今までに「上司の説得をしなければならない事態」に直面したことがあるだろうか。新人のうちは少ないかもしれない。「言われたことをする」のが最優先だからだ。

だが、ある程度仕事ができるようになるにつれ、「上司の説得」が1つの大きな仕事となる。営業の施策、人事評価の決定、新技術の導入、大きな費用を伴う決裁など、上司を動かさなければ何もできない仕事が増えてくる。

 

その際に「上司を動かせる」人は、間違いなく仕事ができる人だ。

考えてみれば、当たり前かもしれない。最も身近で働いている人の一人である上司一人説得できずに、あなたの試みが成果を出せるはずがないのだ。

従って「上司はわかっていない」という言葉は最悪の逃げ口上である。「まずは上司にわかってもらう」のが部下にとって最初の仕事なのだ。

 

だが「上司の説得」が上手な人はそれほど多くない。多くの会社で説得術を教えないということもあるが、上司が「自分を説得する技」など教えるはずもないからだ。

だが、実は「上司説得の基本形」はどの会社でもそれほど変わららない。もし上司と衝突ばかりして仕事が進まないのであれば、以下の手順を試していただくことをおすすめする。

もちろん、万能の処方箋はない。相手は人間であるから、時々の反応を見て手を変えるべきだ。それでも「基本」を知っておくことは、何らかの役に立つはずだ。

 

 

1.1対1で話す機会を作る

上司の心理を理解すれば、説得の際には必ず1対1で話すべきだ。他の人が聞こえる場所で説得を試みてはならない。

理由は2つある。

まず、あなたの話を特別に聞きいれた、と他の部下に思われたくないからだ。これは公平感のためである。そして2つ目は、あなたに説得された、と周囲に思われたくないからだ。これは上司の見栄のためである。

何はともあれ、まずは上司が素直に聞けるムード作りから入るべきなのだ。

 

 

2.説得ではなく「上司の見解の確認」から入る

さて、ようやく1対1で話ができるムードができたとしよう。ようやくあなたの熱い思いをぶつけることができる……は、絶対にやってはいけない。

実際、熱い思いをぶつけるのは、愚の骨頂だ。上司に限らないが、人は熱い思いをぶつけれられると内容の確認以前に、戸惑ってしまったり、恐怖を感じたりする。

熱い思いが功を奏するのはドラマや映画の中だけだ。

では、話をどのように切り出すか。最も優れているのは「意見がほしいのですが、きいていただけないでしょうか」である。つまりあなたのスタンスは説得ではなく、アドバイスを貰いたい、である。これが最高の話の切り出し方だ。

すると上司の態度は軟化する。人は説得されたくない生き物であり、相談されたい生き物だ。

 

 

3.「意見の相違点」から入らない。「意見を等しくする点」から話を深める

あなたは上司の見解を確認した。その中で意見を等しくする点と、意見の相違がある点がわかるだろう。

あなたはすぐさま意見の相違を解消しようと、上司に自分の意見をぶつける……のは、これもまた愚かな行為である。説得の際には、意見の相違から話を始めてはいけない。余計に溝を深くするだけである。

真に必要なのは「意見の一致を見るところ」から話を始めることだ。

 

例えば、営業成績が振るわない部署が新しく始める施策として、あなたは「既存顧客の深耕」を掲げたとしよう。しかし上司の見解を確認した所、上司は「新規顧客の開拓」を挙げたとする。

その際に、上司の「新規顧客の開拓」を否定し、「既存顧客の深耕のほうが優れている理由」を挙げるのは、それがいかに客観的データにもとづいていようが、現場感覚として正しかろうが、やってはいけない。

話を始めるべきは「新しい施策が必要だ」という見解の一致している部分からなのだ。

 

「部長、新しい営業の施策なのですが、既存顧客の深耕を考えていたのですが、部長の意見をお聞きしたく。」

「私は新規顧客開拓を最優先にすべきだと思っている。」

「なるほど、……部長も新しいことを始めることが必要だと考えておられたのですね。私もそうです。」

「それはそうだ、今のままという訳にはいかないだろう。」

 

話は共感から始めなければならない。出発点が異なる場合は話し合いにならない。データでねじ伏せようとしても嫌われるだけである。

 

 

4.先に上司の意見を受け入れる

説得に際し、もっとも重要なのは雄弁さではない。なぜなら、相手はあなたが主張すればするほど、自分の意見に固執するからだ。

説得は一種の取引であるから、Win-Winとなるために、一度あなたは上司の意見を受け止めなければならない。

つまり、以下のようにする。

 

「部長は、なぜ新規顧客開拓が最優先だと考えているのですか?理由が知りたいのですが……」

「既存顧客から更に受注をもらうのは、うちのお客さんの懐具合からして、難しいだろう。」

「なるほど」

「既存顧客を回る時間はない。新規顧客開拓を最優先にして、全力を尽くしてほしい。」

「なるほど、新規最優先は必ずやります。」

 

よほど器の大きい人物でない限り、説得は味方からしか受け付けてもらえない。一旦上司の案を受け入れることで、あなたを上司の敵ではなく、味方とするのだ。

 

 

5.上司に案を出してもらう

ここが最後の踏ん張りどころだ。やるべきは、上司の案を受け入れつつ、自分の案を通すやり方を上司に考えてもらうことである

 

「そうすると、1つご相談があるのですが、よろしいですか?」

「なんだ」

「既存顧客をずっとケアしたいと考えていたのですが、なにかよい案はないでしょうか?もちろん、新規顧客開拓を行った上で、という話ですが。」

「うーむ。そうだな、新規顧客開拓を行ったアポのついでに、その近くの既存顧客へ顔出しくらいはできるだろう。それなら一石二鳥だ。」

「あ、なるほど!」

「そうだな、それなら部署全体でもできそうだ。なかなかいい意見をくれて助かるよ。」

 

説得はあなたが行うのではなく、上司が自分自身で行う。

これが上司を説得する手順の本質だ。

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

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