よく世間では『田舎は人情味があって暖かいのに、都会の人は冷たい』という。これは『縁』について正しい理解をしていないが故の発言だと僕は思う。

以下に人が生きるにあたって必要な三つの資本についての解説と共に、この言葉の真意について詳細に記載していく。

 

人が生きていくには三つの資本が必要

作家の橘玲氏は人が生きていくにあたって、三つの資本が必要だと述べた

(参考→「最貧困女子」のように「貧困」に陥るリスクが高い男女のタイプとは? )

 

一つ目が人的資本。これは働いてお金を稼ぐ能力である。

二つ目が金融資本。これは(不動産を含めた)財産

三つ目が社会資本。これは家族や友だちのネットワークだ。

 

この三つの資本をどうにかやりくりする事で僕達は生活をおくっている。

 

この三つの資本のうち、前二つがダイレクトに金銭にかかわるものであり、生活に必然的なものだという事に異論がある人はいないだろう。その一方で、三つ目の社会資本は一見生活に必要なさそうに見える。しかし社会資本は極めて重要なものである。

 

例えばだけど、田舎の給与基準は都会と比較してだいぶ低い。あなたが大地主の子孫で、無茶苦茶にお金をもっているのでもない限り、その一般的にはあまり高くない給与で上手にやりくりしていかなくてはいけない。

 

そうした時に社会的資本は極めて重要な役割を果たす。家を借りるのならば、シェアハウスのような方法を用いて大きな部屋を複数人で借りれば随分と安あがりになるし、食材も大量に仕入れればそれだけ安く買う事が可能だ。仕事を無くしてしまった時、あなたに家族や優しい友達がいたら一時的になら居候を頼み込むことも可能だろう。

 

どうしようもなく困ったとき、結局頼れるのは家族や友達といった同胞しかいないのだ。よき社会的資本を持つ事は、生活の上でのセーフティーネットを持つ事に他ならない。

 

人はこの社旗的資本を『愛情』や『友情』、『縁』という言葉でしばしば形容し、その素晴らしさを説く。冒頭の『田舎は人情味があって暖かい』という言葉がそれを端的に表している。

 

社会的資本の負の側面

このように一見いい事ずくめのようにみえる社会的資本だけど、同時に面倒くさい一面も有している。トラブルが全くない家庭など存在しないのと同様、人が集まると基本的には問題がおきる。

 

この例が顕著にあらわれるのが教育機関だ。若者は人的資本も金融資本も持たないが故、それを獲得するために学校に通わなくてはいけない(何か芸がある人は例外だけど、基本的に人がよい職を得る為には学問を習得するのが一番手っ取り早い。簡単にいえば、中卒よりも大卒の方がいい職につきやすいという事である)

 

そうして集められた人間によりクラスがつくられ、そこで多種多様な人間関係が形成される。俗にいう、スクールカーストというものである。

 

このパワーバランスは一度固定されたら基本的には二度と変わらない。学園のアイドルはずっと学園のアイドルだし、いじめられっ子はずっといじめられっ子のままだ。

 

当たり前だけど、人は他者からよい評価をもらいたい生き物である。永遠にいじめられたい人間など、存在しないだろう。と、いうことはだ。このように偶然入った地域社会で形成されたカーストが固定化されるのならば、勝ち組はずっと勝ち組でいたいはずである。こういう人間は地元における『縁』を極めていいように評価する。そして地元を深く愛す。

 

一方、偶然入ったコミュニティで著しく低い評価をつけられたものは、基本的にはそのコミュニティから脱出したいはずだ。そういう人間は地元での『縁』をリセットしたいが為に、様々な手法で再度別のコミュニティへの所属を図る。あるものは勉学を、またあるものは創作活動を、あるいはスポーツを頑張り、新天地での新たな格付けを得ようとする。

 

そういう人間が目指す先として、都会という場所はすこぶる理想的な土地である。そこには素晴らしい職業もお金もゴロゴロ転がっている。おまけに素晴らしいことに、ほとんどの人に対してこれらのコミュニティは開放的だ。生まれも育ちも関係なしに、努力という一点のみでそれらを抱えているコミュニティに入り込むことができる(例えば大学受験なら、ぺーパーテストを通過しさえすれば誰にでも一流大学に潜る込むことが可能だ)。もちろんそれらは簡単には得る事ができないものではあるけども、少なくとも何らかの努力をすれば手に入れられるという事実は動かない。

 

先ほどもいったが、地元における格付けは基本的には一度固定されたら二度と覆られない。一念発起していくら勉強を頑張ろうが、いくらファッションセンスを磨こうが、一度ダサイ奴という評価が確立したら、もう二度と上には登れない。

 

けどそれを覆す方法がたった一つだけある。それが所属空間を変更する事だ。新しいコミュニティにおいて、そこにいる人々は基本的にはあなたの過去なんて気にしない。今そこにいるあなたが全てである。都会という空間は、あなたにやり直すチャンスを与えてくれる場所なのである。

 

社会的資本を再選択できる事こそが、都会という空間のメリットである

ここまで書けばもうわかっただろう。都会の人は冷たいのではない。地元と違い『縁』がリセットされただけなのだ(地元だって、縁もゆかりもない人間だったあなたには冷たかったはずだ)。

 

地元でうまくなじめていた人からすれば、『縁』がリセットされた都会はもの凄く寂しい場所にみえるだろう。だけど地元で著しく低評価を下された人からすれば、ゼロから再出発できる都会という空間の素晴らしさを涙が出るほどありがたいものに他ならない。

 

都会という空間は、努力により『縁』を再選択できる場所なのである。努力と能力で所属先と縁を再選択できる自由こそが現代の素晴らしさであり、士農工商という生まれや育ちといったものを万人が乗り越える事ができるこのシステムは、現代社会の美徳であろう。

 

それ故に、私達はこの素晴らしいシステムが機能している社会から受けた恩恵を忘れてはいけない。今のあなたがあるのは、まぎれもなく日本という国家や社会保障、あなたをうんでくれた両親、地域に根差した人々の愛があったからである。

 

人は一人では生きていけない。人は、一人では自立する事ができない。社会というシステムがあるからこそ、私たちはこうしてよりよく生きる事ができるのである。余裕ができてからでかまわないから、あなたを育ててくれた社会にキチンと恩返しをしよう。

 

最近も熊本で大きな地震が起きた。現地の人々は想像だにしなかった苦境に直面しているはずである。自然は時として理不尽なまでの暴力をふるう。だけど僕たちは助け合う事ができる存在でもある。そのことを忘れずにいたい。目に見えない人に時として救われ、目に見えない人を時として援助する。そういう同胞への愛が、社会をより生きやすいものにするのである。

 

よりよい社会を築く為にも、『困ったときはお互い様』という心がけを忘れずに持ちたいものである。

 

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(2024/4/21更新)

 

 

プロフィール

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

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