現代では「知的能力」は特にビジネスにおいて大きく評価されている。
「知識労働者」が増えるに従い、知的能力のアドバンテージが大きな富を生み出せすことに皆が気づいたからだ。だから皆、学歴を気にするし、教育格差を社会問題として取り上げる。
中には「知的能力がほとんど遺伝で決定されるから、社会的な成功は生まれる前からほぼ決まっている」という極論を唱える人物まで散見される時代となった。
だが、ビジネスに知的能力というものがそこまで重要なのか、といえば、私は懐疑的である。おそらく知的能力はあまりにも過剰に評価されている。
天才がいるとか、知的能力がビジネスの成否を決める、とか、経営陣が高学歴である、とか、そのようなことはすべて、「うちの営業マンは根性があります」というのと、中身においてさほど変わりはない。それは、数ある強みの1つであるにすぎない。
まして「世界は一握りの知的エリートによって支配される」など、SFの読み過ぎである。確かに能力による格差は広がるだろうが、それは「知的能力」によるものではない。
皮肉にも、「知識労働者」という言葉を生み出したピーター・ドラッカー自身は著書※1の中で「知力や想像力や知識は、成果の限界を設定するだけ」と述べた。
頭の良い人間であっても、成果を出せるかどうかはそれと関係がない。
ハーバード卒であっても、AIというテーマでで博士号を取った人間であっても、それは知的能力の高いことの証明ではあっても、仕事で成果が出るかどうかの証明にはならない。
実際、私の経験の中でも「知的能力を過剰に評価する人物」は、大した成果をあげることができていなかった。
知的能力が高く、論理は立派なのだが、実践ができない、継続ができない、誤りを認めない、素直ではない、勉強しない、そういった人物は、結局何事も為すことはなかった。
彼らは物事がうまくいかないと、「コンセプトがマズい」「戦略がマズい」「マーケティングがマズい」という。だが単に行動の量と、継続するだけの工夫が足りないだけだった。
時には「計画通りにできない社員がダメだ、客がダメだ」と言い出し、周りを困らせたものである。彼らは「ビジネスの成否は、知的能力とは関係がない」という事を受け入れなかったのだ。
才能に恵まれていながら、実にもったいない話だ。
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では、ビジネスで成果を出す上でほんとうに重要なことはなんだろうか。様々な考え方があるだろうが、私が1つの真理だと思ったのは、あるプロジェクトの、打ち上げの時の会話で聞いたことだった。
「どうしたら、マネジャーみたいになれますか?最年少でマネジャーになったの、先輩ですよね。」
「まあね。」
「どんなやり方をしたんですか?」
「やり方ね……。一所懸命やるだけ。」
「本当にそれだけなんですか?真面目に教えてください。」
すると、マネジャーは新人に向き直って言った。
「個人的な目標は、持ってる?」
「え……、どういうことですか。」
「いや、そのまんまだよ。個人的な目標はあるのか、と聞いてるんだ。」
「もっと稼ぎたい、とか、楽しく仕事したいとか、そういうことですか?」
「ああ、それは目標じゃなく願望っていうんだ。」
「……何が違うんですか?」
マネジャーは言葉を選んでいるようだったが、こう言った。
「リアリティがない。稼ぎたいって、本気で思ってる?」
「……正直、まあ、なんとなく、って言うレベルです。」
「仕事はね、そこなんだよ。「なんとなくやりたい」とか「なんとなくできるようになりたい」って言う人は、ダメ。」
「どうしたらいいですか?」
「ないのか、目標。」
「ま、まあ、なくはないですけど。」
「どんな夢だ。」
「年収で一千万は稼げるようになりたいです。」
マネジャーは身を乗り出した。
「どうやって?」
「わかりません。とりあえず給料を上げたいです。」
「それはまだ、単なる願望だな。まだ「給料が上がればいいな」と思ってるだけだ。」
「どうしろっていうんですか。」
「いいか、仕事で成果出す奴は願望を目標に変えてるんだよ。自分で考えてな。考えてみろ、年収一千万なんて給料は、この会社で無理だ。ウチは普通の会社だからな。」
「そんなこと言われても……」
「具体的に考えるやつだけが、仕事も、人生も成果を出すんだよ。これは才能じゃなない。ハートの問題だ。真剣な姿勢なんだよ。もちろんこんなことしなくたって、人生楽に生きられる。どっちを選ぶかはお前次第だよ。」
「転職したほうが良いんでしょうか。」
「そんなこと、オレもわからん。まあでも、転職活動してみたら?年収一千万もらえる人間になるために、何が足りないか見えるんじゃないか?」
「あ、具体的に考えるって、そういうことですか。」
「仕事ができる奴は「具体的に何が足りないか」を動きながら考える。オレはマネジャーになりたかったから、目標達成とか上司への売り込みとか、地道にやった。まあ、ただ大抵の奴はあれこれ想像するだけで動かないし、具体化もしないし、継続もできない。それはあくまで「願望」であって「なったらいいな」程度にしか思っていないからだ。」
「……。」
「所詮、会社員の仕事だからな、誰でもできるんだよ。だからさっき聞いた。オマエは何をしたいのか。具体的に決まっている奴が、成功するやつだ。夢物語に逃げたりしないでな。」
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私はこの話を聞いて以来、「その人の持つ目標の具体性」について、強い興味を持つに至った。それは仕事の能力の有無の判断基準であることは間違いない。
結局、できる人たちはひたすら現実的に考える人たちなのだ。
(2025/7/14更新)
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。
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第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは
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自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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