先日、ある社長に「日本と海外の転職回数に対する考え方の違い」に関するエピソードを教えてもらった。

 

彼は新卒で日本の銀行に就職したが、3年勤めた結果「銀行は文化が合わない」と感じ銀行を飛び出した方で、

その後もいくつかの会社を転々とし、4回の転職を経て29歳の時にアメリカへ渡った。

 

 

アメリカで上司に叱られた

そんな彼のアメリカでの初仕事は「採用」だった。自分が「採用される側」は多く経験していても、誰かを「採用する」経験などこれまで一度もなかった。

とりあえず、大量に送られてくる履歴書を裁かなければならない。

だが、日本で年齢や性別で書類を落とすことは頻繁に行われているが、アメリカでは年齢や性別を判断基準にすること自体が有り得ない、と考えられている。

そこで彼は、「効率的な採用」をするため、これまでの職歴、特に一社の滞在年数で篩分け(いわゆる足切り)をすることにした。2年以内で転職を繰り返してきた人をすべて落とすことにしたのだ。

 

最初の篩分けを終え、上司に合格者の履歴書の束を渡したところ、不合格者の履歴書も見たいと言われた。

書類の束にさっと目を通した女性の上司は「なぜこの人たちを落としたのか」と聞いた。

 

彼は答えた。

彼らは2年以内で転職を繰り返しています。おそらく忍耐力が低く、飽きっぽい性格なのでしょう。採用したところでうちの会社もすぐ辞めてしまうでしょう。

「あなたの言いたいことは分かるわ。でも例えばこの27歳の彼。営業の経験も豊富で、その次の会社では企画・開発の経験も積んでいるわ。語学力もある。

うちが求める人材にピッタリなのに不合格?転職回数が多いことがそんなにデメリットなのかしら。

「……確かにそうですね。」

あなたは他の会社を見て面白そう、働いてみたいな、と思うことはないの?

 

 

彼はドキッとした。何を隠そう、彼自身、転職回数が多いことを引け目に感じてきたからだ。

若くして転職回数が多いと、日本ではどうしてもダメ人間レッテルが貼られてしまう。 でも、本当に自分はダメ人間なのだろうか?自分の心に正直に従って、都度しっかり考えて行動してきた結果転職が4回あっただけで、そんなレッテルを貼られるのはどこかおかしい。

そんな風に、自分自身が一番強く思っていたのだ。

 

「あります。実際に1〜2年ごとに転職をしてきたました。」

それってあなたが何をやっても続かない、忍耐力のない人ってことなの?

「……。」

むしろ積極的にチャレンジする行動力のある人とは考えないの?

彼は少し黙って考えた。

 

飽きっぽいのは確かだけど、忍耐力がないのか……。いや、決してそんなことはない。中・高バスケ部の辛い練習にも耐えたし、根性は結構ある方だ。

 

「いえ、そんなことはないと思います。どちらかというと、若いうちに色々なことに挑戦したいという想いの方が強かったです。だから、新しい環境に身を置けば何か新しいことに挑戦できるかと……。」

「でしょ?そうやって転職したまだまだ若い人を、なぜダメと決めつけるの?むしろ積極的にチャレンジする行動力のある人とは考えないの?」

「確かに、そう捉えられますね。」

 

「要は一社に長く勤める人が良いとか悪いとかの話ではなくて、うちの会社が今どのような人材を欲しているか、ということよ。

うちの会社は名もなきベンチャー。予想しないことが次々起きても、変化に対応しながら積極的にチャレンジし続けていかなければならないわよね。

そんな会社に必要なのは、どんな人材?転職を繰り返す若きチャレンジャーこそ、うちが今必要としている人材かもしれないわ。

一社の滞在歴が長いだけで素晴らしい人材なんて偏った判断はせず、もっとフラットな物差しで判断するべきよ。

 

国が変われば、ここまで見方が変わるものなのか。彼は感心しながら、自分が肯定されているような気分になり嬉しくなった。

「20代なんてそんなものなのよ。20代は、仕事に限らず、何でも隣の芝が青く見えるものよ。はい、やり直し。」

そう言って上司はニコッと笑った。

 

 

転職回数が多い=キャリアアップをしっかり考え実行してきた証拠

このエピソードは、私自身が日頃から抱いている疑問に対し、一つの答えを教えてくれるものだった。

 

日本ではなぜか転職はあまり良くないことと捉えられがちだ。しかし、オーストラリアやシンガポールをはじめ、欧米文化が浸透している国では、転職は良いことと捉えらえる。

なぜなら、転職回数が多い=キャリアアップをしっかり考え実行してきた証拠と捉えられるからだ。

 

このような違いが生まれる背景には、日本と海外の制度や働き方の違いがある。日本は(多少崩れてきているとはいえ)基本的に終身雇用で、労働者の権利は法律でしっかり守られている。

 

一方欧米文化圏では、いつ解雇されてもおかしくない制度になっている。経営者レベルでさえ、ある日突然クビになる。部屋に呼ばれたら最後、そのままデスクに戻ることさえ許されないこともあるそうだ。

 

このような状況では「出勤態度や会社への忠誠心を示して、いつまでも会社に居座ろう」という発想にはなりにくい。

働く側は、今所属する会社以外の選択肢を持てるよう、常にキャリアアップやキャリアチェンジ(転職)のチャンスを伺っているのだ。

 

 

まとめ

転職は悪いことではない。そもそも企業の寿命が年々短くなっている昨今、定年までに転職は数回発生する。

自分が何をやりたいのか、何に向いているのかわからないけど、とにかくエネルギーに満ち溢れる20代・30代が転職を重ねることは、世界規模で見ればごく自然なことだ。

転職回数が多いからダメだとか、逆に一社だから安心だとか、そんな表面的なところで悩む必要はない。この話に登場する社長だって、20代の頃に転職を繰り返したが、今では10年以上立派な経営を続けいている。

 

採用を担当する人事や経営者は人を見抜くプロ。 あなたがどんな人物かは、今のあなたの表情や佇まいから伝わってしまうものだ。

履歴書の見た目でなく、あなた自身の中身で勝負をしよう。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
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(2025/6/2更新)

 

−筆者−

大島里絵(Rie Oshima):経営コンサルティング会社へ新卒で入社。その後シンガポールの渡星し、現地で採用業務に携わる。日本人の海外就職斡旋や、アジアの若者の日本就職支援に携わったのち独立。現在は「日本と世界の若者をつなげる」ことを目標に、フリーランスとして活動中。

個人ブログ:U to GO