一般的にリーダーをヒラ社員に戻したり、部長を課長にしたりする「降格」が行われている会社は少ない。

降格することが本人のプライドを傷つけたり、ヤル気を損なわせたりすることを経営者が危惧するからだ。

 

 

しかし、中にはこれをうまく使っている会社もある。

あるテクノロジー企業では「降格」を人事制度の一種として普通に用いており、社員からも普通に受け止められている。

なぜ彼らは降格をうまく使うことができているのか。

 

 

 

 

その会社の経営者は30代半ばである大手企業から独立し、起業したやり手だ。

 

彼は独立する前、大手企業で働いている時、常にこう思っていたという。

「有能な管理職が少ない、なぜ、あれほど多くの無能な上司が上に立っているのか?上が入れ替われば、もっと事業はうまくいくのに」

 

彼は社内で「できる」とされる役員に、この質問をぶつけたという。するとこんな答えが返ってきた。

「うちは年功序列だからな。必ずしも有能な人が上に行くとは限らないさ。」

彼は食い下がった。

「では我慢しろってことですか?」

 

すると役員は答えた。

「問題は二つ。一つ目は他に適任者がいるかどうか。そしてもう一つの問題は降格した後に、彼らをどうするか。……クビにするかい? まあ、それもアリかもしれないが。」

 

彼は言った。

「今の部長は仕事をしていないじゃないですか。それと、クビにする必要なんてありません。今やっている仕事の内容にあった地位にすればいいだけです。」

役員は笑った。

「そうだな。そのとおりだ。お前が社長になったら、それをやるんだな。」

 

彼はそれを聞いて、独立する決心をしたという。

ありがたいことに、その役員は

「お前みたいな奴は、独立した方がいい。頑張れ」

と応援してくれ、仕事まで出してくれた。

 

 

 

独立後数年たち、彼のがんばりで会社は軌道に乗りつつあった。

 

社員も30名程度と増え、「そろそろマネジャーが必要だ」と彼は考えた。

だが、彼は前職の管理職に対する強い不満を思い出した。「有能な人物しか、管理職にしてはいけない」と、彼は考え、その時点で最も適任だと思われる人物にマネジャーを任せた。

 

管理職を作って1年目は全員が成果を出した。だが2年目、3年目ともなると、徐々に管理職の中でも差がついてくる。彼はすぐに、成果を出せてない、能力が足りないと目されるリーダーを降格し、ヒラ社員に戻した。

 

ところがその後起きたことは衝撃だった。

降格されたリーダーは会社を辞め、他の社員までもが不満を持つようになった。「横暴な経営者だ」「人の気持ちを全くわかっていない」との批判も耳に入ってきた。

正確に言えば、中には「良い人事でした」という人もいたのだが、多くの人が「間違った人事だ」と感じたのだった。

 

 

「なぜ皆、成果を出せないリーダーを降格させることにたいして不満を持つのか」

と、彼は不思議だった。

またさらなる衝撃として、「私も辞めたいと思います」と成果を出しているリーダーまでもが会社を辞めたい、と言ってきたのだ。

 

彼は途方に暮れてしまった。結局のところ、人事に関しては何をどう動かしても不満が出るのだ。

だが、彼は諦めなかった。

 

彼は、人事制度を再設計することにした。今までの人事上の「常識」と言われることをいったんすべて白紙に戻し、ゼロから考えなおすことにした。

事例を調べ、他社の経営者の話を聞き、社員の批判に耳を傾けた。

 

 

 

 

そしてあるとき、彼はふと、

「なぜウチで降格があった時、本人だけでなく他の人物も不満を持ったのだろう?」

という疑問について考えた。

 

彼は長いこと考えぬいた末、

「これは合理的、というよりも感情が優先されているのではないか。すなわち「可哀想だ」という感情、「降格されて恥をかかされた」という感情、そして「自分もそうなるのでは」という恐怖が、波及したのではないか」

という一つの結論にたどり着いた。

彼は理解した。「人事は、合理性だけで考えてはダメであり、人の感情に十分な配慮が必要である」と。

 

すると、次は解決策が必要だ。彼はこう考えた。

「管理職を固定的なものにすると、それは「身分」とみなされる。身分を剥奪すれば、当然のことながら感情的に反発するだろう。なにせ人間は既得権を手放すことが苦手だ。

したがって、管理職を「身分」ではなく「プロジェクトリーダー」のよう一時的なものにすべきだ。」

と彼は考えた。「そもそもウチのように変化が激しい業界では、「事業」や「部署」すら固定化すると危ない」と彼はいう。

 

 

結局、彼が会社で採用した制度は以下のとおりである。

 

まずは「部長」「課長」などを全て廃止、すべての役職を「プロジェクトリーダー」と統一した。そして全てのプロジェクトリーダーに「任期」を設定した。

自薦他薦は問われない。自薦他薦のあった中から、経営者と役員が、望ましいと思われるリーダーを選定する。

 

任期が終わるまではどのような成果であっても責任は問われない。全てが「自分の責任」において成される。また「リーダー手当」はかなり大きい額とし、リーダーという職に対して適性な対価を支払うようにする。

 

 

この方法を採用すると、会社は様変わりした。

・リーダーが固定でないので、事業の成長と変化に応じ、適切なリーダーが選定される

・特に女性がライフステージの変化によって「働き方」を柔軟に選べる

・既得権が、定期的に見直される

・「身分の安定」を求める社員が去り、実力に自信のある社員が残る

・時代に合わせた最適なスキルを持った人間がリーダーとなる

・リーダーが評価者となるので、「現場の仕事を知らない人が評価する」ことはなくなる

 

 

そして、彼はある一つの本質に行き当たった。

それは「会社の中に安定した既得権」を作ることが「悪」なのだと。挑戦心を失わせ、社員のヤル気を後退させ、能力開発を怠るようになる。

「機会均等」「常に逆転可能」をいかに作るか、が会社を活性化する本質だと。

 

 

この会社は「降格」という直接的な表現は使っていない。しかし「任期」を迎えると、自動的に管理職から解任されるという点では降格である。

 

一昔前は、会社の事業はそれほど流動的でなく、一人の管理職が永きにわたって活躍できた。だが、現在の企業は本質的に事業が流動的であり、脆弱である。また、求められる能力の変化が大きい。

会社内の「管理職」という制度も、それに合わせて変わりつつあるのかもしれない。

 

 

 

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(John Mueller)