「自由」を使いこなすのはとても難しい。それは、2つの難しさを内包している。私はある経営者からそう教わった。

 

とあるIT業界のスタートアップ企業に訪問した時のことだ。その会社はとても自由なように見えた。

服装は自由、出勤時間も自由。週3回、2時間ずつのチームミーティングにさえ出れば、いつ仕事をしても、どこで仕事をしてもよい。海に行こうが、山に登ろうが、ほんとうに自由なのだ。

オフィスもまた、開放的であった。

ソファーに寝そべって仕事している人、自席で一生懸命仕事している人、ゲーム部屋でゲームに興じている人、昼寝部屋で昼寝している人、料理を作っている人、大学の時、一人暮らしの友達の家に遊びに行ったとき、みんながたむろしている、あの感覚だ。

 

プロジェクトマネジャーに「皆さん、いつ仕事しているんですか?」と聞くと、「私も知りません。それについては関知しません。」という。

私は不思議に思い、

「皆さん、きちんと仕事しているんですか?」と聞くと、

「もちろん、納期はきっちりと守る人たちばかりです。彼らの責任感は大変なものですよ。」と回答があった。

なるほど、と思い、私は、現場の彼らに「なぜきっちり仕事できるのですか?」と聞いたが、彼らは皆一様に、「当たり前」と言うだけだった。

事実、彼らは素晴らしいプロダクトを作り上げ、高い収益をあげていた。

 

 

私はまたある別のIT業界の企業に訪問した。

その会社は、上に紹介した会社と異なり、普通の管理をしていた。一時期フレックスタイム制をとっていた事もあったが、「ダラダラしてしまう」という理由で、現在は廃止されていた。

自席で時間通り仕事をし、上司は上座に配置され部下に指示を出す。皆は一日の終わりには作業報告を書き、上司に提出し帰宅する。

仕事の生産性は注意深く監視され、問題がある社員には指導が与えられた。その甲斐あってか、皆きっちり定時に仕事を終わらせることができていた。

確かに「自由」はそれほど目立たなかったが、仕事を真面目にする社員の姿がそこにはあった。

 

私は何気なく、その会社の経営者へ前述したような自由な雰囲気の会社にするつもりは無いのかどうかを聞いた。

すると彼は、「昔やったことがありました。フレックスタイム制もその時に取り入れたものだ。でも、うちには合いませんでした。」と言った。

「どういうことでしょう」私は聞いた。

彼は、こう答えた。「「自由」は難しいですよ。」

「難しい?」

「そうですね、1つ目は、自由にしていいと言われると、何をしてよいかわからなくなる、という難しさ。自分でやるべきことを考えられる社員ばかりでないとうまく機能しない。結局指示待ちが増えてしまいました。

また、自由にさせると「放置しないで下さい」という訴えをする社員もいた。放置したつもりは全くないのですが、指示がないと不安になる人もいるようでした。

 

2つ目は、自由にしていいと言われると、堕落してしまう人の存在です。納期を守らない、手抜きした仕事をする、仕事をしない、そういった人々も残念ながら社員の中にはいました。

彼らを放置することは、全体のモチベーションを下げる結果となります。ただ、彼らだけを特別に管理することは公平の観点からは難しい。だから、「自由な会社」を作ることは諦めました。どちらであっても、経営はできますから。」

 

私が「そういうものなのですかね」と何気なく言うと、彼は言った。

「結局、「自由にやれ」は能力のある人でなければ難しいと思います。自分の行動に責任を取ることができ、言い訳をせず、きっちり成果を出すことができる。そんな人はほんとうに少ないと思います。人材の能力が違うので、表面だけ真似してもダメなんですよ。」

 

 

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東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券に入社し投資銀行業務に従事。
2020年に株式会社TOKIUMに参画し、当時新規事業だった請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の立ち上げを担当。
2021年にはビジネス本部長、2022年より取締役に就任し、経費精算・請求書処理といったバックオフィスDX領域を牽引。
業務効率化・ペーパーレス化の分野で多くの企業の課題解決に携わってきた実績を持つ。

安達 裕哉 氏(ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO)
Deloitteで大手企業向けの業務改善コンサルティングに従事した後、監査法人トーマツにて中小企業向け支援部門を立ち上げ、
大阪・東京両支社で支社長を歴任。2013年にティネクト株式会社を設立し、ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年には生成AIに特化した新会社「ワークワンダース株式会社」を設立。生成AI導入支援・生成AI活用研修・AIメディア制作などを展開。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計71万部を突破し、2023年・2024年と2年連続でビジネス書年間1位(トーハン/日販調べ)を記録。


日時:
2025/5/16(金) 15:00-16:00

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(2025/5/8更新)

 

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(Photo:Josef Grunig