この時期になると学生からの就職相談が増える。先日も面白い学生に出会った。
彼は都内の国立大に通う大学3年生だ。学生時代はサークルやボランティア活動に従事し、留学もした。自信に溢れているが嫌味な感じはない。
聡明で優秀な人材、という印象を受ける。
どのような会社を志望しているのか聞くと、どれも有名企業ばかりだった。
「僕、プライドが高いので有名企業に就職して、キャリアを積んでいきたいんです」彼は言う。
あまりにストレートなので「自分で言いますか…」と正直驚いたが、しばらく彼の会社や仕事に対する考えを聞いて、少し思うところがあった。
はたして優良企業に入ったら裁量のある仕事ができるのだろうか。
彼は「優良企業に就職したら、裁量のある仕事ができると思うんです」と言った。
確かにメディアで注目される会社の中には「新卒3年目でマネージャーに大抜擢!弊社は成果主義の会社です」と謳う企業もいる。
スナップ写真とシンデレラストーリーが掲載されており「この会社に入れば自分もきっとそうなれる!」と感じさせる。
しかし、皆が知る通りそれはウソではないが、ごく一部の例外だ。
実際には「この会社に入ったから裁量ある仕事ができる」のではなく、「信頼できる人に裁量のある仕事が任される」のだ。
どんなに有名な大学を卒業していても、サークルで活躍していても、信頼を得ていないうちにやりがいのある仕事は回ってこないのでは……と思う。
雑務は無駄なのだろうか。
彼は言った。「インターンは本当の仕事ではなく、雑務しかやらされないので時間の無駄です。」
本当だろうか。仕事に本当もウソもないのではないだろうか。
実際には新卒で入社したら任されるのは雑用ばかりだ。
たとえ雑用だとしても目の前の仕事に意味を見出し、いかに責任を持って一所懸命やるか。その姿を先輩や上司は見ているのではないか……と思う。
本当にやりたい仕事は、いつから始めるのだろうか。
彼は「本当は学習困難を抱える子どもたちの支援がしたい」と言った。
ただ、恐らく内心は「それを一生の仕事にするには不安がある」だろう。そして彼は、有名企業に行くという選択肢を選んだ。プライドを満たすために。
だが、それで本当に幸せなのだろうか。
NPOに行かずとも学習困難を抱える子どもたちの支援ができるような企業に興味はないのだろうか。それとも、この話自体を信用するべきではないのだろうか。
賢い彼は志望理由を時々で変え、相手の望む答えを提供できる。わざわざ私に話をしにくるだけの行動力とガッツもある。すでに優秀な営業パーソンだ。
ただ、「大丈夫かな」とも思う。結局のところ「人がどう思うか」だけに流されて生きているようにも見える。それが見抜けない企業の担当者でもあるまい。
このままでは有名企業はおろか、普通の会社の内定すら貰えないのではないだろうか。
就活で厳しい現実を目の当たりにし、妙なプライドほど邪魔なものはないと、どこかで彼が気づく時が来るのだろうか。
そうあって欲しいと願う。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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−筆者−
大島里絵(Rie Oshima):経営コンサルティング会社へ新卒で入社。その後シンガポールの渡星し、現地で採用業務に携わる。日本人の海外就職斡旋や、アジアの若者の日本就職支援に携わったのち独立。現在は「日本と世界の若者をつなげる」ことを目標に、フリーランスとして活動中。