから。それを教えてあげられるのが、本当の提案力。」
「たしかにそのとおりですけど、そんなことをしたら、成績が下がるじゃないですか。」
「良い営業は、そんなことくらいでケチケチしないよ。私の知っているオリックスのトップ営業は、自社だけではなくて様々な会社のカタログをカバンの中に詰め込んで、お客さんの悩みに合わせてそれを出している。」
「なるほど。」
「結果的に、「あの人の選定なら間違いない」と思ってもらえる。そうなったらもう売り込む必要もない。」
「確かに…。」
以後、私は目の前の営業のウデを知りたいときには、彼らの商品ではこちらのニーズを満たせない時の態度を見るようにしている。
無理やり押してくるか。できません、と言うか。それとも他社のものであっても良い物を薦めてくるか。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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(Photo:Lasse Johnsen)